準決勝の表側

カフェモカは思ったよりも、甘かった 1

 浮島を構成する十三の島々とセンターランド。どの島にも住んでいる人はいるものの、それぞれの島には主要な役割が割り振られている。

 それは例えばランド3にはアミューズメント施設、商業施設が多く備えられているが、他の島にそれらの施設が存在しないわけではなく、また同様にランド3でも暮らす人々はいる、といった具合だ。

 十四ある浮島のうち、中央に位置する最大の島――センターランド。

 そこが他のランドのように数字で名付けられていない理由は明確だ。

 センターランドは、天翼人の――貴族の住まう島だからだ。


「ごめーん、お待たせ―!」

「おっそい!」

「おはようございます、レイナちゃん」


 センターランドの住宅街の一角。

 貴族の女性たちで賑わうカフェのテラス席で、シルヴィアとリリアンがレイナを待っていた。


「珍しいわね、あんたが遅刻だなんて。それもこんなに」

「ごめん! すっかり寝坊しちゃって」

「今何時だと思ってるのよ」


太陽はとうに南中を過ぎ、時刻は十四時。

寝坊するにしても、酷いとレイナも自覚している。


「レイナちゃんは、おっとりさんですよね」

「……レイナもあんたには言われたくないと思うわ」

「すいませーん! 店員さーん」


フライデーの試合日は、こうして三人で集まってゆったり過ごすのが恒例だ。カフェで姦しく駄弁り、ウィンドウショッピングで時間を潰し、やることは特に決まってないが毎週とりあえず頭を空っぽにして試合に臨んでいる。


「サンドイッチ食べてもいい?」

「いいわよ。どうせ何も食べてきてないんでしょ?」

「正解」


 呼びつけた店員に注文を頼む。カフェモカにサンドイッチ、少し奮発してミルクレープを付けてしまおう。


「二人はもう食べたの? お昼」

「暇だったからな」

「ほんとにごめん!」


シルヴィアはホットココア。

リリアンはブラックコーヒー。

それぞれ大きめのサイズのカップを手にしているが、飲み物はほとんど空になってしまっている。今日のそもそもの集合時間は十三時。連絡はしたとはいえ、一時間も遅刻したら怒られても無理はない。


「ごめん、一杯奢るわ」

「ココアお代わり」

「私も同じものを」


シルヴィアもリリアンも一切の遠慮なく注文する。シルヴィアもリリアンも心から怒っているわけではないことはレイナにもわかる。だからこそ、この一杯で手打ちにするという二人なりの表現なのだろう。

レイナの提案に、わずかな迷いもなく応えた二人に少しだけ驚きはしたものの、少なくともレイナは、ここで躊躇なく注文してくれる二人との関係を嫌いではない。


「……普通逆じゃない?」

「何が?」

「注文」

「甘党なのよ」

「知ってる知ってる」

「私はすぐ眠くなってしまうので」

「知ってる知ってる」


 気の強いシルヴィアがコーヒーを、ほんわかとしたリリアンがココアを頼む方がイメージにはあっている気がするのだが、二人の好みもすっかり覚えてしまっている。


「それで? なんで遅刻したんだよ」

「いや、だから寝坊で……」

「訊き方が悪かったな。なんで寝坊なんてしたんだよ」

「レイナちゃんらしくは、ないですよねぇ」


 レイナはどちらかといえば几帳面な性格だ。潔癖というほどではないものの、理由もなく待ち合わせに遅れることなど普通はしない。寝坊と言われても二人が納得できないのも当然だろう。

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