第30話 秘めたる効果

「で? お前たちはなんなんだ?」


「野郎は引っ込んでろ!」


「ならお前らも引っ込め。野郎だろ」


「なんだとこんガキが! 細切れにして鮫の餌にしてやろうか!」


 この世界にもジョーズがいるんだな。


「つーか、むしろお前が餌なんじゃね?」


 どうみてもアザラシの獣人だ。きっと美味しく食されるに違いない。


 よく見ると獣人が多いな。海だからかカモメみたいな鳥頭や亀みたいな海棲の獣人が多いようだ。

人族は頭と呼ばれた巨漢の男以外は数人ほどしかいない。


「ぶっ殺してやる!」


「彼らを甘く見ない方がいいですよ」


「は!? なにを馬鹿なことを――。シェンさん!」


 盗賊団の後方から長身の男が歩み出て来た。黒のジャケットとスラックス。白のシャツが照りつける光を反射して眩しい。そしてサングラスがやたらと決まっていた。


 しかしここは椰子の木が生い茂るまさに常夏の海。場違い感がハンパない。


「おい、シェンどういうことだ」


「お頭、彼らが身につけているのはただの水着じゃありません。高価な魔導具です」


「ほう、それは金になるじゃねーか」


「それと、あそこの美女二人は特にやばいです」


「おう、やべえほど別嬪だな。下半身が疼くぜ」


「いえ……。内包されている魔力がとてつもなく大きいのです」


「ほほう、それはいつも通り気をつけねーとな」


「ちなみにそこの狼くんもなかなか強そうですが、もう一人の人族は無能なのでまったく脅威ではないでしょう」


「ちっ、そんな奴は売れねーだろ。まあ、奴隷の数は多いに越したことはないか。にしても狼獣人は珍しいな。ガキでも高値で売れそうだ」


 顎に手をあて舌なめずりする巨漢の男。肌のテカリが気持ち悪い。


「おい、お前ら。大人しくすれば命だけは助けてやろう。女どもはたっぷり可愛がってやるから心配するな」


「お頭! あとで俺らにも回してくださいよ!」


「お頭! その狼の彼女だけはあっしにください! はぁ、なんて可愛いんだ。早く頬ずりしたい! でへへへへ」


「ルイスさん、あの人なんか怖いです……」


 涙目で俺の背中に隠れるアクア。


「はあ、折角、美味しい鮪で盛り上がっていた気分が台無しだよな。まさかこんなところで盗賊団なんかに邪魔されるとは」


「私たちは盗賊なんかじゃありませんよ」


「は? いやどうみてもそうだろ」


「馬鹿が! あれを見てみろ!」


 盗賊の一人が指差した先は沖だ。


「うわ、またなんつーか古いな」


 大きな帆船? いや多数の櫓が飛び出しているからガレー船か。帆には大きく髑髏マーク。


「俺様は海賊王、ラスカルだ!」


「ぷっ」


「てめえ……。いま笑いやがったな」


 いやだって見た目に反して、めっちゃ可愛い名前なんだもの。


「海で自分のパンツでも洗ってろ」


「なっ――」


「随分と余裕のようですが、私たちに対抗できるとでも?」


「お前さっき自分で俺らを舐めない方がいいとか言ってなかったか?」


「そもそも貴方は含まれていませんでしたがね。たしかに魔力保有量は桁違いに多いようですね。たしかにそれを自由に使えたら我々も少々手こずることでしょう。ですが――」


 シェンと呼ばれていた男が右手を上に掲げる。


「なんのつもり――」


 爆発音が遠くであがったと思うと、すぐに上空で何かが破裂した。


「なんだこれは? 雪?」


「ま、まさかこれは――」


 空からひらひらと白い粉が舞い落ちてくる。さっきのガレー船から撃ったのか?


「どうしたんだ、レオーラ」


「これはアンチマジックフィールドですわ!」


「名前からするともしかして魔法が使えない?」


「それだけじゃありませんわ! 魔力保有量に応じて体が重くなるのですわ。ああ、なんか肩が凝ってきましたわ……」


 それって単にその御身に宿る熟れた果実のせいじゃね?


「これで問題はそこの獣人二人だけですね」


 そうか、獣人は魔法が使えないから影響を受けないのか。


「ちっ、そういうことか」


「ふふふふふ、お気づきになりましたか」


 相手の魔法を封じて、あとは肉弾戦に持ち込むと。


「でも、お前もそこの棟梁も人族じゃねーか」


「はははは! 魔法なんかひつよーねー! なんていったって俺様の武器はこの強靭な身体だからな!」


 ボディビルドな格好で肉体美を見せつけて来やがった。


「筋肉達磨はいいとしても、お前はどうなんだ?」


 シェンと呼ばれた男はガリガリでどうみても肉弾戦向きじゃない。


「私はそもそも戦う気はありませんからね。無駄話をしていると効果も切れてしまいます」


「おう! 野郎どもやってしまえ!」


「レッド! アクア! お前らは二人を護れ! 俺が奴らを倒す!」


「兄貴! いくらなんでも無茶だ!」


「大丈夫だ。傷一つ負わずに倒してやるよ」


「無能がほざくな! 死にさらせ!」


 三十人近い、海賊が俺へと襲いかかってくる。仕方ない。奥の手発動だ。


 我が身に宿る《インフィニティ》を今こそ解放――。


「不逞なる輩に光の鉄槌を『シャイニングバレット!』」


「「「ぎゃぁああああ!」」」


 光の弾が高速で海賊たちを貫いていく。


「貴様! なんで魔法が使えるんだ!」


 うん、俺も同じ事思ったよ。後ろで守られているはずのアンヘレスの方へと振り返る。


「また被ってたんかい」


 海水浴をするには邪魔だと久々に外していたのだが、狐仮面に戻っていた。うわー、水着とミスマッチ。


「やっと出番が来たわ! この仮面、耐魔法無効化(大)の効果が付与されているんだよ!」


「「「「え……」」」」


 どうやらレオーラも知らなかったようだ。なんだよ、それって凄い魔導具だったんかい。


 そこからアンヘレスの一人無双が始まった。


 かっこつけた俺の出番はあるのだろうか……。

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