#10 Re- エピローグ

Re- エピローグ

 小型のチャーター船の甲板から浮き桟橋に移ると、カメラは、ぐるりと周囲を見渡した。海の青、空の青、山の緑、入道雲の白。

 じりじりと熱い日差しの中を、やむことのない潮風が渡れば、山並みの木々の葉がきらめきの波を起こす。セミの合唱が山から押し寄せてくる。

「ああ、すごい。やっぱり、龍ノ里島はきれいですね」

 すごいとか、きれいとか、そういう安っぽい言葉しか出てこない。サイエンス一辺倒の高三男子に詩的な言葉を期待するのが間違いだ。

 おれはディスプレイから目を上げた。どっしりと重たい、古くてつややかな木のテーブルの向かいに着いたスバルさんは、ノートPCに映した動画の音量を下げながら、日に焼けた顔を微笑ませた。

「今年度からうちの研究所に配属されたスタッフが、カメラの扱いに長けているんだ。写真も動画も、かなりうまく撮影して、編集までこなしてくれる。この映像も、彼が撮ったものでね」

「なるほど。道理で。とてもきれいで、臨場感がある映像ですね」

「DVDに焼いてきたよ。ユリトくんたちへのおみやげだ」

「本当ですか? ありがとうございます。龍ノ里島の景色、ぼくも見たかったし、見せてあげたい人もいて。DVD、すごく嬉しいです」

 スバルさんは、ノートPCが入る大きめのビジネスバッグから、クッション材に包装されたCD-Rを取り出した。おれはお礼を言って受け取る。

 ディスプレイに展開される景色を眺めながら、スバルさんは静かに言った。

「人が住まなくなって、たった三年で、町だった場所は自然の中に呑まれ始めていた。木造の建物の中には、見る影もなく倒壊してしまっていたものもあったな。でも、その景色すら、悲しいくらいに美しかったよ」

「ぼくもその景色を自分の目で見てみたいところです。三年前は気分がふさいでいて、ハルタに連れ出されない限り、自分で外に出なかったから。もったいないことをしました」

「大学生になったら、うちの研究所に遊びに来るといい。チャーター船を使えば、龍ノ里島にもすぐ行けるよ」

「ええ。来年、お邪魔できればと思います。スバルさんや田宮先生の後輩になれたら、ぜひ」

「ユリトくんの顔色を見た感じ、問題なく合格できそうだと思うけどな。オープンキャンパスで手応えを感じられたんだろう?」

「はい。楽しかったです」

 スバルさんは満足げにうなずいた。

 おれの第一志望は、スバルさんの出身校である東京の国立大学だ。今日はオープンキャンパスだった。朝っぱらから暑くて人が多いことにはまいったけれど、いざ模擬授業が始まると、鬱陶しさなんか吹っ飛んだ。学問の世界というものは、それくらい強烈に魅力的だった。

 龍ノ里島を引き払った後も、スバルさんは発電機構を管理するエンジニアとして、西の果ての離島に住んでいる。年に何度か、東京の本社に出張があって、そのたびにちょっと足を伸ばしておれたちの町までやって来ては、田宮先生のところに一泊していく。

 スバルさんがこっちに出てくると、おれとハルタも呼んでもらって、一緒に食事をしている。今回はイレギュラーだ。ちょうどスバルさんが東京に来るタイミングで、おれもオープンキャンパスのために東京にいるし、田宮先生も出張で横浜にいる。

 ハルタが「じゃあ、おれが東京に出ていったら、そっちで集合できるじゃん」と言ったから、それぞれ都合のついたタイミングで、大学のそばの古い喫茶店で落ち合う、という約束になった。

 スバルさんや田宮先生が学生時代によく利用していたという喫茶店は、BGMのかかっていない空間だった。読書をする客ばかりで静かなときもあれば、ゼミの続きの議論を闘わせる集団がいてにぎやかなときもあるという。

