第十五話 運営

運営うんえいからメッセージが届きました!】

 俺はメッセージボックスを開けてみる。

【お客様のお手持ちのカードデータに不整合ふせいごうつかりました。

 誠にもうし訳ありませんが、緊急対応としてデータの修正しゅしょうを行わせていただきました。

 修正内容は次のものです。

 ★≪首無し≫の削除さくじょ

 大変心苦しいのですが、このカードは削除させていただきました。

 お詫びとしまして、プレゼントボックスに次の品をお送りしました。

 申し訳ありませんが、これで代わりのカードを入手にゅうしゅお願いします。

 ★≪プレミアムガチャチケット≫ x 1

 今後こんごとも≪ギルド&ドラゴンズ≫を、よろしくお願いします。】

 毒島ぶすじまが、ゆっくりとう。

「……カードデータに不整合ってどういうこと……?」

「首無しが何か都合悪いってことなんだろうけど……どういうことなんだろう?」と俺。

 そこにチャイムが鳴った。

「やべ、授業始まる。じゃまた」

 俺は毒島に別れを告げると、一組の教室きょうしつへと入っていった。


 その日のホームルーム。担任たんにんのかおり先生せんせいが言った。

昨日きのうも話したけど、川沿いの廃工場はいこうじょうはまだ警察けいさつ現場検証げんばけんしょうしているから、近づかないでね。先生からは以上よ」

 日直にっちょく号令ごうれいすると解散かいさん放課後ほうかごとなった。

 帰宅部きたくぶ——というか俺は自分じぶんで作った「一人ひとりゲーム部」に所属しょぞくしているつもりだが——である俺は、さっさと荷物にもつをまとめてかえろうとバックを肩にかつぐ。

「あの、松波まつなみくん」

 細身ほそみ色白いろじろ。整った顔立ちの男が話しかけてきた。二組のヤツだな。顔は知ってるが、なんて名前なまえだっけ?

「あ、二組の……?えっと……」

「僕は山口やまぐち。山口和也」

 山口は、俺が彼の名前がわからないことを察して名乗なのった。つづけて言う。

「ギルドラのランカーの≪MATU≫って松波くんのことだよね?」

「うん、そうだけど」

「そっか。僕もギルドラやってるんだよ。君とも何回なんかい対戦たいせんしたことある」

 山口はケータイの画面がめんを俺に向けた。ギルドラのランキング画面の102位のユーザを指差ゆびさす。≪_kazu8≫というユーザが表示ひょうじされている。

「へー、もうちょっとで二桁ふたけたじゃん。山口くん、やるね」

「まぁ、上級じょうきゅうプレイヤーには入るとはおもうけど君よりは下だよ。ハハ」

 山口の笑いに、俺も愛想笑あいそわらいを返す。

「ハハ、で何か用だった?」

「うん、2ちゃんのギルドラスレみたんだけど何?あの≪首無し≫って。気になってさ」

「あぁ、昨日ゲットしたかくれキャラなんだけどね。もうってないんだ」

「え?どういうこと」

「運営にされちゃってさ。ほら」

 俺はケータイの画面を山口に見せる。

本当ほんとうだ。ユーザの持ち物消すって運営ひどくない?」

「うーん。やりたくてやってるんじゃないと思うんだけど。なんだか慌ててる感じはするよね」

「ところでさ、その首無しってどこで見つけたの?」

「え……えっと……」

 俺は言っていものか迷った。まだ現場げんばでは警察が現場検証をしているらしい。

「僕もりたいんだけどさ。教えてくられないかな?」

 山口がニコリと微笑んで言った。

(せっかく話しかけてきてくれたギルドラランカー同志どうし、教えてやっても良いか)

 俺は思うと言った。

「わかった。ただ場所ばしょが場所なんで秘密ひみつにしといてくれる?行くなら、こっそり行って」

「オッケー。で出現しゅつげんポイントは?」

「あの変死体へんしたいが見つかった廃工場のあたりで見つけたんだ」

 俺は小声こごえで告げた。

「ふーん、あの辺りか。そうか、ありがとう。近いうちに行ってみるよ。こっそりとね、ハハ。じゃ、またね」

 山口は爽やかな笑顔えがおを浮かべて、俺に手を振ると去って行った。

「あぁ、またね」

 俺も山口に、軽く手を振る。

「あれ、山口って友だちだったの?」

 立ち去っていく山口をみて、小笠原おがさわらが話しかけてきた。

「いや、初めて話した」

「なんだか松波も活発になってきて良かったわ。また新しい友だちもできて、お姉さん安心あんしんしたよ」

「なに、お姉さんって……同い年じゃん」

「松波とは付き合い永いから弟みたいな感覚かんかくになってきちゃって。友だち少ないみたいだから、心配しんぱいしてたの」

「そうですか。そりゃどうも。ご心配おかけしまして」

 俺が不機嫌ふきげんそうに言うと、小笠原が笑った。

「アハハ。機嫌きげんを損ねないでくれたまえよ。今日きょう部活ぶかつないから一緒いっしょに帰ろ。ね、帰りにギルドラ教えてよ」

「うん、まぁ良いけど」

 学校を出ると、俺と小笠原はまた秋晴あきばれの空の下、土手どてを歩き出した。遠くには、あのブルーシートの廃工場が小さく見える——

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