あともう少し


 結局ルイーザが酔い潰れることはなかった。

 どれだけ酒を注いでもまるで水のように飲み干し、最後までご機嫌に場を盛り上げ、じゃーねーと楽しげに手を振って帰って行った。

 もちろんそれに付き合ったレイナたちもタダでは済まず、シルヴィアが完全に潰れてしまった。ビーフステーキの残りの二人が一次会で退散したのも、今となっては納得だ。一人では立って歩くこともままならないシルヴィアにリリアンが肩を貸し、先に帰って行った。

 リリアンは自他ともに認める酒豪であり、ルイーザと飲み続けていても最後まで頬を染めることはなかったが、レイナは別段酒に強いわけでもない。ルイーザとシルヴィアに順当に付き合っていれば、おそらくリリアンが抱える荷物はもう一人増えていたことだろう。

 だがレイナがそうなっていないのはもちろん自身で酒の量をセーブしていたからであり、酔いたくても潰れるわけにはいかない理由があったのだ。


 今日はこれから、イミナとディナーなのだ。


 仕事の都合で準決勝を見に来られないことはもちろん知っていた。だがだからといって、はいそうですかと言えるほどレイナは大人ではない。というか、大変子供じみていることを重々自覚している。


 つまるところ、埋め合わせのデートである。


 とはいえ付き合い初めて三年の彼氏とのデートだ。お互いの距離感は把握しきっている。だから別に、高級レストランで食事がしたいとか、雰囲気のある薄暗いバーでお酒を楽しみたいとか、そういうわけではない。


 ただ、一緒に居られればいいのだ。


 あともう少し。


 あともう少しで、誰にも咎められることなく、胸を張って、堂々と、あなたの隣に立つことができる。


 それが嬉しくてたまらないのだ。


「あれ――」


 でもその嬉しさは。


 期待は。


 信頼は。


 その瞬間に、あまりにもあっけなく、瓦解してしまった。


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