Middle 02: "UGN" (2)
『人
変わってしまった人のことを、先生は、そう言い表した。
香澄は、言葉の奔流を前にして、そのひとつひとつをかろうじて形にしては思考に溶かしていく。流されるままに渡された機器を腕へと嵌めて、
「………オーヴァード。ひとの、枠を。私は──、先生は、みんなは、超えたの?」
腕の上から機器をぎゅうときつく握って、視線を揺らした。
胡桃:「わたしは、先生みたいに"声"は使えませんけど」
肯定代わりにそう告げたのなら、少し躊躇った後に、機器をキツく握る手に、自分の手をそっと重ねて。
「大丈夫。"一緒" ですよ──香澄ちゃん」
香澄:手が触れたならほんの一瞬、緩く肩を揺らしてから。
だけれどもう一方の手を伸ばして、──今度は躊躇うのはこちらの方。間を置いて重ねた手は、だけれど危惧に反して冷たかった。
GM:「そうね。私たちも、そしてあなたも。」
でもね、と言葉は続けて紡がれる。
「枠は飛び越えてしまっても……『人で居続けようとする』ことはできるわ」
安心させるように、また柔和に笑む。
「ウイルス、シンドローム……こうやって”病気”に
続けざまにでてくる難しいことばが、少しでも入っていきやすいように、ゆっくりと語る。
「『衝動』、私たちはそう呼んでいるけれど、レネゲイドは私たちの欲望みたいなものを、過剰に喚起するみたいなの。今は、〈理性を少しずつ失っていってしまう〉と思ってくれればいいわ。完全に理性を失ってしまった
見つかっていないわ、と少しばかり表情は翳りながら、でも、と笑みで振り払うように言葉を続ける。
「それを防ぐためにも、私たちは「日常」を重んじる。大切な人や、思い入れのあるもの……いろんなものとの「絆」を大事に想うことで、
ひとつひとつの言葉に追いつけないほど、香澄の思考は鈍くない。
たとえば本の中で。いくらでも、いくらでも、聞いてきた。
だけれどそれを自分と結びつけるなら──それは一気に、理解できないものになる。
「理性だとか怪物だとか、……そんなの。…………そうしたら、私は、……"私達" は? どうしたらいい、………んですか」
全くもって現実味がない。
自分も、触れられた手の持ち主も、級友も、柔和に笑う彼女も。
こんなにふつうなのに。
戸惑うそぶりを隠せない香澄の様子に、困ったように笑いながら、先生は、
「そうね。それはこれから少しずつ、一緒に考えていきましょう」
ふう、と一息つくと、頭の後ろの
そして、その
「というわけで、
その言葉に呼応するように、先生の脇の空間が、渦巻くように黒い闇に染まる。人の身長ほどの楕円に広がると、その穴から、1人の女子生徒が出てきた。
GM:それは、先ほどまで一緒に話して居た。「文芸部部長」、
はあい、香澄ちゃん。と極めて明るい、気の抜けた口調でのたまうと、とん、とひとつステップ。後ろの闇色の穴は、すん、と音を立てて消えてしまった。
「「どうしたらいいか」って質問には、私が答えるわねー。……まあ、ゆっくりと? その前に。」
部長はひとつ指を立てて、
「香澄ちゃんは、今聞いたような話が、世間的には周知の事実になっていないこと、不思議に思わない?」
そう尋ねて、困惑の最中にあるであろう当の少女をじっとみつめる。
香澄:状況に、そろそろ追い付くようになってきたところなのに、もうひとり、見知った顔の登場には、本日何度目か今までで一番多くの瞬きをしてから。
「………、はい、わたし、……知らなかった。です、なんにも。
先生も、先輩も、くるみさんもあかりさんも、ずっと普通だったもの。……あんなのにも、遭わなかった」
此方を見据える赤い鎧を思い出しては目を伏せて。
GM:香澄の様子をみて、何かがあったからとは察しながら、口には出さず、ただメガネの奥の目を優しく細めて、
