第12話



 翌日、カランには“上”に報告に行く為、遅れることを伝えた。そして、普段は締めていないネクタイをし、帝国図書館と城を繋ぐ無駄に装飾が派手な橋を渡る。


 普通であれば、報告する際、上司であるカランに行かせるが、先々週ぐらいからあいつに「たまには顔を出せ。」としつこいぐらい声がかかっている為、報告がてら足を運ぶことにしたのである。


 ・・・仕事ということで行けば、早めに帰れるし、と自分に言い聞かせながら、重く感じる足を進める。警備の者、使用人から頭を下げられながら、長い廊下を進む。


 迷うことなく、目的の部屋の前にたどり着いた。長いこと離れていたが、身体は覚えているもんだな、とハァと何とも言えない溜息が零れた。


 絢爛に金で彩られた扉をノックして中に居るのを確認すると、「はい。」と表情のない返事が聞こえたかと思うと、中から白のローブを纏った一人の男が出てきた。


 ・・・白のローブに黒のクロス、ということは『ペンタス』のメンバーか、と考えながら見ていたせいか、少し怪訝な目で見られてしまった。


 ルピナス帝国は『王家』が国内の統制、『軍部』が外交、『教会』は軍部と国王の監視兼協力という体制で国が成り立っているが、その中でも教会は更に二つの派閥に分かれている。


 それが『ペンタス』と『グラジオラス』である。


 『ペンタス』は王家派で白のローブを身に纏い、首からは黒のクロスをかけている。


 反対に『グラジオラス』は軍部派で黒のローブに白のクロスを身につけているのである。


「悪いが、通してもらえるか、ジェイドが来たと言ってもらえれば分かると思うが・・・。」


「ただいま、国王陛下はカルミア様とお話しの最中です。再度、お越しくださいませ。」


 目の前のこいつの言葉にイラッとしつつも、我慢しろと自分に言い聞かせる。


「・・・お前、ペンタスのメンバーだな。」


「ええ、そうですが、何か関係ありますでしょうか?」


「嗚呼、その国王陛下の機嫌を損ねたくなければ、ジェイドが来ている、と伝えろ。伝えなければ、グチグチ文句を言われるのはお前の上司だぞ。」


 ギロリと睨みをきかせると、渋々といった感じで奥へと戻っていった。


 ・・・早く入れろよ、全く、とブツブツと文句を心の中に吐き出していると、中でバタバタと騒がしい足音が聞こえる。その音が近づくと同時に目の前のドアが『バンッ』と似つかわしい音を立てて開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る