身も蓋もロマンもない

 俳優ハリソン・フォードの名を聞いて『スター・ウォーズ』を思い浮かべる人は多いだろう。他にも『アメリカン・グラフィティ』『ブレードランナー』『ワーキング・ガール』など多くの出演作がある。深水は真っ先に93年公開の映画『逃亡者』を思い出すようだ。


 しかし、深水が初めてハリソン・フォードを知ったのは、小学生のときテレビで観た『インディ・ジョーンズ』シリーズだった。


 日本ではインディ・ジョーンズとして知られているが、インディはインディアナの通称である。

 主人公は大学で教鞭をとる考古学者インディアナ・ジョーンズ。彼には世界をまたにかける冒険家としての顔があり、スリルとロマン溢れる物語を展開する。


 このインディアナ(インディ)・ジョーンズというのが、なかなかの色男で冒険の最中、ロマンスも繰り広げられるのだ。


 そしておマサさんは小学生だった深水の夫と一緒にこの映画を観ながら、よく顔を顰めていた。


「あいつらはすーぐ口をおっつける。きったねぇったら」


 つまり、訳すと「外国の人たちはすぐキスをする。汚いったら」である。


 身も蓋もへったくれもない。もちろんロマンもない。

 孫が膝をすりむいたとき、傷口に「かぁ、ぺっ!」と唾をつけて叩き、「よし、これで治る!」と済ませてしまうのだから、おマサさんはキスが汚いなどと言える立場にない。だが、人は自分のことは棚に上げやすい生き物らしい。


 彼女の文句を聞いた夫はおマサさんにこう尋ねた。


「ばあちゃん、じいちゃんとキスしないの?」


「するわけねぇべ! 気持ち悪りぃ!」


「そんなにじいちゃんが嫌いなのに、なんで子どもが四人もいるのさ」


「しゃあねぇべ! 田舎はな、暗くなったら他にすることねぇんだ!」


 インディ・ジョーンズを観ながらする会話とは思えないが、小学生の孫に赤裸々に語るところがいかにもおマサさんらしい。

 おマサさんとの毎日の方が、よっぽどスリリングで愉快なアドベンチャーだと思う深水である。


 さて、今宵はここらで風呂を出よう。


 猫が湯ざめをする前に。

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