連発(新キャラを)(前編)

「そもそもクリスマスってちょっと文字を伏せるだけで下ネタになるのがダメなんだよね」


「だから性なる夜とか言われてしまうんですよね」


「子作りしましょうみたいな雰囲気出しといて、聖なるとか言われても困るよね」


「ごもっともです」


「すいませーんお二人ともそろそろ始まりますよー」


〜〜


「お兄ちゃん」


「はい」


「クリスマスに高まりが限界まで登り詰めて、そのままエッチしちゃう夫婦、絶対自制心が足りないし、いつかちょっとしたことで子供を虐待するよね」


「それ、わざわざ俺の部屋まで来て言うこと?」


本日はクリスマス。そう、クリスマスイブではない。クリスマスだ。


俺は昨日、高熱を出してしまった。しまったというより、出すことに成功したというか、ああいや下ネタではなく。


そんなわけで、ラブドリームへの連絡手段は無いし、無断欠席をしたのである。サボったわけじゃない。現に、今も少し熱が残っていて、こうして妹に看病を……。


「はい、パンツ濡らして置いたから、おでこに置いてね」


してくれるはずもなく。


いや、してくれてはいるんだけど、残念ながら方向性が、こう、この作品向きというか、うん。


「あっ、勘違いしないでよねお兄ちゃん。パンツは水で濡らしたんだよ」


「わかってるよ。あの、冷えピタの替えはないの」


「さっきカラスの餌にしちゃった」


「捕まるぞ」


「冗談だよお兄ちゃん。はい、冷えピタ」


「ありがとう」


時刻は午前十時。何だろう。昨日寝たのが早かったからかな。こんなに早く起きたの、久しぶりだ。ニートになると、基本的に時計がちょっとずつズレてしまって、めちゃくちゃになる


「ねぇお兄ちゃん。クリスマスなのに彼女いないの?」


「いないよ悪かったですね」


「私が彼女になってあげようか?」


「あのね」


「大丈夫だよ。ラノベみたいに義理の妹の程でいくから。ちゃんと妊娠したら堕ろすし」


「朝から生々しい話やめてくれない?」


妹は昔から、こういう何というか、グロいというかエグいというか、社会の闇の部分が好きだ。下ネタキャラプラス、闇キャラ?何だか怪物みたいになってしまった。


「でも、彼女いないのか……。じゃあさ、お兄ちゃん。今朝から、ドアをノックする音が止まらないのは何でかな」


「ん?」


俺の部屋は二階の奥なので、当然そんな音は聞こえない。えっ、怖い怖い。なにそれ。


仕方なく、パジャマのまま、俺は玄関へと向かった。ノックの音はしない。ホッと一息つく。


「何だ。しないじゃん、音」


「変だね。さっきまでしてたのに。帰ったのかな」


妹が扉を開ける。


「おはよー小太郎くん」


「お早うございます」


俺はすぐに扉を閉めた。妹がこちらを、キョトンとして見つめてくる。


「知り合い?」


「違う」


「でもお兄ちゃんの名前知ってたよ?」


「最近個人情報とかガバガバ出しなぁ。しょっちゅうどっかの会社が個人情報漏らしてるじゃん」


「私もしょっちゅう漏らしてるけどね」


「病院行こうか」


ドアをノックする音が聞こえる。だけど無視だ。いや、待てよ……?


俺、別に悪いことしてないよな。連絡手段なかっただけだし、ここで普通に謝れば、許してもらえるのでは……?


意を決して、扉を開ける。


二人が、真顔で立っていた。


「あ、あのお二人さん。昨日はちょっと熱が出て、その。ごめんなさい」


「そんな嘘が通用すると思ってるの?」


「そうですよ。この嘘発見器も確かに陽性反応が出てます」


「妊娠検査のやつだよねそれ」


一体どこで手に入れたんだろう。怖い。


「中、入ってもいい?」


「いや、熱はマジなんだよ。今も正直しんどい。勘弁してくれ」


「いっつもすっぽんぽんで一人エッチするからそういうことになるんですよ?」


「そんな特殊な性癖ないんですけど……」


「お兄ちゃーん。部屋が冷えるから扉……」


「……華子?」


「……安実、さん?」


華子と外木場さんが、睨み合う。その間に挟まれた俺は、とりあえず一歩退いて、花上さんの方に逃げた。


「ちょっと小太郎くん。二人は知り合いなの?」


「知らないよ。妹は不登校だから、友達がいるはずないのに」


「妹さん不登校なの……?」


「そこはいいから」


アホな下ネタおばけに痛いところを突かれるのが嫌だったので、すぐに話を流してしまった。


「安実さん。先日はどうも。あの後、大丈夫でしたか?」


「えぇ。おかげさまで。あなたがいなければもっと事は早く済んだわけですが」


「二人とも微妙に会話の核を隠して、意味深な感じにするのやめてくれない?」


「ちょっと小太郎くん。今はダジャレと下ネタの両立をしてる場合じゃないでしょ」


「茶々入れてる場合でもないよ」


ダジャレの方は正直思ったけれど、下ネタの方はかなり高度すぎるんじゃなかろうか。それをわかってしまう自分が嫌だ。


「……まぁいいです。華子。今回はお互い、会わなかったことにしましょう」


「そうですね。では」


「では」


「では、じゃないんだって。ねぇ外木場さん。華子」


「渡辺くん。私、年内はこれが最後の出勤ですから。また年明けに会いましょう。では」


「だから、ではじゃないんだって。微妙な空気残していかないでよ」


しかし、俺の発言に耳を傾けようともせず、外木場さんは走って帰って行ってしまった。


「あっ、こんにちは〜!お兄ちゃんの知り合いですか」


「……小太郎くん。ツッコむのは男の仕事だよね」


「そ……うん!そうだね」


初めて下ネタを許容してしまった。悔しい。

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