彼我の境界を問いかける、多くの魅力に満ちたパラフィクションSF!!

小説としての多くの試みに溢れた作品です。
メタフィクションとパラフィクションを内包する構成、そして小説ジャンルそのものを越境していく手法には瞠目せざるを得ません。

本作品は読み手にさまざまな境界のあり方を問いかけます。それはライトノベルと純文学の境界であり、自己と他者の境界であり、読者と作者との境界であり、生と死の境界であり、現実と超現実の境界であり、彼と彼女と彼女(……と彼'と彼女'?)との境界でもあったりします。

加えてキャラクター小説としての魅力も備え合わせており、純文学作家としてデビューしたものの創作的な難局に直面する主人公、情報工学の研究に没頭する中で主人公に関心を示す美少女科学者、主人公の許嫁で知的かつ高飛車な良家のお嬢様……と、ライトノベル的な興味へのトリガーにも事欠きません。また、AIを題材としたSF的設定のつくり込みも緻密です。

同時に若手作家の苦悩を主軸としたいわゆるお仕事小説としても楽しむことができ、そういった意味では小説を書いている方にこそ(もちろん純粋に読者として楽しみたい方にも)お勧めしたい作品と言えるかもしれません。作者様の持ち味である幻想小説的な文体も独特な読後感を残します。