第十八話 「鍛えているからだァァァアァァッァアァァッァッ!」


――スケイルギアは持ち主の心に強く影響を受けるもの



 これがレオの導き出した手段。


 テレビで見たヒーローの変身ポーズを模倣した動作を取り、スケイルギアを発現させることへ具体的なイメージを持たせる。


 こうして変身する際に決められたルーティンを設ければ不明瞭な変身のプロセスを明確化させることができるのだ。


「変身!」


 掛け声に呼応するように宝石は煌めきを散らし始め、全身にその光が行き渡りレオの身体を覆い尽くす。


「レオォォォォぉぉぉぉッ!!!!」


 雄叫びを上げ、レオは金色の鎧を纏った騎士となる。

 カチャカチャと金属音を鳴らしながらデウスの向こう側で控えている道頓堀を見据えつつ、正面にいたデウスに歩み寄った。


「百獣爪ッ!!!!」


 振り上げたレオの右腕に紅蓮の炎が灯る。レオはその燃え盛る拳をしっかりと腰を入れて化け物に叩きつけた。


『グギャアアアアァァァァッ!』


 殴られたデウスは断末魔の叫びを上げて炎上しだす。


「ふんっ、たかが一匹やったくらいで……」


 道頓堀はほくそ笑んで静観している。が、次の瞬間、彼のその余裕は跡形もなく消え去ることになる。


 レオの拳の炎は正面のデウスから両隣に燃え移り、瞬く間にレオと七緒を取り囲んでいる全てのデウスを連鎖的に焼き尽くしたのだ。


「そんな馬鹿な……! 一撃だとぉ!?」


 目の前で起こった光景を見て、道頓堀は動揺を隠せずに口をあんぐりと大開きさせている。精悍な顔つきが台無しだった。


「すごいな、いつの間にそんな技を……」


 七緒は呆気に取られた様子ながら、素直に感心して褒めてくれた。


「へへっ。実は普段から結構イメトレをしてたんですよね。気合を込めたら炎とか出たりしないかなって思ってて。本当に燃えるとは思いませんでしたけど」


 レオは得意げにはにかみ鼻の下を擦る動作をする。

 バイザーで防がれ鼻には触れられなかったが。


「……ところで技名を叫ぶ必要性はあるのか? 敵に手の内を晒す真似は悪手だと思うのだが」


 七緒は馬鹿真面目に思案する表情で訊ねてきた。


「ありますよ。だってそのほうが格好いいじゃないですか」

「……そういう……ものか?」


 レオがあまりにも当然のように言い放ったので七緒はそれを事実として受け取りそうになっていた。


 彼女は意外と不意打ちと力押しに弱いのかもしれない。


「ところで……」


 デウスを蹴散らし、その残骸が吹き散らされる風を潜り抜けてレオは道頓堀に詰め寄る。


「くそっ! こっちに来るんじゃねえ!」


 唾を吐き散らしながら手を振り回して叫ぶ道頓堀を無視し、レオは歩みを止めず距離を縮めていく。


「一つ訊かせてください。トラックを襲ったデウスはあなたがけしかけたんですか?」


 レオは先程自分を奪い損ねたギアの適合者と言っていたことが頭の片隅で気にかかっていた。


 道頓堀はレオがすぐに攻撃を仕掛けてこないことに拍子抜けしたような顔をするが、それも一瞬のことですぐに表情を引き締めた。


「そうだ。俺たちがスケイルギア奪取のために送り込んだ。まさか適合者がその付近に居合わせるとは想定外だったけどな。まあ、そういう偶然が起こりうるのが適合者に選ばれるゆえんなんだろうな」


 一人で勝手に納得したように頷く。


「それで、それがどうしたか?」


 ぬけぬけと開き直った物言いにレオはふつふつと怒りが沸き起こるのを感じた。


「そのせいで犠牲になった人がいるんだ! あなたは何も思わないんですか!」


「運送をしてた研究員のことか? 仕方がなかったんだよ。大きな平和のためには必要な犠牲なんだ。大義を為すには目を瞑らなきゃいけないこともある。なあ、そうだろ七緒? お前は痛いほどよく知っているよな」


