フォルテックの獣使い お仕事中、迷子の俺サマ拾いました!

村沢侑/ビーズログ文庫





 森の中、整備された遊歩道を九人の集団が進んでいる。


 軽装に身を包んだ八人を先導しているのは、ガイドの小旗を持った栗色のふわふわの長い髪をした少女。


 くるくると表情のよく変わる大きな瞳が印象的な彼女の名前は、アイナ・アルバック。


 近くにある大きな街、フォルテックの高等学校に通う十六歳だ。


「はい、ではまもなくキャロハット渓谷の展望台でーす! 申し込み時及び道中にも説明したかと思いますけれど、ガイドの私の指示に従っていただかないと身の危険がありますからね! くれぐれもご注意くださーい!」

 

 元気よく案内する声は、よく通る。

 彼女は、フォルテックの「ギルド」と呼ばれる組合でアルバイトをしている。


 アルバイト先は、「ツアーガイド部」。

 そのため、時々こうして観光客のガイドを担当することもあった。


「キャロハット渓谷って、きれいな鳥さんがたくさんいるんでしょう?」


 目をキラキラさせながら声を上げたのは、四人家族の小さな少女。


 五歳くらいのツインテールの少女は、小さなリュックを背負い、一時間ほどの道中を泣きもせず元気に歩いてきた。


「違うよ、すっげーかっこいいワシなんだよ! でっかくって、ぐわーって!」


 そう答えるのは、七歳くらいの兄だ。

 見るものなんでも興味を示し、アイナにあれやこれやと質問してくる姿はとても活発そうだ。


「そうねー、きれいだし、かっこいいし、大きいし、飛んでる姿はすっごく素敵なのよ! 楽しみにしててね!」

「うん!」


 二人が嬉しそうにうなずく姿は、アイナでなくとも頬が緩む。

 それをほほえましそうに見ているのは、旅慣れた様子の老夫婦だ。


 二人は服装こそ軽装だけれど、持っている帽子や杖、水筒は使い慣れた感があり、ガイドするアイナにとっても安心感がある。


「そうねえ、キャロハット渓谷は二度目だけれど、ワシたちが一斉に飛び立つところは圧巻だったわねえ」

「そうだなあ。七色の尾羽が、空からふわふわと舞い落ちてきたのは美しかったな」

「そうなんですか! 私何度か来てますけど、まだ一度しか見たことがないんです。すごい迫力ですよね!」

 

 楽しいツアーになるように盛り上げるのも、ガイドの役目だ。

 けれど、仕事を差し引いても、旅慣れた老夫婦の話は面白い。

 見識も広く、アイナの興味を掻き立てるものばかりだ。


 だが、そんな光景に水を差す者がいた。


「ったくよー、いつになったら着くんだよ! いい加減疲れちまったぜ!」


 老夫婦との話をさえぎって、不機嫌そうな男の声が割り込んだ。

 老夫婦は眉をひそめ、家族連れの親は子供をかばうように引き寄せる。


「もう、遊歩道だっていうから来たのに、なんなのよこの山道! もうあるけなぁい!」


 甘ったれた声で、連れの女が男にしなだれかかった。アイナはため息をつきながら、声の主達を振り返る。


「申し訳ありません、もうすぐつきますので」


 アイナの答えに、男が鼻白んだようにふんと鼻を鳴らす。

 新婚旅行だという二人は、軽装というよりも、まるっきり街歩きの格好だ。


 二人の足元は、先のとがった革靴にヒールの高いブーツ。

 男はだらしないズボンにシャツ、女はひらひらした露出度の高いドレス。


 特に違和感のある服装ではない。

 …………にぎやかな街並みで見る分には。


 ここは、山に分け入った遊歩道だ。

 周りは緑豊かな草木に覆われ、水気の多いすがすがしい空気と、鳥の声や虫の羽音に満ちている山中である。

 場違いなことこの上ない。

 けれど、アイナが彼らをここまで連れてきたのにはわけがある。


「おい姉ちゃん、これじゃあ返金してもらうしかねえなあ。楽しみにしてきたのによお」


 にやにやと笑う男に、アイナはもう一度ため息をついた。


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