鳥人間 2

「ああゆうのって、なんで亡くならないのかしら」


 ため息を吐きながらも、椅子を引いてレイナは立ち上がろうとする。


「関わるの?」

「…………」

「…………」

「イミナ」

「何?」

「あんたと付き合ってどれくらいだっけ」

「二年と三か月」

「知り合ってからは」

「ちょうど十年くらいだ」


 そんなこと、イミナに尋ねるまでもなくレイナは答えられるだろうし、何なら日数単位で覚えていてもおかしくないかもしれない。レイナがそういう奴だということを、イミナは誰よりも知っている。

 でもだからこそ、レイナがこういう奴だということも、イミナが誰よりも知っている。

 少なくとも、この二年三か月の間、誰よりも彼女の近くにいたのは他でもないイミナなのだから。


「じゃあ、わかるでしょ?」

「……レイナ、待って」

「あん? なによ」


 立ち上がったレイナは今にも爆発寸前といった声色だ。まるで親の仇を睨んでいるかのような形相は、まったくもって恋人に向けるべき顔ではない。


「止める気?」

「まさか」

「んじゃなんだってのよ」

「あいつ、翼付きだよ」


 翼を持つ天翼人と、持たない大地人を見分けるにはちょっとしたコツがいる。なぜなら天翼人の翼は、もちろん体の一部だが、大きさを比較的自由に変えられるからだ。

 翼を持たないイミナには正確にはわからないが、ローズガーデンの三人に聞いたところによれば、翼をしまう感覚というのは肘や膝、関節を曲げるような感覚らしい。この翼をしまう、という擬態にも人によって得意不得意はあるが、天翼人が背中の空いた服しか着られないわけではない。だから翼をしまった状態で服を着ている天翼人を見ても、大地人と見分けがつかいことが少なくないのだ。

 ただ注意深く観察してみれば背中が少し盛り上がっていることがわかる場合が多く、見分け慣れている人は高確率で天翼人に気づくことができる。


「んなこと、知ってる」


 そしてもう一つ。

 天翼人は空を飛ぶため、あるいは物体を浮かせたり移動させたりするため、翼浮力フリュウを使う。そして天翼人の中には、他人の翼浮力を敏感に察知することのできる人がいるだ。

 レイナは感知が専門というわけではないのでそこまで広範囲の天翼人を把握することはできないが、視界内の特定の誰かを見極めることくらいなら習得できていた。


「今、レイナが手を出したら、失格になる……かもしれない」

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