 レオの激高をさらりと受け流し、道頓堀は七緒に目線をやった。


「私は……」


 言い淀む七緒。

 言い返せない負い目を感じているのだろうか。


 かつてレオたちを救いに走ったときのことを思い出しているのかもしれない。それからの自分の正義のあり方を回顧しているのかもしれない。


 苦悩に歪む表情が痛々しい。


「あの日以来、お前が路傍に転がる取るに足らない命を見捨てていくようになったことは知ってるんだぜ? 失敗から学んだんだよな、お前は。そうさ、綺麗事だけじゃ何も救えないことを俺たちは知っているんだ」


 このままあの男に言わせてはいけない。

 このままでは七緒はまた自分を責めてしまう。堅牢な檻で心を閉ざして、彼女の持っている優しさを殺してしまう。


「あなたと諸星先輩は違うッ!」


 だからレオはその場に蔓延する空気を切り裂くように叫んだ。


「ハッ、お前に七緒の何がわかるってんだ? 何を根拠に言ってやがる」


「わたしがここに今、正義の味方としてこうして立っていることがその証左だ!」


「何ィ……?」


「四年前に諸星先輩が救ってくれた命が、心が。わたしをこの場所へ導いた。あんなに他人のために一生懸命になれる人が心の底から割り切れるわけがない!」


「……そうか、お前はあの日のバスに乗ってた学生の一人か」


 道頓堀の目に何かの感情の光が灯り、微細に吊り上がる。


「諸星先輩は一人だったから。一人になってしまったからそうするしかなかっただけだ! 自分を正当化して開き直るあなたと一緒にするな! これからはわたしが隣で先輩が救い切れない人たちを助けていく。だからもう、諸星先輩は誰も犠牲にはしない! 何も切り捨てたりはしない!」


 レオはとにかく何を言わなくてはと思い、着地点も見定めず啖呵を切った。


「獅子谷……」


 七緒はどことなく潤んだ瞳を向け、レオの名を声に出す。レオは振り返って、七緒と向き合い口を開く。


「わたしはあの日、先輩に辛い思いをさせてしまうきっかけを作ってしまいました。だから、これからは先輩の力になっていきたいんです」


「獅子谷……お前は……」

「へへっ、諸星先輩、ようやく名前で呼んでくれましたね」


 レオは実直に向けられた七緒の感情の起伏に照れ隠しを含んだサムズアップで答えた。


「クッフフ……ハハハッ」


 一方で道頓堀は肩を震わせ、俯きながら不気味な笑い声を漏らす。


「何がおかしいんだ? 気が触れたのか……?」


 七緒は怪訝な顔で明け透けない毒を吐く。


「ったく、とんだ茶番を見せつけてくれやがってよ。……思い上がるなよ、クソガキが。お前一人が加わったところで何も変わりやしねえんだよ!」


 道頓堀は下を向いていた顔を上げると声を荒らげた。どうやらレオの言葉は彼の怒りに触れる要素を含んでいたらしい。


「いいぜ、そこまでして現実を見ようとしないなら。俺たちの大望を邪魔するっていうんなら。まず、お前の夢見がちなその理想をぶち壊してやる。絶対的な正義は圧倒的な力に依存するものだということを思い知らせてやる。俺たちの道を阻むものは一人残らずぶっ潰す!」


