最終話 『手を取り合って』


「みんなで行こうよっ!」


 私が部屋の中で高らかに声を上げると、親友の二人は当然のように聞いてきた。


「は? あいつらも連れていくのかよ。――よしっ、三連鎖っ」


「まあ、行けない距離ではありませんが、全員ですか? ――そうくるなら、わたくしは六連鎖です」


「げっ! マジかよ!?」


 テレビでパズルゲームの対戦中の鳴ちゃんと栞ちゃん。

 拮抗していた対戦も栞ちゃんの六連鎖攻撃で決着がついたらしく、鳴ちゃんは悔しさから雄たけびを上げていた。


「最初は三人で行こうとしたけど、もしかしたらゾンビさん達も好きなのかなって思っちゃってさ。ほら、最近ヌクミズさんの元みんなお仕事がんばってるし、慰労会ってやつ?」


 リーダー決定戦後からのゾンビさん達の結束力はすごかった。

 それもこれも、バーコードからボンバーヘッドへとクラスチェンジしたヌクミズさんのリーダーシップによるところが大きくて、少なくとも私はヌクミズさんを信頼しきっていた。


 ちなみにゾンビさん達のお仕事は、ショッピングモールの掃除。

 別に掃除なんてしなくてもいいかなと思ったのだけど、そうなるとゾンビさん達が手持無沙汰になっちゃうからやってもらっていた。


 おかげでショッピングモールはとっても綺麗で、まるで新規オープンしたかのよう!

 本当、よく働いてくれます。ゾンビさん達は。


 だから――。


「うんっ、


 私はそう決めたんだっ。



 ◇


 

 そしてその日の夜。

 私達は23人のゾンビさん達を連れて、歩いて20分のところにある(発見したの栞ちゃん)温泉へとやってきた。


 男と女に別れて、それぞれの湯へと向かう私達とゾンビさん。

 女子は私と鳴ちゃんと栞ちゃん、それにスズちゃんとワタナベさんとほかに五人。

 人間勢はもちろん服を脱いだのだけど、ゾンビさん達は服のまま入っていた。


 それでいいなら構わないけど、風邪引くからちゃんと乾かすようにね!


 お湯は適度な温度で、まさに極楽。

 思わず、「あぁー」と声が出るってもんだよねっ。


「いやー、やっぱり温泉は最高だわーっ。いつも使ってる山村さん宅の豪勢なお風呂もいいけど、温泉には敵わねーな」


「そうですね。温泉には『物理』、『心理』、『薬理』の三つの効果があるのですが、このうちの『心理』と『薬理』……特に『薬理』については、温泉からしか得ることのできない効果ですからね。温泉に勝るお風呂などありませんよ」


「よっ、温泉ソムリエ栞ちゃんっ! そんな栞ちゃんに聞きたいのだけど、どうしてそんなにおっぱい大きいの?」


 栞ちゃんの胸はやたらと大きかった。 

 ちゃんと見るの初めてだったけど、何それ、Gカップ??


「どうしてと聞かれても、大きいものは大きいとしか答えようがありません。肩も凝るので、こんなに大きくなくてもいいのですが」


「なーんか腹の立つ回答だぜ。そんなこと言う奴は――こうだっ!」


 と、ぺったんこなお胸の鳴ちゃんが後ろから栞ちゃんの胸を揉みしだく。


「きゃあっ」と悲鳴を上げる栞ちゃん。

 でもろくな抵抗もできなくて、なすがままに揉まれ続けていた。


 うーん、女子の私から見てもなんかすっごいエロいよ。


 ――そのとき。




「「「うおおおぉ、いいぃぃぃえええぇぇぇ」」」



 

 と男湯のほうから声が聞こえた。

 仕切りの上に並ぶ三つの顔。

 ヌクミズさんとナカヤマさんとイトウさんがこちらを覗いていた。


 きゃー、何やってんのっ!? へ、へんたーいっ!


 イトウさんの視線だけがスズちゃんに向けられていることに気づいたとき、「この出歯亀ゾンビ共、覗いてんじゃねーっ! このやろッ」と、黄金バットを持った鳴ちゃんが男湯へと走って向かう。


 素っ裸で。


 まあ、そのあとの惨事は言わずもがなで――。


 そして一時間も経った頃、温泉での慰労会はお開きとなったとさ。



 ◇



 夜風がとっても気持ちいい。

 お風呂のあとはいつもそうなのだけど、今日は1・5割増しで気持ちいいね。

 これも温泉効果なのかもっ!


 ところで、


「みんないるーっ? ……ヌクミズさん、全員揃ってますか?」


「おぉるおっけぇぇ、キャアァプテン」


 たんこぶの腫れ上がったヌクミズさんが親指を上げる。


「じゃあ、お家に帰りますよー。みんなちゃんと私に付いてきてくださいねっ」


「「「「「「「ういいいいいいいいいいいいいい」」」」」」」


 元気なゾンビさん達の声を聞き、そして私達は家へと向かう。


 私達以外誰もいない、私達だけの島に、私達だけの足音が響く。

 それはとっても寂しいはずなのに、何故だろう……とても幸せだった。



 ◇



「あれから1ヵ月経ったんだよなー。それで分かったことが一つある」


 鳴ちゃんが人差し指を上げる。


「何、分かったことって?」と私が聞くと、鳴ちゃんは黄金バットで落ちていたカラーボールを打ったのち答えた。


「あと11か月なんて、余裕だってことだ。最初はどうなることやらと不安だったけどさ、すっげー楽しくやってんじゃん、あたい達」


「そうですね。わたくしもここまで楽しい社会実習になるとは思いませんでした。それにしても生者と死者の共同生活……ふふ、今更ですけど、わたくし達とても貴重な体験をしていますよね」


 鳴ちゃんと栞ちゃんは揃って楽しいと言う。

 それは当然私も同じで、だから言ったんだっ。


「それはゾンビさん達のおかげだよ。23人のゾンビさん達がいるおかげで私達の日常はすっごい充実してるんだっ。だから感謝の気持ちも込めて、改めてみんなでスタートしたいなっ。はい、みんな止まって下さーいっ」


 ショッピングモールの敷地の前で、私は止まる。

 怪訝な顔した鳴ちゃんと栞ちゃんだったのだけれど、すぐに意味が分かったみたいで笑みを浮かべて頷いた。


「しょうがねぇな。んじゃ、繋ぐとするか」


「そうですね。全員で手を取り合いましょう」


 私の広げた両手から繋がる25人の仲間達。

 それは、いつまでもずっと一緒にいたいと思える最高のお友達だ。


 そう、いつまでもずっと――。


 私は握った手に力をこめる。

 

 2人が、ぐっと手を握り返してくる。

 

 私は大きく息を吸う。そして――。



「みんなで、せえっのっ!」


 

 私達26人の物語がショッピングモールから紡がれる。



 これからも宜しくね、みんなっ!!



 


 おわり。 

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パンデミックのそのあとで 真賀田デニム @yotuharu

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