アーカイブ43 『Call of Hotalu』


 <添付メモ>

 これは森倉文香が看過してしまった、ある先輩の警告である。


 <音声データ>

 関わらない方が良いわ。

 あそこは絶対に『ただのオカルト研』なんかじゃない。

 もっと何か、そう……忌まわしいものよ。

 ……うん。

 そもそも変でしょ、あの部員の子。

 染髪禁止のこの高校で、あんな真っ白い髪してるなんて。

 でも、先生達は誰も注意しないの。絶対に。

 ううん。生まれつきじゃない。

 事故……らしいんだけどね。本人が言うには。

 子供の頃に、工場の薬品槽に落ちて『ああ』なったんだって

 絶対嘘だと思うけど。

 ……。

 それにね、部室が変なの。

 あの部って、あの子一人しかいないでしょ。

 それなのに、部室棟で一番大きな部屋を割り振られてるの。

 今年入ったばかりの一年生が設立した、人数も足りてない部によ。

 しかもなんの活動するかもよく分からない、変人の部。

 おかしいと思わない?

 え、去年まで?

 そう言われれば、あそこは去年まで何の部屋だったかしら?

 思い出せないわ……変ね……。

 ……。

 …………。

 と、ともかく、私が言いたいのは何か怪しいってこと。

 あの現代神話研究部の部室ね、あの子以外誰も出入りしないの。他の部員がいないのはもちろんだけど、顧問の先生もなんか避けてるみたい。

 誰だっけ、あの腰巾着。

 萌崎君?

 あの男子も部室には入らない。

 それにいつも必ず鍵が掛かってて、窓は黒いカーテンで塞いであるの。

 あの部室には絶対に何かあるのよ。

 その証拠に、あの部屋に近づくと気分が悪くなる子がいるの。

 特に女の子。

 B組の××ちゃんとか……うん、二年B組の……。

 ……それでね。ここだけの話だけど。

 A先輩っているでしょ。

 今、休学してる。

 あの先輩ね、実はあの部室に入ってから「おかしく」なったんだって。

 A先輩って、理事長の孫娘でしょ。

 それに美人で胸もおっきくて、読モとかやってるし。だから人気者で取り巻きとかも凄くてさ。本人もかなり調子乗っちゃってて。

 だから、気に入らなかったみたい。君谷って子が。

 新入生の女の子があんな目立つ髪してて、しかも先生からも特別扱いされてる風じゃない? それで見るからにブサイクとかだったらまだ許せたんだろうけど、あの子も結構顔が良いじゃない。A先輩とは違うタイプだけど。

 だからたぶん早めに『潰して』おこうと思ったんだと思う。

 先輩の方も大概怖いわよね。

 それで例の部室に目をつけてさ。

 きっと部室内で、何か校則違反をしてると思ったんじゃないかしら。

 取り巻きに彼女を足止めさせておいて、自分は教員室から拝借したマスターキーで部室に忍び込んだんだって。

 それでね……。


 

 帰って来なかったの。


 

 うん。行方不明。

 失踪って言うのかしら。

 どこに行ったか分からなくなっちゃったの。

 取り巻き達も、さすがに夜になっても連絡取れないから先生に事情を話してさ。正直に部室に忍びこんだことも白状して、部室を調べさせたんだって。

 でも見つからなかった。

 それどころか部室には、何もなかった。

 だだっ広い部屋に、ポツンとひとつ古い椅子が置いてあるだけ。

 それを見て狼狽する取り巻きクン達に、あの子が言ったんだって。

「大丈夫よ。A先輩なら、たぶん今頃は夢の国にいらしゃるわ」

 わけが分からないでしょう。

 取り巻きクン達もなんだか怖くなっちゃって、それでそれ以上問い詰めなかったみたい。あるいは頭がおかしいと思ったのかも。

 でもね。

 当たってたの。

 次の日ね。本当に『夢の国』で見つかったの。

 浦安の、そう、ドリームランド。あのアトラクションの中をね、意識朦朧でフラフラ歩いてたA先輩をスタッフが発見したの……。

 保護されてから先輩もすぐに正気に戻ったんだけど、部室に忍び込んだところから記憶がないんだって。だからなんでここから200キロも離れた浦安に移動してたのかは分からずじまい。

 だけどともかく無事で良かったって、最初は取り巻きも喜んだみたい。

 ……うん、最初だけは。

 でもね、それ以来ずっと聞こえるんだって。

 変な空耳が。

 A先輩がそう言うらしいの。

 それが怖くて、どうしても学校に来れないんだって。

 だからまだ休学してるの。

 だからね。

 貴女もあの部活には関わらない方が……。 

 え……。

 ……何が聞こえるのか?

 いや、それは空耳だから本人にしか分からないんだけど……。

 ただ……呼ばれてるみたい。誰かに。

 突然両耳を押さえて、こんな独り言を言い始めるんだって。


『呼び声が聞こえる』


『ほたるーの呼び声が聞こえる』


 そう何度も繰り返すんだって。


 何度も何度も。

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