 そう言って道頓堀はごそごそと胸元をまさぐり何かを取り出そうとする。


「やはり対策本部の御膝元でこいつを使わないっていうのは無理があるみたいだったな」


 レオと七緒は怪しげな道頓堀の動きに警戒し、身構えた。



『その必要はないぞ、太一』



 エコーの聞いた、脳に直接響かせてくるような声がどこからか聞こえた。声の主を探してきょろきょろと辺りを見るが周囲には誰もいない。


「何者だ! 貴様!」


 ただ、七緒は即座にその気配を探知し、存在を認知したようだ。レオは彼女の視線の行く先を辿る。


「何……あれ?」


 世界樹の幹に人が一人通れるほどの光の裂け目が生まれていた。そして、そこから漆黒のヘルメットマスクで顔をすっぽりと覆った何者かが悠然と出てきた。


 マスクの人物は道頓堀と同じデザインでカラーの異なった黒いマントを身に纏っていた。


「貴様、道頓堀の仲間か!」


 超常的な現象を前にしても動じずに七緒は激しい口調で確認の声を飛ばす。それを無視してマスクの人物は道頓堀のもとへと歩み寄る。


「時間稼ぎ、ご苦労だった」


 声の高さからして女性だろうか。その人物は道頓堀に向かって労いの言葉をかける。


「いえいえ。これくらい軽く遊んでやっていればあっという間ですよ」


 なるほど。彼の役目はレオたちの足止め。


 何かしらの目的があった彼女がそれを果たすまで横やりが入らないように番をしていたということか。


「ふん……諸星七緒か。そんな身体でまだちょろちょろと蠢いていたか」


 マスクの人物は七緒の姿を、義足を嵌めている右足を見てそう言った。


「なぜ、私の名を……?」


 七緒が疑問を口にするも、すでに彼女は七緒からレオに視線を移していた。


「…………?」


 彼女の手に突如ダガーナイフが出現した。一瞬のうちに起こったその現象にレオが目を奪われていると


「……え?」



――ドッ



 バイザーからほんの数ミリ。

 眼前に鋭利に輝く刃の切っ先が突きつけられていた。


 もし直前で止められていなければナイフの強度にもよるが、間違いなくバイザーを貫通して致命傷を負わされていた軌道だった。


「あ、あぁ……」


 あまりに唐突な生死の瀬戸際にレオは重心を崩して後方に転倒してしまう。


「獅子谷!」


 尻餅をついたレオに七緒が駆け寄り介抱する。


「なんて速度だ。まるで反応ができなかった……。私もまだまだ未熟だ」


 悔しげに呟く七緒。

 後輩の心配より先に己の力不足を嘆く。


 そのストイックさは紛れもなく武士だった。しかし、とどめを刺せる好機を得ながらなぜ敵は刃を寸前で止めたのか。


 ……それは殺意を持って振るわれた彼女の腕を掴んで静止させた人物が間に割って入っていたからだった。


「……大鳳巌。まさか人類最後の英雄が今さら前線に赴いてくるとはな」

「ついに表舞台に顔を出してきたな、黄昏の夜明け」


 レオの命を救ったのは基地で指揮を取っているはずの大鳳だった。


 左手でマスクの細腕を握りしめ、右腕には身の丈ほどもある巨大な斧を携えていた。彼には彼女の動きが見えていたというのだろうか。


 七緒ですら目視できなかったというのに。


「デウスの反応が消失したんでな。お前たちが目と鼻の先にいるんだ。この機会を逃すわけにはいかんだろう?」

「チッ」


 大鳳の手を振り払って、マスクは距離をとった。


「大丈夫か。レオ君、七緒君」

「は、はい! ありがとうございました」


 大鳳は手を差し伸べ、レオを立たせた。


「うむ、良い顔をしている。その様子だと自分の正義を見つけたみたいだな」

「はい、お陰様で!」


 レオの顔はバイザーで見えないはずだったが深いことを考えないことにした。


「隊長、彼らは何者なんですか。隊長はどこまでやつらのことを知っているんですか?」


 七緒はキッと横目で道頓堀たちを睨みながら大鳳に訊ねた。大鳳は気難しげに眉根を寄せ、その問いに答える。


