キレ者

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 投票結果


 サムラ → なし

 クメイ → サムラ

 エイリ  → サムラ

 シズカ → サムラ

 ミツル → サムラ

 マナ  → サムラ

 モモ  → サムラ



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 野球のコールドゲームを見ているようにそれは圧倒的だった。サムラ以外はサムラを指し、サムラは誰も指さなかった。


「お前は誰も指さないのか?」


「まぁいいでしょ。もうこいつが誰指しても意味なんてないんだし」


「それで……サムラ、何か皆に言うことはないのか?」


「せ、拙者はロウジンではないでござる……」


 サムラは僕たちが何を言ってもそう繰り返すばかりだった。満場一致で決まったし、一応スジが通っていたとは思う。しかし僕はその態度にいささか不安になってきた。もし彼がロウジンだとしたら、こんな態度取るだろうか。もうどうせ死んでしまうのだ、自分がロウジンだと打ち明けて、博士をどうやって殺したとかそういうことをネタばらししてもいいと思うのだが。


 21時が近づき、エイリを見ると彼女も緊張の面持ちだった。そうだ。もし、これで外れていれば脅し通りエイリかモモがこれから殺されてしまうということなのか。そうならないように願うしかない。


「そろそろか」


 21時を過ぎたときだった、それまで完全に機能を停止していたように動かなかったファントムが動き出し、サムラのもとへと向かった。


「ひ、ひえッ……!」


 サムラは席を立った。


「どうする気だ……?」


「当然自分自身を老化させる気だろう。殺されるのは嫌なはずだからな」


「で、でも、なぜ彼はあんなに怯えているんでしょう。自分の分身のはずなのに」


「……死ぬのが怖いだけだろ」


「ひ、ひいいい!」


 サムラは走って部屋を飛び出していってしまった。ファントムは扉をすり抜けてその姿を追いかけていく。


「おい、外に行ってしまったぞ」


 僕たちはその姿を追ってぞろぞろと部屋の外へと出た。すると通路にはサムラが一人立っているのが見えた。どうやらファントムはすでにサムラの体の中へと入り込んでしまったらしい。


「あああああ……体が! 拙者の体がぁ……!!」


 遠目に見てもサムラの体の変化が伺えた。どんどん髪の毛が薄くなっていき、落ち武者のような髪型になってしまった。僕たちはそんなサムラの変化を遠くから見守った。


「あ、あの……やっぱりこれって何だかおかしくないですか……」


 隣に立つエイリに僕は声を掛けた。


「え……?」


「ロウジンは自分以外の誰も老化させなければ勝手に老化していくもんなんじゃないんですか。自分の体にファントムを突っ込ませる必要なんてあったんですかね……」


「それは……」


 その時、ファントムがサムラの体から顔だけを出してきた。まだサムラは死んでいないようだが、そんなことも出来るのか。


「ククク、その通りですミツル様。残念ながら今回の投票は外れてしまったようですね」


「え……!」


「そ、そんな……」



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 サムラの遺体を処理したあと、僕達は再びミーティングルームへと集まっていた。

 ファントムはサムラの若さを吸収し終えると「また明日お会いいたしましょう」と言い残し床へとすり抜けていってしまった。


「外した……まだ、この中にロウジンはいるっていうの」


「くそッ……ロウジン……思った以上にキレ者のようだな。振り回されっぱなしじゃないか」


 確かにクメイの言う通りだ。さきほどエイリの推理は完璧にも思えたのに。


「そういえばエイリ、今回俺達はロウジンを外したのにお前は老化しなかったな」


「確かに……それもそうね」


 エイリはロウジンに言うことを聞かなければ老化させると言われていたはずなのに。


「単なる脅しだったってこと?」


 マナが頭を傾げながら言う。


「さぁな……脅されたというのは自作自演でエイリ自身がロウジンという可能性もある。そうであれば老化しないのは当然のことだ」


「な、なんですって?」


「お前は情によって、ロウジンかロウジンでないかを判断しようとした。だがあれもよく考えたらガバガバな話だ。人の心情なんて端から見ても分からんのだからな」


 二人はまるで憎みあうようににらみ合っていた。さっき二人が推理していた時、この二人はくっつく可能性もあるんじゃないかとか思ってしまったが、それは撤回しておこう。


「あの……」


 僕はそこで2人の会話に割って入るように手をあげた。


「何?」


 そのまま2人に強い視線を向けられる。


「……エイリさんが老化されなかった理由なんですが、さっきそのことについて考えてて、一応その理由は分かった気がします」


「何……? 言ってみろ」


「もしかしたらの話ですけど、逆にエイリさんがロウジンに反抗したことによって殺せなくなったのかもしれません」


 僕の言葉にエイリは首を傾げた。


「……どういうこと?」


「えーっと、現在残り航海日数が3日で生き残っている人数は6人ですよね。つまりこのままロウジンが投票により選ばれることがなければ最終的に生き残れる人数は3人となります」


