今回は初めての中(編)出し(中編)

「お正月に餅をつくくらいだったら彼女をつきなさいよ。そんなんだから少子化するんだよねこの国は」


「本当もういろんな人に謝ってほしい」


〜〜


「小太郎くんだっこして〜」


「おんぶじゃないんだ。どちらにせよ嫌だけど」


近所で有名な神社へ参拝しに来たところ、案の定すごい人だった。


「これ、あと何時間くらい待つのかな」


「一時間弱くらい?」


「一万三千円プラス指名料二千円」


「何なの急に」


「ねぇ小太郎くん〜」


花上さんが俺の袖をぐいぐい引っ張ってくる。俺もニートだから、正直すでにちょっとキツイんだけど。


「ちょっとくらい我慢してよ」


「放置プレイってこと?」


「どうしてそう思うの?」


「放置プレイは男がしてもらうプレイだからね?」


「何で突然説教口調なの?」



ともあれ、列は徐々に進み、思ったより早く、俺たちの番が回ってきた。


俺は五円玉を投げ入れて、手をあわせる。今年も健康で入られますように。


「胸がでかくなりますように店が繁盛しますように」


花上さん……。


「よし。行きましょう」


「うん……」


かくして、俺たちは神社を後にした。次に向かうのは、商店街である。ここもまた人が多い。夏祭りくらいの混み具合だ。


「小太郎くん」


「なに」


「あの神社、子作り神社なんだって」


「言い方が悪すぎるよね」


子供を授かる御利益があるらしいけど、俺たちには無縁だ。


「だからあそこに並んでる夫婦はみんな」


「はいストップそこまで」


「今度は寸止めプレイ?それも男がしてもらうプレイだと思うけど」


「いいからほら、進んで」


人混みの中を、身をすぼめながら歩く。


「あっ、小太郎くん。私ゲームセンターに入りたい」


「えぇ……。もっとこう、正月らしい店に行こうよ」


「お風呂屋さん?」


「だからどうしてそうなるの」


「お年玉の時期だから、奮発して、ね?」


「お年玉貰う年齢の人は、そういうお店に行かないと思うけどね」


一日にして形なく消えたお年玉について、親にどんな言い訳をするというのだろう。


「まぁゲーセンでもいいんだけどさ。なに、花上さん、UFOキャッチャーとか得意なの?」


「私がそんなものやる金を持っていると思う?」


「……」


「昔からやってみたかったの。小太郎くん。お願い」


花上さんはこちらに頭を下げてきた。たかがUFOキャッチャーでそこまで……。


「じゃあ、ちょっとだけだよ」


「やったぜ」


と、いうわけで、ゲーセンへ。商店街の中にあるということもあり、たくさんの人がいる。


花上さんは大股でどんどん歩いて行き、店内を物色し始めた。


「花上さん。そっちは格闘ゲームのコーナーだよ」


「すごい!液晶の中で人が動いてる!」


「江戸時代からタイムスリップしてきたの?」


「エロ時代?」


「難聴シリーズやめて」


そのあとも花上さんは、鼻息を荒くしながら、二階の音ゲーコーナー。三階のコインゲームコーナーなどを見て、再び一階のUFOキャッチャーコーナーに戻ってきた。


ちなみにその間俺は、適当に何台か試して、花上さんでも取れそうな台をチェックしていた。我ながらできる男だと思う。


「花上さん。この台なんかどう?」


俺がオススメしたのは、百円で四回プレイできる、スウィートランドという機械だ。これなら小学生でもある程度は景品が取れて楽しい。


「何これ面白そう」


「はい、百円」


「……ねぇ、小太郎くん」


「なに?」


「これ、中のお菓子を取るよりも、百円でプリッツとか買った方がお得じゃない?」


「あーあ言っちゃった」


