今回は初めての中(編)出し(後編)

「お年玉って本来は、その金額にびっくりして男性が玉を落としてしまうところからきているんだよ」


「嘘だね」


〜〜


「はぁ疲れた……」


「お疲れ様。あんなにたくさん出したもんね」


「お金をね」


結局あの後、いろいろな店に行ったけど、全部支払いは俺だった。まぁ、言い出しっぺだから仕方ないんだけど……。


「あのね小太郎くん。私本当に感謝してるんだよ?」


「そう」


「感謝しすぎて胸がでかくなりそう」


「ならないよね」


「……」


「ごめんって」


自分から攻めておいて、ディフェンスが薄くなるのはダメでしょ。


「さて、ちょっと浴衣を脱ぐね」


「あぁうん……。えっ、ちょっと待って、ここで?」


「そんなわけないでしょ。エロゲーのやりすぎ」


「こんなシーンないと思うけど……」


花上さんはこちらにウィンクした後、店の奥に行った。どういう意図のウィンクなんだ……。


テーブルの上には、今日買ったものが置かれている。ゲーセンで取ったぬいぐるみ。下着。電子レンジ。その他諸々。


電子レンジの破損具合を確認してみるか。


と、思ったちょうどその時、ドアが開き、誰かが入店してきた。


「あけましておめでとうございます」


……まぁ、客ってことはありえないわけで、外木場さんだった。


「あけおめ」


「たくさん出したんですね」


「それはもうやったから」


「花上さんはどちらに?」


「今浴衣を脱いでるところ」


「盗撮しなくていいんですか?」


「そういう趣味はないかなぁ」


外木場さんはこちらに一礼した後、店の奥に消えていった。


開封途中だった電子レンジを開けて、取り出してみる。なるほど、確かに少し破損しているけど、売り物にならないというだけで、機能に差し支えはなさそうだ。


……問題は、花上さんがプライドを捨てられるかどうかだけど。


「お待たせ小太郎くん。脱いできた」


「着替えてきたでよくない?」


「お待たせしました。脱いできました」


「外木場さんは脱ぐ必要ないよね?」


「冗談です。ちゃんと家で脱いでからここにきましたよ」


「何の話?」


三人で席に座る。思うと、この構図は初めてだな。あまり望ましいものではないけれど。


「ところで小太郎くん。今後のこの店の活動方針なんだけど」


「えっ、年明け早々重い話?」


「渡辺くん、今月重いんですか?」


「男なんだけど」


「あのね小太郎くん。正直小太郎くんが来てくれるおかげで、雀の涙ほどこの店の経営状態は改善した。でもね、さすがにもう限界っぽくて……」


「でしょうね」


俺がここに来たの、指で数え終わるくらいの回数だし、毎回そんな大金使っているわけでもない。


「だからね、小太郎くんにお願いがあるの……」


「何でしょう」


「この店が潰れても、その……。来てほしいなぁ、なんて」


「嫌です」


「即答!?」


「早漏ですね渡辺くん」


「いや、だって、来る意味ないでしょ潰れたら」


誰が好き好んで、下ネタを言われるためだけにこんなところに来るんだ。メリットがなさすぎる。そもそも俺は本来ニートなのだから、家を出る必要はないわけだ。


「小太郎くん考え直して?二人の子供なんだよ?」


「何を言ってるの」


「そうですよ渡辺くん。最後まで責任とるべきです」


「外木場さん、今日悪ノリが酷くない?」


「まぁその、潰れるって言ってもそんな明日明後日の話ではないから、ね?明明後日の話ではあるかもしれないけど」


「おいおい」


花上さんの目は血走っている。本当に明明後日潰れるんじゃないだろうな……。


「まぁ、渡辺くんの玉が潰れるよりはマシです。そうでしょう?」


「そりゃそうだよ比べ物にならないよ」


「小太郎くんが明日も明後日も来てくれれば、明明後日も営業できるはずだよ」


「どんな高価なもんを食わせるつもりなのかな」


「一万五千円くらいの女の子?」


「法に触れるぞ」


「それは私の方で何とかしますから」


「外木場さんが言うと冗談に聞こえないからやめて」


元犯罪者、変なコネクションの争いに巻き込まれたくない。


俺は一つ、仕切り直しのために、咳払いをする。


「明日は妹と用事があるから無理だけど、明後日なら行ける。それでいい?」


「ゴム有って感じだね」


「危険日ですね」


「経営が危険日とかそういう意味?」


「よし、じゃあ早速カレンダーに……」


テーブルの横の壁に掛けてあったカレンダーを見て、花上さんの動きが止まる。


「どうしたの?」


「……小太郎くん。カレンダーも買ってもらえない?」


「新年だもんね〜しょうがないね〜」


「ちゃんと生理日には赤丸をつけていきましょう」


「ほんっと余計な一言」


と、いうわけで、慌ただしい元日は幕を閉じた。


「膜を閉じた?」


「地の文に反応しないで」



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