「……うん、それで?」


「この中にいる全員が一応ロウジンではない理由を持っています。しかし自分で言うのもなんですが、僕とマナはみんなよりもその理由が強く、これからの投票でほぼ間違いなく選ばれる事はないと思うんですよ」


 モモを見ると少し口を開け何だか不思議そうな顔をしている。これはちゃんと説明をした方が良さそうだ。


「一応その理由を言っておくと、僕はロウジン自身がエイリさんとモモさんを通して殺そうとした相手だし、マナはその僕を自分の命よりも大事だと皆の前で証明したからです」


 他の者は死んでしまった相手のことを本当に大切に想っていたのか、立場的にそうであろうというだけでそれを証明出来たわけではない。


「まぁ……それはそうかもしれないわね」


「つまりこれって3人中2人の生き残る枠は既に埋まっちゃってるってことですよね? こんな状態でエイリさんをロウジンが老化させてしまったら、サムラさんをロウジンだと疑っていた僕達はサムラさんを自分たちの手で殺していたでしょう。そして老化以外の方法で余計に1人殺してしまったら生き残れる人数は2人になってしまう。ロウジンはいずれ絶対に投票で指されて死んでしまうということです」


「なるほど……」


「もしエイリさんが脅されたことを話さなければ僕やマナはロウジンの疑いから外れるなんてこともなかったんですけど、エイリさんが脅しを破ったことによって脅しが無効になった、そんなところですかね」


「そっか……」


 エイリは腕を組んで極端なほどに頭をかしげて何かを考えていうようだった。


「どうかしたんですか?」


「いえ、ちょっとね……そのことを私はやっと今ミツル君に言われて気付いたわけだけど、ロウジンはそれを私が約束を破ってからサムラが殺されるまでに気づいたってこと? それってなかなかすごいことじゃない?」


「……そうですね。でもクメイさんが言っていた通り、ロウジンはかなり頭が切れる人物のようですし、そのくらいの事すぐに気付いてもおかしくはないと思います」


「……はぁ。まったく、なんでそんな人物が発症しちゃったのかしらね」


 本当にその通りだ。ロウジンははっきり言って明らかに不利な状態だったはずなのにここまで生き残り続けているなんて。

 頭が切れる人物か、一体誰だろう。この中で一番頭の回転が速そうなのはクメイだが。いや、本当に頭が良いのであれば無能なふりをしている可能性もある。結局それだけでは特定出来ないか。


「ん? ってことはつまり、もう私たちは脅される心配はないってこと?」


「それは……もうロウジンは老化以外で誰にも死んでほしくないだろうから……そういうことになりますね」


 脅しが効かないなら、次からは公正な投票が行われるということだ。


「それにしてもミツル。お前、最初に比べてなんだかよく喋るようになったんじゃないか」


「え? えぇまぁ……なんというか、最初ははるかに年上ばかりで臆していたところがあったのかもしれません」


「実際話してみたら大したことはなかったってことか?」


「い、いえ……別にそういう意味ではないですけど……」


 クメイは僕の言葉に少し顔を緩めた。別に本気で嫌味を言っているわけじゃないらしい。


「まぁ、そんなもんだよ」


 と、最年長のマナの言葉。


「ある時期を超えたら人間なんてそう変わらなくなるからね」


「そんなものかな」


「たぶん昔は見た目の年齢もあったんじゃないかな。こんな見た目ではしゃいじゃうのはおかしいなぁなんて客観的に自分を見て思ってた部分もあったけど、今はそんなの関係ないし。きっと精神年齢っていうのは見た目に引張られるものなんだよ」


「ふーん……」


 マナは結構歳がいくいまで不老ではなかった。つまり老化した経験のある人間だ。経験者は語るというやつか。

 その後、僕達はその場を解散することになった。


「不本意ではあるが、また明日の20時にここに全員だな。次こそロウジンを特定してやろう」


 みんなが部屋に帰っていくなかで、シズカがマナに話しかけていた。何だろうと眺めているとマナがこちらにやってきた。


「ミツル、ちょっと私たち仕事の話があるから先に部屋に戻っておいて」


「うん? あぁ……分かった」


 シズカもロウジンである可能性はある。マナと2人きりにしておいて大丈夫なのだろうか。しかし先ほど僕が話した通り、ロウジンが誰かを老化以外の方法で殺すようなことはないだろう。自分の生き残る枠がなくなってしまうからだ。とりあえず大丈夫と思っていていいか。



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