「コーヒーを一杯で、何時間でもここに居座ったものだよ」

 スバルさんはそう言って、初めからミルク入りで提供されたコーヒーをすすった。

「勉強をしているかた、多いですね。大学生の人たちですよね?」

「たぶん、大学院生のほうが多いかな。彼らが読んでいる本や、聞こえてくる会話からの推測だけど」

「わかるんですね。さすがです」

「これでも一応、サイエンスに関するアンテナは張り続けているからね。それに、この喫茶店の客層には、伝統というか、傾向があるんだ。ここに入るのは、学部の四年生になって研究室に配属されてから、みたいな人が多かった」

「なるほど。高校生と大学生って、丸っきり、生活や価値観が違うものなんですね。今日一日で、世の中の広さとか人々の多様性とかをたっぷり目撃しました」

「そうだろうな。特にうちの大学は、変わった人も多いから。ここに来られたら、楽しいと思うよ。本当に」

 はいと応えながら、三年前の自分を思って、不思議な気分になる。

 中学三年生の、心の折れかけていたころのおれなら、変わった人が多いなんて聞けば、顔をしかめてしまっただろう。お上品な優等生でいなければと、自分で自分をがんじがらめに縛り付けていた。あのころは苦しかった。

 何をそんなに恐れていたんだろうかと、今にして思う。おれは、おれだ。普通だとか理想だとか、まわりが勝手に決めた型に嵌まるなんて、窮屈に過ぎる。操り人形も王子さま役も、まっぴらごめんだ。

 カラランッと、ドアベルが勢いよく鳴った。ドアのほうを向いたスバルさんが笑顔を輝かせて、軽く手を挙げた。このリアクションはハルタだな、と思いながら、おれは振り返る。正解だ。

「おー、いたいた。何だ、兄貴のほうが先に着いてたのか」

 クラシカルな喫茶店には見事に不似合いなハルタは、おれの隣に、どさりを腰を下ろした。スバルさんは、にこやかに目を見張っている。

「ハルタくん、デカくなったね。背も伸びたし、日に焼けて、ずいぶんがっしりして」

「そりゃー、伸び盛りだし、筋トレ好きだし。それに、近所のクルマの整備工場でバイトさせてもらってて、何本もタイヤかついだり、工具や部品がやたら重かったりで、気付いたら、すげー筋肉付いてた」

「高校生でバイトか。ぼくは進学校で、バイトは禁止だったから、ハルタくんの高校生活の話を聞くと、新鮮だよ。ねえ、ユリトくん」

「そうですね。工業高校は全然違うなって思います。バイトのこともなんですが、実践に即した機械工学の授業がいろいろあって、うらやましくなります。今は、ぼくよりハルタのほうが、機械いじりのチャンスが多いんですよ」

「兄貴、機械系の実習んとき、代わってやろうか? 細かい作業ばっかで、ひたすら面倒くさいんだぞ」

 ハルタは思いっ切り、眉間にしわを寄せた。お冷を持ってきた店員に、アイスコーヒーを注文する。

 工業高校に通うハルタは、授業よりもバイトに熱意を燃やしながら、週末にはサーキットに通ってレーシングカートを続けている。サーキットの中でいちばん強いらしい。プロへの道も開けつつあって、たまに新聞やウェブニュース、ラジオなんかの取材を受けている。

 ハルタはお冷を一気飲みすると、日に焼けた顔をまっすぐ俺に向けて、ニッと笑った。

「兄貴とまともにしゃべるの、久しぶりだよな。同じ家に住んでんのに、全然、時間が合わねぇんだもん。兄貴、家じゃ、ずっと部屋にこもって勉強してるし。朝もやたら早くに出ていくし」

「課題が多いんだよ。朝は補習がある」

「完璧に合格圏内なのに、いちいち補習なんか出なきゃいけねぇのか?」

「当たり前だ。内申点も一応、稼いでおくほうが安心だし」

「生徒会長やって、部活もレギュラーだったろ。今さらその内申点を引っ繰り返そうと思ったら、よっぽどヤベェことしなきゃ無理じゃねーの? たまには遊べよ。ちゃんと寝てるか? 頑張り過ぎると、息が詰まって、またぶっ倒れんぞ?」

