ドール's @ ha瑠2

藤堂瑠子は、何時だって独りだった。

彼女が物心つく、ずっとその前から。

母親は、瑠子の傍にいなかった。父に訊いたら、



遠いところに行った。



そう、笑顔で教えられた。でも、彼女がいつ帰って来るか尋ねても、

父は教えてくれなかった。ただ、悲しそうに笑うばかりだった。


瑠子は父が嫌いだった。


一緒にご飯を食べる時、お風呂に入る時、眠る時、父は何時だって

笑顔だった。でも、その笑顔が怖かった。目が怖かった。

まるで骨の中まで覗き見るかのような、やんわりでいて、鋭い眼。

どうして父がそんな眼でみるのか瑠子には解らず、膝を震わせて

怯えていた。

小学校へ行くようになると、そんな父の視線も強くなっていく一方で、

瑠子は我慢出来なくなり、ある日祖母と祖父に相談した。



お父さんが怖い。助けて。


次の日、二人は瑠子を家から連れ出し、父から引き剥がし、

「今日からここが瑠子ちゃんのお家だよ」と笑って、瑠子は祖母と

暮らし始めた。父親は当然、瑠子を返してほしいと、何度も彼らの

家に訪れた。が、二人は取り合わなかった。

瑠子は笑った。嬉しかった。やっと、父親から解放されたと。


―――学校では、瑠子は物静かな子供だった。

騒がしい授業中、生徒の声がやかましくて溜まらない中でも、彼女

は沈黙を守り続けた。静かに教科書を読んで、静かにご飯を食べる。

誰とも喋らず、仲良くもせず。

そんな学校生活が三年も続き、ある日先生から「藤堂さんはもっとみんな

と仲良くすべき」と注意された。

でも、瑠子には理解できなかった。どうして先生が、そんなことで怒るのか。

訊いても良かったと今では思えるが、その時は何故か訊かなかった。


「はい」と返事をして、翌日から瑠子は、遅すぎる友達作りを始めた。



友達になって・・・・・・。



クラスの隅に集まって談笑する女の子たちにそう話しかけた。すると彼女らは、



いいよ! 藤堂さん‼



笑顔で、瑠子を自分たちの輪の中に快く、あっさり招き入れてくれた。

その瞬間から、瑠子には五人の友達が出来た。

正確に言ってしまうと、『友達』みたいなモノが瑠子に出来た。

瑠子には最初から、『友達』がどういったモノか、理解出来ていなかった。



「瑠子ちゃんって手が綺麗で、まるでお人形さんみたいでカワイイ

よねぇ」



『友達』の一人が言った。瑠子は「うん」と相づちを適当に打つ。



「おっとりしていて、それでいてお話上手だね」



『友達』の一人が言った。瑠子は「うん」と相づちを適当に打つ。

これが『友達』と言うモノ?――瑠子は首を傾げた。



なんか、いてもいなくてもいっしょだ。



瑠子が心の中でそう呟くと、みんな蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。

「来て」と言ったらまた、何処からともなく集まって来る。

瑠子は解った。『友達』とは、自分の言う事を、何でも聞いてくれる

他人(ひと)の事なんだと。昔、本で読んだ人形使いみたいと思った。

糸で手足を吊るされた人形、可愛い服や髪飾りをつけた人形が、

操られて右往左往する。差し詰めそんな様に似ていると、瑠子は可笑しかった。

昔から、瑠子にはそんな力があった。本人にその自覚は無いようだったが。

父も、その父から救ってくれた祖父母も、瑠子がああしたいこうしたいと

一声発すれば、それを聞いてくれた。お菓子もおもちゃも、欲しい服も

靴も、美味しいそうなファミレスのステーキだって、瑠子が「欲しい」と言えば

何だって手に入った。


『友達』も、彼女にとってはそんなモノだった。

欲しいと思ったかは別として。

気づけば瑠子は、クラスみんなを『友達』にしていた。

授業中「うるさい」と言ったら黙ってくれる。

「ご飯を一緒に食べよう」と言えばみんなお弁当片手に集まって来る。



魔法みたい・・・・・・。



瑠子はそう思った。瑠子には他人がどんな人で、何を考えて

いるのかさえ解った。願えば何でも手に入れられる。何だって

分かる。

それが、藤堂瑠子という、美しくも孤独な少女の中身だった。




宇崎雨も―――そんな『友達』の一人“だった”。


突然“転校”して来た雨は、すぐにクラスに馴染んだ。

誰ともなく気さくに話しかけ、楽しそうに接する女の子。

それが瑠子の、雨の第一印象だった。


ところが、それは違っていた。



「宇崎さん、一緒にお弁当食べよ」

「ごめんなさい。他の子と約束してて・・・・・・」



その一言で、瑠子の考えは180度変わった。



欲しい・・・・・宇崎さんが欲しい・・・・・・



そして強烈なまでな独占欲が瑠子を支配し、彼女を駆り立てた。

危険な衝動へと。一人ぼっちの少女に芽生えた、初めての感情

だったのかも知れない。



宇崎さんを友達にしたい・・・・・、独り占めしたい。

他になにもいらない・・・・、宇崎さん宇崎さん宇崎さん・・・・・。




そんな彼女が雨の部屋に訪れ、マギコ―――本物の魔法少女―――

に出会った時、彼女は一体・・・・・・、何を想ったの

だろうか・・・・・・・・・・・。






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