最悪のタイミングで賢さを発揮してしまった。仕方なく俺は、別の機械をオススメする。


「じゃあこれはどう?」


「これ、中のぬいぐるみ、百円ショップで同じようなやつを見たことある」


「……じゃあこれは?」


「昨日見たライブチャットの女の子が抱えてたぬいぐるみに似てる!」


「……」


「小太郎くん。ゲームセンターって楽しいね」


「そうだねぇ」


結局花上さんは、そのライブチャットの女の子が抱えていたぬいぐるみに挑戦して、あえなく撃沈した。


このままでは後味が悪いので、仕方なく、俺が千五百円使って、取ってあげた。


「ありがとう小太郎くん。私もこれを抱えて、ライブチャットに出てお金を稼ぐね」


「今すぐ返して」


まだ1件目なのに、すでに疲れてしまった。身体的な面は間違いなく神社の列のせいだけど、今度は精神面が……。


「次は下着売り場に行きたいの」


「すごい断りたいけど断りづらい」


足りてない現実を知っているだけに。


と、いうわけで次に来たのはランジェリーショップ。男が来たらすごい顔をされるかなと思ったけれど、わりかし店内にはカップルがいたので、安心した。いや、安心していいのか……?、


「花上さん。下ネタ抜きでちゃんと選んでね。死活問題なんだから」


「わかってるわかってる。ちゃんとその辺のおっさんに痴漢されても恥ずかしくないパンツを選ぶから」


「花上さん?」


全然わかってなさそうだけど、本人がそれでいいならいいや。


「うーん。悩むなぁ。ねぇ小太郎くん。どっちのパンツが私のあそこに似合うと思う?」


「あそこって補足必要だった?」


「でも被るならこっちなんだよねぇ」


「頼むから履くやつだけ選んで」


「あと、どっちのブラが盛れると思う?」


「どっちにしろ盛れないと思う」


「……あっ、そ」


花上さんの目から突然、光が消えた。しまった。地雷を踏んでしまった。なんとかフォローしないと。


「でもそっちの方が明るい色だし、いいかもね」


「店の経営の先行きが暗いのに、明るいブラつけてもねぇ」


うわぁ拗ねてる。


「明るいブラつければ、店も明るくなるかもよ」


「何それ。なるわけないでしょ。そんな理論が成立するなら、今頃エネルギー問題なんて解決してると思う」


「俺が悪かったから機嫌直してよ」


「……ふーんだ」


漫画のキャラみたいな台詞を吐いて、花上さんはレジへと向かっていった。もちろん支払いは俺だ。総額六千五百円。なんでこう女の子の下着って高いんだろう……。



「次に向かうのは、家電屋さん!」


「すっかり元気になったね」


「精力剤飲んだから」


「何してんの」


と、いうわけで、家電屋に来た。いや、家電って、だいたい高いし、ここで一気に俺のライフが削られそうだ。


花上さんは迷うことなく、三階へ。


「電子レンジが欲しいの」


「……安いやつ、ね?」


「どーせ小太郎くんのことだから、電マとか欲しいって言うと思ったんでしょ」


「思ってないしアレそもそも家電屋においてないでしょ」


でも、勘違いする人がいるかもしれないな。その場合、訊かれた店員さんはかわいそうだけど。


「しかし近頃の家電はすごいね」


「うん」


「電動オ○ホと連携するエロゲーとかあるらしいよ」


「科学の進歩の例がそれなの?」


「あとVRのエロゲとか」


「ねぇ」


「次は人肌にあったまるヒーターを内蔵したラブドールとか、出るかもね!」


「出るかもね」


終わりそうもなかったので適当に合わせてしまった。浴衣姿の美しい女性が下ネタを言う光景を見て、周りの大勢の客は、微妙な顔をする。視線が痛い。特に家電屋はあまりうるさくないので、今までの場所よりそれが顕著だ。