 笑っていたはずのハルタは、いつの間にか真剣そうに眉をひそめていた。くっきりと大きな目は情感豊かにハルタの心模様を映し出す。ひどくまっすぐな熱を向けられて、おれは気まずくなった。

「息抜きはできてる。中学のころみたいに、誰にも弱音を吐けないなんてことは、今はない。志望校のレベルが近くて、成績や勉強のことでも遠慮なく話せる相手がいるし」

「え、そんな相手いるのか? マジで? 兄貴、点数の話をするの、すげー嫌がってただろ。いちいち噂を立てられんのが面倒くさいっつって」

「お互い、成績の話は口外しないっていう暗黙の了解がある。だから、安心して話せるんだよ」

 ぱちぱちとまばたきをしたハルタが、急に、心得顔になった。

「この前、兄貴と一緒にいた女の子、そういう子だったのか。一緒に東京の大学受けるってことだな。もう付き合ってんのか?」

 ぱんっ、と風船が割れるような衝撃が頭の中で起こって、思考回路が断裂した。ゆっくりゆっくり時間をかけて、ハルタに何を言われたのかを理解する。そして、理解が至った瞬間、湯気が噴き出しそうな勢いで顔が熱くなった。

「お、おまえ、根拠もなく何言ってんだよ!」

「根拠あるし。見たもんな」

「い、いつどこで!」

「はい、その言い方。身に覚えがあるんだな。おれの見間違いじゃなかったわけだ。兄貴も水くさいな。カノジョができたんなら、教えてくれりゃいいのに」

 やってしまった。言葉の詰まるおれに、ハルタはニヤッと笑ってみせる。

 スバルさんが目尻にしわを刻んで笑った。

「ユリトくんにはカノジョがいるのか。同じ学校の子?」

「ち、ちょっと、待ってください。カノジョじゃないんです。付き合ってるわけじゃなくて」

「でも、いい雰囲気の女の子がいるわけだ。いやぁ、うらやましい。青春だね」

「だから、違うんですって。お互い、肩肘張らずに話せる相手ってだけで、向こうは全然、恋愛とか望んでるタイプじゃないから、おれも今はまだ……って、うわ」

 口が滑った。今の言い方じゃ、おれのほうは彼女との恋愛を望んでいる、と表明したようなものだ。

 こういうときだけは頭の回転が速いハルタが、すかさずおれを冷やかした。

「モテモテ野郎の兄貴が初めて、自分から女の子にアプローチしてやがるー」

「う、うるさい」

「いいじゃんいいじゃん! 兄貴ってプライド高いから、肩肘張らずに話せる相手、あんまりいねぇだろ? ナチュラル系のきれいな子だったよな。かあちゃんが喜ぶぞ。これからの展開が楽しみだ」

 おまえの楽しみになんかされたくない。バイト三昧でけっこう忙しいくせに、ちゃっかり目撃しやがって。

 彼女とは家の方角が正反対だから、行き帰りで一緒になることはない。彼女はショッピングやイベントにはまったく興味を示さないし、生徒会役員だったおれが寄り道なんていうマナー違反をやらかすわけにもいかないから、学校帰りにどこかに行ったこともない。

 でも、おれはそういう出不精な関係に悩んでなんかいない。おれと彼女の場合、二人になるために、わざとらしい理由をこしらえる必要はないから。

 今年から同じ理系の特進クラスで、志望校の難易度別の授業も同じで、放課後の自習室でも何となく近い席に座ることが多い。参考書の貸し借りや、過去問の答案を題材にした議論、より美しい計算式の模索。そういうところには、ほかの誰も入ってこられない。

 学校の外で彼女と会ったのは、今までに一度だけ。奇跡的に補習も模試もなかった日曜日に、Tシャツにジーンズのラフな格好で、おれの家から近いバス停で待ち合わせをして。ハルタに見られたのは、このときしかあり得ない。

