エピローグ

第45話 まだまだ続いていく僕らの未来を祝って

「それじゃあ、文化祭の成功を祝いまして……乾杯!」

『乾杯!』

 放課後。取り敢えずの片づけが終わった黎達は近くにある焼肉屋に来ていた。ちなみにお酒を飲むわけでは無い。約一名を除いて。

「いやー!やっぱ一仕事終わった後は酒だよ、酒!」

 その一名は凄い勢いでグラスを空にしていた。何となくそんな気はしていたのだが、やっぱり凄く飲む人らしい。将来お酒を飲むとしても付き合ったら駄目よと久遠が(かなり真面目な顔で)忠告をしてくれた。既に被害者が出ているのだろうか。

「それよりも、肉!肉焼きましょうよ!」

 そう言って琴音は躍起になる。

「と、いうか琴音は何で来たの?」

「ひどっ!奏酷い!私だって色々やったんだよ!」

 さめざめと泣くふりをする。

「例えば?」

「えっと、練習の時、台詞読んだりとか?」

「他には」

「えーっと……」

 琴音は視線を逸らし、

「ね、ねえ。私役に立ってたよね?」

 隣に座っていた伊織に助けを求めるが、

「……バスケしてたな」

「ちょっとー!?」

 どつかれる。伊織は「やめろって」と言いつつも、

「でもまあ、表向きが運動の為なんだから、一応カモフラージュにはなってた……んじゃないか?」

「でしょ?でしょ?」

 嬉しそうにする琴音。と、いうか、

「そこ二人はいつの間に仲良くなったの……」

 久遠が黎の感じていた疑問をそっくりそのまま述べる。演劇の練習が忙しかった為気が付かなかったが、伊織と琴音はすっかり仲良くなっていた。

「うーん……何となく?」

「何となくじゃねえだろ、お前から絡んできたんだろ?」

 琴音は口をとがらせて、

「あ、ひどーい!そういう言い方無いんじゃない!」

 大体ねー、私の方が年上なんだよ。と説教を始める。酒に酔っているわけでも無いのにハイテンションだ。

「ふぉっふぉっふぉ、面白い面子が揃ってるのう」

 部長は相変わらず仙人か長老の様な雰囲気を醸し出している。

「すみませーん!生中一つ!」

 奏は早くも次の酒を頼んでいた。

「ははは……」

 黎は失笑する。自分の周りも随分にぎやかになったものだ。数か月前は伊織位しか居なかったはずなのに。

「ん?」

 ふと、気が付く。隣に座っていた久遠と手が触れ合う。

「どうしたの?」

 答えは無い。その代わり、黎に体を寄せ、

「にぎやかになったね」

「そうだね。ちょっと前じゃ考えられないよ」

「うん……」

 沈黙。

「そういえば、さ」

「何?」

「お母さんは、何だって?」

 久遠は明後日の方を見て、

「あー……」

「久遠?」

「えっと……お見合い自体は無くなった……んだけど」

「ホント?それは良かった」

「何だけど……黎に興味を持っちゃって」

「あー……」

 どうやら保留どころか、完璧に認めて貰えたらしい。

「だから、これからあの人はいい意味であなたに接触したがると思うわ」

「そっ……か」

 久遠の母。頑固で、でも娘を愛している人。その人に認めて貰えたのなら、嬉しい事だ。でも、

「もしかしたら、喧嘩になっちゃうかもね」

 久遠は目を丸くして、

「ど、どうして?」

「だって、お母さまは久遠の事が大好きだ。僕も大好き。取り合いになっちゃう」

 苦笑する。しかし、久遠には受けなかったようで肘で軽く攻撃される。残念。

「黎」

「何?」

「私、貴方にあえて良かったわ」

「僕もだよ」

 本当は口付けを交わしたい。でも、ここじゃ皆に見つかってしまう。だから、指を絡まようとする。久遠も一瞬戸惑った後、絡ませ返してくる。でも、これでいいんだ。隠れながら、偽りながら。僕たちの関係はそうやってはぐくまれてきたのだから。

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変態パラドクス 蒼風 @soufu3414

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