「花上さん。今更だけど、一応公共の場だから、下ネタは控えめでね?」


「じゃあもう貧乏ネタしかないけどいいの?」


「……軽めの下ネタで」


「りょーかいエッチ」


小学生の低クオリティな下ネタみたいなものを呟いたあと、花上さんは駆け出した。よく着物着ながら走れるな……。


急いで追いかけた先にあったのは、電子レンジコーナーだった。


「本当に電子レンジ買うの?俺」


「安いやつでいいから」


「でもそんな都合よく安いやつなんてないんじゃ……」


あった。


大特価!と大きく看板が設置されていて、装飾も派手。スペックを見る限り最新のものっぽいけど、値段が明らかにおかしい。


「……二千円?」


「小太郎くん。アホな私でもわかる。これは罠」


「アホって自覚あるんだ」


しかし、横にある同じスペックの電子レンジは、軽く一万を超えてくる。なぜこれだけ、ここまで安いのか。


「おっ、いいものに目をつけましたねぇ」


突然、背後から声をかけられた。店員さんだ。かけている名札に、研修中との文字がある。


「あっ、初めまして。私、草薙凛子です。胸の大きさには自信があります。よろしく」


「うわ」


今回ばかりは無警戒だった。こいつも下ネタ使いだ。長い黒髪。言うだけはあるでかい胸。一人の時に対峙していたら、そんなに悪い相手ではなかったと思うけれど……。


「死ね。巨乳が何の用だ」


花上さんから、負のオーラが溢れ出ていた。人殺しの目をしている。これ以上犯罪者キャラはいらないんだけど……。


草薙さんが困ったようにこちらを見てきたので、俺は花上さんの前に立つ。


「あの、草薙さん。この電子レンジ、どうしてこんな安いわけ?」


「……私が落として破損したからです」


「うーわなにそれ」


それ、売っていいのかよ。


「けっ、どーせ巨乳だから商品落としても許されたんだろうね。巨乳だから!」


「花上さん、ちょっと落ち着いてね」


「うるさい!どーせ男子はみんな巨乳が好きで毎晩オカズにしてるんでしょ!?」


「声がでかいよ花上さん。みんな見てる」


「どーせ見てるのはこの女の巨乳だけでしょうが!」


ダメだこれ。埒が明かない。草薙さんもオロオロし始めてる。まずい。これでは完全に、研修中のバイトをいじめるクレーマーだ。


「わかったわかった花上さん。この安い電子レンジを買ってあげるから。ね?」


「誰がこんな巨乳の触った電子レンジなんか使うもんですか!触れた箇所から母乳が出るわ!」


「そんな怪奇現象起きないから。ほら、行くよ」


「あうーーー!離せ〜!人でなし!童貞!童貞!」


「なんで童貞二回言ったの?」


俺は右手に電子レンジを、左手に花上さんを持ち、レジへと急いだ。より一層人目を集めるけど仕方ない。


「あの、お客様。本当にいいんですか?」


「いいですよ。ちゃんと動くんですよね?これ」


「はいっ。やや破損しているというだけで、機能はします」


「もしかして草薙さん、定期的に家電落としたり壊したりしてる?」


「……恥ずかしながら」


……これは今後もお世話になることになりそうだ。


「あの、お客様。そういえば、こないだ私がアダルトショップで買ったのに、サイズの合わなかった電動式の固い棒があって……」


「それはいらない」


下ネタプラスドジっ子キャラ、といった感じか。なんだそれ。もう完全にただのエロい女の子じゃないか?しかも胸がでかいし。R指定がつきそうな展開はやめてほしい……。


「小太郎くん。そろそろ離してくれない?」


「ダメ。今離したら、草薙さんにちょっかいかけるでしょ」


草薙さんはもう持ち場に戻っているけど、この人平気で走るし、油断したら、すぐに何かやりそうだ。


「そうじゃなくて、あの」


「何」


「……まぁ、いっか」


「なんなの」


そういうわけで、俺は家電屋を出るまでは、花上さんの手を離さなかった。


その後しばらく花上さんは口をきいてくれなかったんだけど、よほど草薙さんの件が癪に障ったんだろうなぁ……。

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