 あの日の目的地は、おれが小学生のころに行きつけにしていた模型屋だった。おれは久々にシュトラールをコースに放って、小さなマシンのスピードを楽しんだ。彼女はミニ四駆を一台買って、初めてとは信じられない手際のよさで組み立てて、早速コースを走らせた。

 楽しいね、と彼女が目を輝かせたのが嬉しかった。ドキドキして、ワクワクして、また模型屋で会う約束を取り付けた。デートと呼んだら、叱られるだろうか。

 去年、生徒会室で偶然出会った彼女は、どこかなつかしい感じのする大きな薄茶色の目の持ち主だ。初対面のときにきれいな声だと感じたけれど、歌ったらもっときれいだった。合唱コンクールでソロのパートがあって、それがすごくよかった。

 彼女は一目でミニ四駆を気に入った。もともとラジコンやプラモデルをいじるのが好きで、ラジオでも何でも自力で組み立てることができるという。

 失礼な言い方だけど、機械いじりが得意って、女の子なのに変わってるね。おれがそう言ったら、彼女は得意げに笑ってみせた。変わってるって言われるほうが嬉しいの、と。

 彼女はいつも自然体の等身大だ。その姿はきれいで、ほかの誰とも違う。だから、おれも同じように、自分のままでありたいと思えるようになった。型の中に嵌まり切れない自分を、きちんと自分で認めてやりたい。

 最近、おれは、趣味はミニ四駆だとハッキリ言っている。受験対策の一環で、自己PRの文章を書く機会が多いのだけれど、ミニ四駆を題材にすると、自分という人間を表現しやすい。評価も上がった。彼女のおかげだ。

 実は今も、バッグの中には、プラスチックケースに入ったシュトラールがいる。オープンキャンパスにあたって、実は少しナーバスになっているところもあったから、守護神に同行してもらった、という感じ。

 シュトラールのデザインは、ボディが白地に赤いグラデーションで、シャーシもそれに合わせたカラーリングで通してきた。最近、一つだけ変化があった。

 シャーシの上にボディを固定するために、キャッチという部品を使う。この間、シュトラールのキャッチを、彼女のブルー系のマシンのキャッチと交換した。だから何だと訊かれても、うまく答えられないけれど、とにかく交換してみたかったんだ。おそろい、というか。

 連鎖的にいろいろと思い出してしまって、頬の熱がなかなか引いてくれない。おれは、ハルタのニヤニヤ笑いとスバルさんの温かな笑みから顔をそむける。

 さまよわせた視界に、スバルさんのノートPCのディスプレイが映った。海の風景が一時停止されて、キラキラしながらそこにある。コンクリートの防波堤と、海底まで見透かせる澄んだ水、小さな魚の影。

 早朝の銀色の波と、白く溶けていく星空を思い出した。なつかしさに、ああ、と声が漏れる。

「龍ノ原小中学校のところの防波堤ですね。突端に灯台があって。撮影したときは、かなり潮が引いてたんでしょう? 防波堤があんなに高く見える」

「おっ、兄貴が話そらした。照れんなよ。応援してやるって」

 しつこい。おれはハルタを無視して、輝く海を見る。

「引き潮のときに防波堤から飛び込んだら、海面まで三メートルくらいありましたよね。思いっ切り遠くにジャンプしないと、海底に突っ込んでケガすることになるからって、助走をつけて飛び込んだのを覚えています」

 ハルタが、すっとんきょうな声をあげた。

「はぁ? 防波堤から飛び込み? 寝ぼけんなよ、兄貴。おれたちが飛び込んで泳いだのって、船着き場の浮き桟橋んとこだろ」

「え? いや、昼間は船着き場で泳いだけど、朝、日が昇るのを防波堤で見て、それから海に飛び込んだぞ。レディー、ゴーで勢い付けて」

「違う、絶対違う! 防波堤には絶対、行ってねぇよ。かあちゃんに言われて、毎日、やったことのメモを取ってたんだ。スバルさんにも協力してもらってさ。だから、あの夏のことだけは、兄貴が覚えてないことでも、おれは覚えてる」