「彼らは黄昏の夜明け。各国の主要な施設からエネルギー源の略奪や機密情報を盗み出し、軍基地を破壊して回るなどの活動を秘密裏に行っているテロ組織だ」


「テロ組織……。道頓堀さんがそんなものに……」


 事実を聞き、七緒はショックを受けているようだった。唇を軽く噛んでいる。


「テロ組織とは言ってくれるじゃねえの」


 道頓堀は挑発的に笑い、そう言った。


「言わせておけ。やつらに我々の考えを理解させることなど無意味だ」

「まあ、そうだろうな。平和ボケしたあいつらじゃ、わかるわけもないか」


 あっちはあっちで言いたい放題だった。お互い様ということにしておくべきなのだろう。


「道頓堀よ。今さらここへ何をしに現れた? お前らの目的はなんだ?」

「ダァトの様子の確認と世界樹の一部を資源として回収に来た。それだけだ」


 大鳳の言葉になぜかマスクの人物が反応し、あっさりと白状した。


「お、おい。それ言っていいのかよ」


 道頓堀は焦ったように言うがマスクの人物は特に気にした様子もない。


「問題ないだろう。こいつらが知ったところで何かできるわけでもあるまい」


 確かにその通りだった。レオはもちろん、七緒も首を傾げている。言葉の意味すら理解できずじまいだ。


 世界樹を回収……? 資源? 何の? 

 そしてダァトとは一体? わからないことがぐるぐるとレオの頭の中を駆け巡る。


「ダァトというのはデウスを超越した存在のことか」


 七緒が口を開きマスクの人物に向かって言った。


「ほう、よく知っているな」

「そこのお喋りなやつが得意げに話していた内容から類推させてもらっただけさ」


 レオが到着する前に何かしらを道頓堀は七緒に語っていたのだろうか。この二人の関係性もだが、気になることが多すぎるとレオは思った。


「ダァトは全てのデウスを超える存在。デウスでありながらデウスとは一線を画す存在。地球の人類を害悪と見なして一掃することに決めたのはやつの一存だ。他のデウスはそれに従っているに過ぎない。ダァトは絶対の強力な存在だ。その欠片一つでもスケイルシードを超える力の源となるぐらいにな」


「欠片とはなんだ?」


「デウスは自らの力を結晶として形成する。スケイルシードの宝石はまさにそれだ。ダァトは宝石のひとかけらでも他のダァトを寄せ付けない力を宿している。ダァトの欠片自体は対策本部も回収済みのはずだがな」


「なっ、そんな話は一度も……。そうなんですか、隊長?」


「確かに武器の精製時に使用することで強度を何倍にまで引き上げる鉱石は発見されていた。だがそれがよもやデウスの力だとは……」


 大鳳にも寝耳に水の事実だったようだ。その顔は驚愕に彩られている。


「その男の斧にもダァトの欠片が織り交ぜられている。無論、誰にでも扱えるわけではない。本来なら人間が手にしていい力ではないのだから。通常なら精神異常を引き起こしてもおかしくはない代物だ。その欠片を含んだ武器の使用は貴様だけにしか許されていなかっただろう? それはそのためだ」


「そうか……それで……」


 大鳳は何かの合点がいったというように唸った。


 しかし、デウスの上に位置する存在、ダァト。確かにそれほどまでに力の差のある敵を相手にするには生半可な力ではどうしようもできないだろう。


 道頓堀たちのような考えで敵対を避ける道もあながち間違ってはいないかもしれない。だが道頓堀たちのやり方で本当にそれができるのだろうか。


 守るべきはずの人たちを傷つけるようなやり方で、誰しもが望む平和は訪れるのだろうか。大鳳は自らの斧をより強く握りしめながら彼女の言葉に耳を傾けている。


「あんたたちみたいに攻めてくる敵をモグラ叩きのように待ち構えて潰していくだけじゃ結局何も変わらない。絶対的な力を持って世の中の仕組み自体に変革をもたらさなくては世界を守ることはできない。俺たちが倒そうとしていたのは敵として相手取るのもおこがましい、天上の存在なんだ。戦ってどうこうできるわけがない。中途半端な強者が散見していることがこの世界を破滅に導いている。一人の強者が支配し、その他全員が弱者となれば世界は平和になるんだ」


