たまには魔法バトルもしなくちゃね♪

人生とは・・・・奇異の連続である。それは突然姿を現し、私達の前にその、

信じがたい現実を突き付けてくる。雨にとって、最初の奇異は、私―マギコ

という魔法少女が目の前に現れたことである。でも、彼女は私を目の当たりに

しても尚驚かず、私という存在を、快く受け入れてくれた。しかし二度目の奇異が姿を現した時、雨はそれを直視できない程に・・・・・・彼女には受け入れ難かった。それは私なんかよりずっと・・・・・誰もが当たり前に持っているモノなのに・・・・・・・・

「・・・・・パパ・・・・・?」

雨は、震える声音で目の前の男の人に尋ねた。こくんと、彼は穏やかに頷く。

「・・・・・ママ・・・・・?」

雨は、震える声音で目の前の女の人に尋ねた。こくんと、彼女は穏やかに頷く。

「ウソ・・・・・」

雨の声は、今にも泣きだしそうに震えていた。

「雨・・・・・この方たちは・・・・・?」

「雨の・・・・・・パパと・・・・ママ・・・・」

雨は私にそう答えたけど、彼女はそれを否定するかのように呟いた。

「雨、今まですまなかった・・・・・・」

申し訳なさそうに微笑しながら言う―雨の父親。

「ウソだ! パパとママも、ここにいるわけなんてない‼」

声を荒げる雨に、今度は―雨の母親が、

「そうね、わたし達が、あなたの前に現れる資格なんて・・・・・ないわ」

と、ぬかるんだ地面を見つめて言った。

「ウソだウソだウソだ‼ パパとママはもう帰ってこない、ずっとずっと

帰ってなんか来ない‼ だって・・・・・・」

頭を抱えてその場にしゃがみ込む雨。

「パパとママも・・・・・・雨になにも言わず・・・・・遠くに行っちゃった

から・・・・・」

「雨に、今まで辛い想いさせて、本当にすまなかった。パパとママも、

ちょっと大事な用があって、家を離れなきゃ行けなかったんだ。

それでも雨を、独りぼっちにさせたことは・・・・・・・本当に悪かった」

「ごめんね、雨ちゃん」

傘も差さず、雨の降りしきる中頭を深々と下げる雨の両親。雨と私は、

何も言わず、何も言えずにそれを見ていた。すると、雨が重苦しく口を開いて、

「じゃあ・・・・・パパとママ、もぉ、何処にも行かない?」

「ああ」

「ええ」

二人は頭を下げたまま、揃って言った。

「パパ・・・・・ママぁ‼」

雨は屋根から飛び出し、二人の下に駆け寄った。それを、私は・・・・・・

「いけません雨!」

彼女の腕を掴んで引き留めた。

「ま、マギコ・・・・・?」

「一体どういうおつもりですか?」

私は唇を尖らせ―目の前の―雨の父親と母親に問うた。

「・・・・・・・・」

二人は何も答えず、驚いた様子で私を見てくる。

「なに? マギコ・・・・・パパとママがどう・・・・・」

「雨、このお二人は・・・・・・あなたのお父様とお母様ではありません」

「ちょっとなに言って・・・・マギコ、どーしてそんなこと・・・・・・・」

困惑した様子の雨を無視して、私は眼を静かに閉じて、

『土と言霊による操られし幻、汝の正体を晒せ‼』

そう唱えると・・・・・・・・・・何も起こらなかった。

(やはり、私の魔法は・・・・・・・!)

「あらあら、もうバレましたか・・・・・・」

何処からか、私をせせら笑うかのような声が聞こえて来た。

「何物ですか⁉ 姿を見せなさい!」

すると、空き地に生えた電柱の上に、女の人の姿が現れた。

ドレスに身を包み、頭に犬の耳を生やしたその姿は、

「魔法・・・・・少女・・・・・・!」

「はい、わたくし、魔法少女のフレンシップと申します。以後お見知りおきを」

優雅に会釈をする彼女は、紛れもない・・・・・正真正銘本物の―魔法少女。

恐らく私より、持ち合わせる魔力が高い。しかし私は怯まず、

「これは何の真似ですか⁉」

「何の? わたくしは唯、雨ちゃんにお父様とお母様を会わせただけの

こと。それ以上もそれ以下もわたくしは致しておりません」

訝しるように首を傾げて言うフレンシップ。

「これは貴方が構築した『土傀儡』です! 本物の両親ではありません!」

「あらあら、魔法も持ち合わせていないのに、よくお判りになられましたね」

彼女の言葉に、私は身がよじれるような感覚に襲われた。

この魔法少女は―私は魔法が使えないことを、知っている。

「おやっ、ハッタリをかましただけなのですが、その反応は、どうやら本当に

魔法を持っていないようですね。まあ、これでやりやすくなります」

「なっ・・・・・・!」

得意げに嗤うフレンシップ。対する私には、雨を護れる魔法も力も知恵もない。

それでも私は・・・・・・・・

「雨、下がっていて下さい!」

「え・・・・・え・・・・・・」

今の状況が理解できず、雨は激しく動転していた。

「それじゃあ、さっさとその魔法少女もどきを倒して、ユウさんの

〈奉仕〉をしなくては、ね」

「貴方今、なんとい・・・・・・・」

『大地よ、此の者を祓うのに相応しい姿を形作れ! 来たり宿れ!

大地の欠片を操りし五つの精よ!』

フレンシップが杖を振るうと、雨の両親―だったものが崩れ落ち、

泥で出来た巨大な狼の姿に変わった。突然の出来事に混乱して

声を漏らす雨。

「『錬泥術』・・・・・・!」

私はこの術に、見覚えがあった。これは『錬金』から派生した、

『錬泥』―つまり泥に形を与えて操る術。

『クラッシェ(噛み潰せ)‼』

フレンシップが命じると、泥の狼は咆哮を一つし、、ずらりと並んだ牙を向け、四肢を地面に食い込ませながら此方に向かって来た。それは―獲物を目の当たりにした肉食獣の如く。

私は雨を庇うような姿勢で彼女に覆いかぶさった。

「マギコ⁉」

「大丈夫! 私は大丈夫です‼」

私は何度も雨に言った。大丈夫、大丈夫、と。巨狼が私達を飲み込もうと

した・・・・・・その刹那、

『ゴーヌ(消し去れ)』

誰かがそう唱える声がした。その声は・・・・・何だか懐かしさを帯びて私の耳に響いた。再び目を開けると巨狼の姿は無く、

黒いドレスを身に纏った女の人が、腰まで伸びた

金色の髪を靡かせて、私達に背を向けていた。私には、それが誰なのか・・・・・・

直ぐに解った。

「エディ・・・・お姉様!」

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