「でも、おれ、朝から一人で散歩に出て……あれ? 散歩?」

「兄貴は引きこもってた。おれがうるさく言って、ようやく外に連れ出せるって感じだっただろ。あっち方面に行ったのは、学校の跡地に忍び込んだときだけだ。しかも、あんとき、校舎の鍵が開いてなくて、外から眺めただけだった」

「学校には行った。そっちの方面は、確かにハルタの言うとおり、探検できるような場所はほかになくて、だけど……あれ、校舎? 鍵……?」

 埃っぽくこもった空気を覚えている。蒸し暑かった。寂しげに語られる島の滅びのストーリーを、子どもたちの文字が黒板に残る教室で聞いた。

 何かが引っ掛かる。これは夢、それとも記憶? おれはあのとき、誰と一緒にいた?

 薄茶色の大きな目。透き通るような声。どこか神秘的な唄。

 違う。彼女がそこにいたはずはない。いや、だけど。

 不安げで真剣な目をしたハルタが、おれの肩に手を掛けて、軽く揺さぶった。

「兄貴、大丈夫か? あの時期はマジで調子悪かったし、記憶もちょっと混乱してんじゃねぇか?」

「そうかもな」

 おれはハルタに笑ってみせた。笑ってごまかさなければ涙が出ると、直感的に思った。

 これは喪失感だ。胸にぽっかり穴が開いたような、どうしようもない悲しみがあることに、今、唐突に気が付いた。忘れてはならないものを、この手から取りこぼしてしまった。おれは何を忘れてしまったんだろう?

 心の奥の魂に刻まれた何かが、ディスプレイ越しの海に呼ばれて、共鳴する。目を閉じれば、あまりにも鮮やかなその情景の中に、ふっと意識が飛んでいく。

 青く光る空を仰いだ。甘く匂う潮風が過ぎていった。潮騒の唄に包まれた。ささやき合って交わした、秘密の約束があった。胸が疼いて仕方がない、この想いの正体は何だ。

 おれはあの島で何を得て、何を失ったんだろう?

 間違いないと言えることは、宝物のようなあの島に、おれのスタートラインが横たわっていたという事実。おれはあの島に命をもらった。心を燃やすレースのたびに口ずさんだ言葉を、あの夏、失意の中でつぶやいた。

 レディー、ゴー!

 つぶやくおれの声に寄り添いながら、潮風は、遠い空へと舞い上がった。その行方を追い掛けて、おれは幾度も幾度も空を見上げて、輝く色を胸に焼き付けた。美しかった。言葉にならないくらい大切な思い出が、情景が、そこにあった。

 それなのに、おれは一体、何を忘れてしまったんだろう?

「兄貴?」

 ハルタがまた、おれの肩を揺さぶった。

 コーヒーの香りが鼻孔をくすぐる。BGMのない喫茶店の、静かなざわめき。おれは二度、三度とかぶりを振って、重なり合った二つの記憶の残像を、頭の隅に追いやった。

「いつかまた行こうな。おれが大学に通って、おまえもレーシングドライバーとしての所属先が決まった後とか」

 肩の上にあるハルタの手を、ぽんぽんと叩く。微笑んで見守ってくれているスバルさんに、微笑み返す。冷めかけたコーヒーを口に含む。

 忘れてしまった。交わした言葉のひとつひとつは、初めから存在しなかったかのように、記憶の中のどこを探しても見当たらない。

 でも、唄が聴こえる。命の奇跡の唄が。

 あれは、何の唄だったんだろうか。誰が歌ったんだろうか。あの夏は二度と巡ってこない。新たな夏に、また新たな唄を確かめに行きたい。命のきらめきに満ちた、あの島へ。


【了】



 BGM:PERSONZ『夢の涯てまでも』

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少年TUNE-UP 馳月基矢 @icycrescent

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