 一人の強者が支配する世界は理想となりえるのか。

 皆が弱くなることが正しい道なのだろうか? いつも通りの日常を過ごしていた街に、学校に、デウスを連れ込んで人々を恐怖に陥れて。


 そんな彼らに笑顔がある世界が築けるとは思えない。


「……それが貴様の選んだ正義か道頓堀?」


 大鳳がかつての仲間に今一度問いかけた。返答次第ではまだやり直せる――そんな気持ちが込められているような響きを持つ声だった。

だが、彼の答えはそんな微かな期待も無に帰す頑なな離別の意志だった。


「その通りだ。あんたらは無力さに打ち震えながらせいぜい無駄な足掻きをしていろ」


 その言葉が両者に横たわる溝を決定的にした。互いの正義が相容れず、無視し合うこともかなわない、対立しあうものだとはっきりと示したのだった。


「なら仕方あるまい。私は私の正義に基づいてお前たちを止めるぞ」


「七緒といい、そんなに自分たちの正義が絶対だと思っているのか? 驕りが過ぎるぜ。昔から気に食わなかったんだよ、あんたらの弱者を見下すようなその態度がな!」


「貴様らの正義がたくさんの人を傷つけるから阻むのだ! どうしてそのことがわからない!」


「いつだって力を持つ者は傲慢だ。弱者が見出した術を悪意なく否定し、自分たちのやり方を押し通そうとする。そんなやり方では何も変わらないし、力なき者はついていくことすらできない。破滅に向かいたいなら一人で行け! 貴様らは害悪だ! この世界の悪腫瘍だ!」


 仲間だったという過去すらも否定し、道頓堀は口汚く七緒や大鳳を罵った。


「太一よ。大鳳巌が前線に出てきた以上、多少の作戦変更が必要だ。やつには私もそれなりに本気で臨む必要がある。その間、お前には適合者たちの相手を頼みたい。ホドの断片〈フラグメント〉は持っているな?」


 マスクが道頓堀に指示を出している。ここから逃げ出す算段を立てているようだ。


「ああ、大丈夫だ」

「ならば……」


 ドンッ! と地を響かせる音がレオの耳を打った。


 音に反応して視界を動かした時にはすでに大鳳が道頓堀とマスクの目の前に移動して両手で握り締めた斧を渾身の力で振り下す光景を生み出しているところだった。


「アアアアアアアアックスゥゥゥッゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」


 いつの間にあそこまでいったのだろう。瞬き程度の間しかなかったはずなのに。


 その瞬間を見逃すほどレオは気を抜いてはいなかったはずだ。それほどまでに大鳳の移動スピードは高速だったというのか。


「油断も隙もないやつだ」


 マスクは両手に握ったダガーナイフで重量感のある斧の一撃を容易く受け止めて、こともなげに言った。


 隣にいる道頓堀は大鳳の動きにまるでついて行けなかったようで度胆を抜かれた顔をして額から冷や汗を垂らしていた。


「獲物を目の前にして、私がみすみす逃がすと思うか?」


 大鳳はこれまでレオが見たことのない野獣の眼光を滾らせてニンマリと笑っていた。これが大鳳巌の戦いなのか。


 あれほどまでに巨大で質量のある得物を軽々と振り回して自在に操りながら圧倒的な体捌きを見せつけているあの姿が。


「もうここには用はないのでな。我々に賛同し、大人しく見送ってくれれば助かるのだが」


「それは無理な相談だ……なッ!」


 大鳳はマスクの提案を即決で却下し、競り合っている武器をグッと押し込んで圧力をかけ、敵の次の動作を封じ込めようとする。


「私を捕まえたければ力ずくでとめてみろ。それができるのならな」


 そう言うとマスクは大鳳の斧をあっさり跳ね返し、飛ぶように後退して距離を取り、七階建ての校舎の屋上に直上していってしまった。


 すごい脚力である。

 変身したレオならあれくらいは軽くできるが、生身では絶対に不可能だ。スケイルシードを持たない大鳳が追跡するのは無理だろう。ところが。


「逃がさんぞ!」


 大鳳は窓の縁に足を引っ掛け、二階おきにそれを足場にして屋上まで駆け上がって行った。


「師匠、すごい! どうしてそんなことができるんですか!」

「鍛えているからだァァァアァァッァアァァッァッ!」

「すごいですぅ!」


 レオは大鳳の曲芸技を見上げて賛美の言葉を送ったのだった。

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