第十四話 2ちゃん

「え?何のこと?」

 俺が宇陀川うだがわに聞き返すと、ヤツはあきれたようにった。

「あん?いや、だからお前≪ギルドラ≫のリーダーカード首無しに変えたろ。気持ち悪くねぇか?」

「え、うそ?」

 俺はそんな操作そうさした覚えはい。ケータイをり出し、ギルドラのアプリを起動きどうしてみる。

「あ……?ほんとだ……」

 確かにホーム画面がめん中央ちゅうおうには、血まみれの首無しが死神しにがみの鎌を携えて立ち尽くしている。

 ギルドラでは、ほかのユーザーのリーダーカードがアバターと共に表示ひょうじされるので宇陀川は何かのきっかけで俺のリーダーカードが首無しになっているのに気がついたのだろう。

「クリスタル300個貰ったのが、そんなに嬉しかったのかぁ?いくら[SSR+]でも趣味悪くねぇか?」と宇陀川が薄ら笑いで言う。

「んー、なんだろう……こんな操作した覚えないんだけどな。教えてくれてありがとう」

 俺はリーダーカードをケルベロスに変更へんこうする。ケータイをタップする俺の視界しかいの隅に、チェックのプリーツスカートと白い脚が映り込んだ。

「何やってんの?ギルドラ?」

 と小笠原おがさわらこえが聞こえた。

「あ……うん」

 俺が画面から顔を上げると小笠原と目があった。なんだか照れ臭い。彼女かのじょが言う。

「私も入れてみたよ。ギルドラ」

「あ、そうなんだ?」

「うん、まだレベル2だけど。フフ、わかんないことあったら教えてね」

「うん。もちろ

「お、なんだ!?小笠原もギルドラ始めたのか!?そうか、なんかわからない事があったら俺に聞け!」

 言いかけた俺の言葉ことばさえぎって、宇陀川が言った。

「え……?うん」

 小笠原が面食らって答えると宇陀川が言う。

「フレンド登録とうろくしてやるから。フレンドコードせてみな」

「え……うん……えっと……」

 小笠原はれない手つきでギルドラのホーム画面のアイコンを探すと

「あ、これかな。えいっ」

 とボタンをタップした。

「これ?」

 小笠原は宇陀川に画面を見せる。

「それだそれ」

 画面に表示されたフレンドコードを、手早てばやくフリック入力にゅうりょくする宇陀川。

「フレンド申請出しといたからOK押せよ、小笠原!またな!」

 言うと宇陀川は、ヤツのクラスである二組へと向かう。

(ったく、あいつ……)

 俺は忌々しく宇陀川の背中せなかを見るが、気を取り直して小笠原に言う。

「あ……じゃぁ俺にもフレンドコード教えてよ」

「うん」

 小笠原が俺に画面を見せようとした。その時、ボソッとした男の声。

松波まつなみ……」

 声の方を見ると、毒島ぶすじまが俺を見ている。

「あ、毒島……くん。どうしたの?」

 ガタイは重量級じゅうりょうきゅうだが口数こうすうが少ない毒島が、俺に話しかけてくるなんて珍しい。

「2ちゃんのギルドラスレ……見てるか?」と毒島。

「いやぁ、見てないけどね……オレなんか言われてる?」

 ゲーム内イベントで目立った成績せいせきをあげているプレイヤーは、皆スレッドで悪口わるぐちを言われている。俺も多分たぶんにもれず叩かれてるので、気が滅入るので見ないことにしている。

「まぁ……松波もだけど、どっちかと言えば首無しかなぁ……」

 毒島が俺にケータイの画面を見せる。その画面はギルドラのランキング画面のスクリーンショット。世界せかいランキング48位に表示されている俺のアバターと、その横に並ぶリーダーカード、首無し。そして首無しのステータスのスクリーンショットも貼られている。


——

27 名前:名前は開発中のものです :2019/09/18(水) 08:01:13.33 ID:$%wUCgnk

一桁入ったり落ちたりのB級ランカー、MATUのリーダーカードのステータスが異常に高い件。



28 名前:名前は開発中のものです :2019/09/18(水) 08:05:54.45 ID:a5TKHgnk

>>27

なんだこのカード?首無し[SSR+]?

ステータス、シン・バハムート超えてね?


29 名前:ゲームクリエイター :2019/09/18(水) 08:07:26.01 ID:9iKOujR$

m9(^Д^)プギャーーーッ

首無しくんデビュー!MATUくんゲットおめでとう!

——


(あれ?ゲームクリエイター……?)

 昨日きのう、フレンド申請しんせいが来たプレイヤーもゲームクリエイターという名前だったが同一人物だろうか?わざわざ2ちゃんの書き込みに名前を入力してるのは何故なにゆえなんだろう。この板によくいるコテハンユーザーなんだろうか?よくわからない。

「え、なに?松波のこと書いてあるの?」小笠原も画面を見て言う。

「うん……まぁ……」

 なんと言えばいのか。この画面はそこまでヒドイことは書いてないが、どうせ下にスクロールしていけば誹謗中傷ひぼうちゅうしょうされてるだろうし俺は見るのをやめて毒島に端末たんまつを返した。


 しかし首無しのステータスはシン・バハムート以上と書いてあった。確かにそのスクリーンショットに表示された首無しの戦闘力せんとうりょくは、今まで最強さいきょうとされていたシンバ・ハムートを2割ほど上回る。

「首無しってステータスそんなに強かったっけ?昨日見た時は、あまり印象いんしょうに残らなかったから、そんな数字すうじじゃなかったとおもうけど」

 俺は毒島に聞いた。

「どうだったかなぁ?見てみるか」

 毒島はギルドラを起動すると、手持ちのカード一覧画面を開く。

「どう?」

 俺もケータイを操作し同じ画面を開こうとする。

「んー……あれ?首無しが無くなってる……」

「え、そんな?」

 俺も画面をスクロールしてみる。だがさっき外した首無しが無くなってる。

「……確かに無いね……なんでだ?」

 俺と毒島は首をひねった。

 その様子ようす退屈たいくつそうに見ていた小笠原に

「あ、有華ゆか!」

 とクラスの女子じょしが話しかける。なんの話をしているのか、キャッキャッと盛り上がると小笠原ともども、何処どこかに行ってしまった。

(あ……小笠原のフレンドコード聞き逃した……)

 俺の前でケータイの画面を眺める毒島のニキビ面を見て、俺は暗澹あんたんたる気持ちになった。俺はなぜ、宇陀川のように多少強引でも鮮やかにやれんのか……。


 俺が一人ひとりで気落ちしているとは、つゆ知らず毒島は言った。

「あ……何かメッセージ来てるぞ……」

 と——

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