連発(新キャラを)(後編)

「お兄ちゃんは昔から結構モテるんですよね……」


「なっ、じゃあすでに済ませてる可能性も……」


「はい。多分何人かは堕ろさせてます」


「こらこらこらこらこら」


〜〜


「……うわ、三十八度って、本当に熱あるんだ」


「だから言ったじゃん」


「確かに、小太郎くんの言った通り、連絡手段は交換しておくべきだね」


「俺そんなこと言った?」


「言ったよ。熱で忘れてるんじゃない?」


「その理論、危ない方向に行きそうだから、もう終わりね」


場所は変わって、俺の部屋。


華子は、「二人のうっかりエッチの現場なんて見たくないから、部屋に戻るね」と、やや棘のある言葉を残して去って行った。この人ヴァージンだから、絶対そんなことにはならないんだけどね。


「小太郎くん。ベッドで寝てていいんだよ。私別に小太郎くんが寝てる間にエロ本探そうとか思わないから」


「それならいっそ帰ってくれないかな」


「ダメそんなの。今帰ったら今日の下ネタノルマが達成できない」


「何そのクソみたいなノルマ……」


貧乏ネタノルマもあるのだろうか。いやそんな、ノルマ達成するほど聞きたくないなどっちも。


「……こうして二人きりで部屋にいると、間違いを起こしそうじゃない?」


「あなたがその気ならね」


「ダメダメ。アレがないもん」


「あっ、なんだ。てっきり花上さんのことだから、財布に入れてるとばかり」


「一時期、あまりに財布が薄くて悲しくなったから、アホみたいに入れてたけれど、虚しくなったからやめた」


「悲しい……」


やはり貧乏ネタのノルマもあるらしい。


「でもよくあるじゃない。風邪をうつして治すためにキスするとかエッチするとか」


「後者はないと思うんだけど」


そんな性病みたいなうつしかた嫌すぎる。


「薬をこう……口移しで飲むとか」


「それはだいぶ高度だよね」


「塗り薬をアレに塗るとか……」


「風邪じゃないよねそれ」


「一応塗り薬持ってきたんだけど、使う?」


そう言いながら花上さんは、塗るタイプの精力剤を枕元に置いた。どう考えても体温上昇中の人が使ったら死ぬと思うんだけど。


「花上さん。ちょっと本当にしんどくなってきたから、帰ってくれない?」


「そういえば、私がここに来た理由をまだ説明してなかったね」


「どうやって住所を知ったのか、今更ながらそっちの方が気になるけれど、それはいいや。うん。聞いてあげる」


「小太郎くんにクリスマスプレゼントをもらうためだよ」


「帰って」


俺は布団を深く頭までかぶった。花上さんが無理矢理それを引き剥がそうとする。


「病人なんだけど」


「わかってる。わかってるよ小太郎くん。でもね、女にはやらねばならない時があるの」


「本当にしんどいんだって」


「私も今月の給料が少なくてしんどいの」


「知ったことか」


精力剤なんて買ってるからだ。使い道もないのに。ただ下ネタを言うためだけに。


「皮被ってないで出てきてよ小太郎くん」


「嫌です」


「早く出ないと布団に精力剤塗るよ」


「待って」


「あー剥けた」


仕方なく布団から出ると、花上さんはすでに精力剤をスタンバイしていた。この人、本気になると本当に人の話聞かないんだよな……。球技大会の時もそうだったけど。


「あのね、クリスマスプレゼントって言ったって、買いに行く体力がない」


「私、忘れてないよ。誕生日、次来るときは何か持ってくるって言ったのに、小太郎くん何も持ってこなかった」


「……あ〜」


それはでも、外木場さんから急に連れてこられたからであって、仕方のないことだと思う。いや、まぁ忘れてたんだけどね。


花上さんは微妙に悲しそうな顔をする。やめてくださいそういう普通の女の子みたいな顔。俺は騙されませんよ。


「……じゃあ、元日に、ショッピングでもする?」


騙されてしまった……。


「……小太郎くん」


「なに」


「二人きりで?」


「そりゃそうでしょ」


二人きりでないとしたら、残りの候補は二人いるけれど、どちらも連れて行きたくない。特に華子は、出かけるたび色々ねだってきて、それに毎回兄としての本能が負けてしまうから絶対に嫌だ。


「……でもそれって、その」


「ん?」


「いや、何を考えてるんだ私。落ち着け。目の前にいるのはただの童貞浪人失敗ニート」


「何その純粋なパワーを持った悪口は」


大学に落ちたばかりの俺だったら、その言葉だけで三日は塞ぎこんでる。


「小太郎くん。私、勝負下着って持ってないの。というか、下着の数が少なすぎて、毎日が勝負ではあるんだけども」


「何突然」


「でも男の子ならティーバックの方が好きだよね?」


「ちょっとごめん。話がぶっ飛んでない?」


「ぶっ飛んでるのは小太郎くんのシードでしょ」


「ふざけるな」


「じゃあ」


花上さんは突然立ち上がり、こちらに背を向けた。


「が、元日、楽しみにしております」


「……はぁ」


「それでは、また」


あっさりと、出て行ってしまった。


でも、これでようやく寝られるし、年内はあそこに行かなくて済むんだと思うと、かなり気が楽だ。


「お兄ちゃん。お疲れ。何発出した?」


「頼むから寝かせてくれ」


……華子には、内緒にしておこう。絶対何かねだられるから。



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