第5話

ドアを開けてすぐに目に入ったのは、綺麗に整頓された玄関であった。

田宮が普段から使っているであろう革靴とスニーカーがぴったりと角に収まった状態で置いてあり、すぐそこの下駄箱には絶妙な角度で飾られた写真たちがあった。

「その何人かで写ってるのは僕の家族で、もう一つは実家で飼ってる犬だよ!かわいいから見てみてー!」

田宮が靴を脱ぎながら指をさす。柏木はもう見たことがあるようで特にリアクションもなくリビングに入っていくが、健太は気になったので写真を見つめていた。

犬をよく知らない健太でもよくわかる。これはチワワという種類だ。ツヤのある白い体毛とビー玉のような澄んだ瞳は、何より元気な様子を想像させる。

家族写真は田宮と両親と男性がもう一人。180センチはあるであろう田宮より背が高く、黒い髪をオールバックで固めている大人の雰囲気から、お兄さんだろうと察する。

「僕の隣にいるのが兄貴ね、いま体育の先生やってるんだよ!」

気づくと後ろに田宮がいた。集中して見ていたため不意の声に一瞬たじろいだ。

「お兄さんいらっしゃるんですね、結構似てますね。」

「そうそう、よく言われる!あ、すぐそこに洗面所あるからね!」

言われるがままに洗面所で手を洗う。石鹸も歯ブラシも綺麗に並べられており、一ミリたりとも動かしてはいけないような雰囲気がある。ふわふわのタオルで手を拭きリビングに入ると柏木がホットドッグを食べながらスマホをいじっていた。

その間に田宮が沸かしてくれたお湯でカップラーメンを作り、だんだんと柔らかくなる日の光が射す部屋での食事が始まった。

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