「こんなこと知って、香澄ちゃんは……怖かった、かしら?」
香澄:「怖かった、……かは、わからないです。だって、叫ぶ時間も、泣く時間も、なかったもの」
いつだってそう。そんな言葉だけは喉の奥にしまい込んで。
「………時間が経って、自分が、世界が、どんなものなのか、ちゃんと分かった時に、その時に。多分きっと、怖くなるのが、……こわい」
GM: それにも優しく頷きを返して、
「それをね、そうして怖がる人、拒否してしまう人が出てしまうかもしれないから……オーヴァードが人として、人であるまま生き続けられるように、隠すことにしたの。そうして、影から世界の「日常」守っているのが、」
そうして何故か誇らしげに胸を張り、なんなら両の手はこぶしにして腰に添えられ、
「私たちUGNなのです!!!」
香澄:「……ゆーじーえぬ」
ぽかん。
胡桃: 「先輩、もう少し厳かに言って下さい」
無茶振りをする
朱莉: 揺れていたはずの丸椅子がキィと鳴いて止まった。
あかりの視線も止まった。
UGN組、息のあったツッコミである。
GM:桃井先生もその暴走っぷりに苦笑しながら、
「ええと……、UGN——ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク、そういう組織があって、オーヴァードのことを世間的には隠して、今の世界との共存を模索してるの。あとはジャームやオーヴァードがらみの事件への対処とか……細かいことは、また今度ゆっくり説明するわね」
「で、その組織は、だいたい各都市に支部を持って、地域の問題に対処している。私たちの七姫市にも支部があって……さらに、わりと人員にゆとりのあるうちでは、支部の「本局」と、いくつかの「分局」に分かれているの」
GM:あ、この辺の組織周りは当卓独自の設定ね。
一同:了解でーす。
「そのうちのひとつがココ、「七姫東高校分局」、私は、UGN医療班「ホワイトハンド」から派遣されたエージェント、で、この子たちは支部に登録されているチルドレン……まあ、少年少女エージェント?」
説明することだらけね、とさらに苦笑。
胡桃:(じゃあ胡桃はポットで紅茶とか淹れはじめよう人数分先生カップかしてね紙コップでもいい)
GM:(すてきか)
胡桃:(お話の邪魔にならないように皆に湯気のたったマグをわたしました)
GM:まあ、とひとつ置いて、
「そんなわけで。ようこそ、「七姫東支部」へ。UGN七姫市支部七姫東高校分局、なんて馬鹿みたいに長い名前、普段は使わないわ」
そういって、今度は面白そうに笑う。
「まったく、これはあなたの仕事だと思ったから呼んだのに……。「局長さん?」」
そういって、隣に立つひょろっとした細身メガネ女子を、軽く睨んでみせる。当のひょろ女子は、はーい、局長さんでーす、なんてのらりくらり。
朱莉: 「ヒガシブ。」
温かいカップを両手で包んで、ぽつり。
「ヒガシブへ、ようこそ。」
そう言って微笑む姿は、日常のそれに近かったかもしれない。
香澄:「エージェントって、……洋画かなにかみたい」
付いて行けたのはそのくらい。小さく呟いてから、ひとつ息を吸って。
「……よろしく、……おねがいします、で、良いんですか、……私」
胡桃:手にしたカップをかつん、と香澄のカップにあてて小さな音を立てて
「よろしくお願いしますね」
香澄:ようこそ、なんて歓迎されたこともそう無いから。
どう返したものかと少し思考を巡らせて。
「……おじゃまします」
並ぶ笑みの気配に、つられて口角はほんの少しだけ上がった。
GM:「ええ、もちろん。それじゃあ……せっかくだしお茶にでもしましょうか」
淹れてもらったお茶を受け取りつつ、初めと同じ、柔和な笑み。
そうして、少女たちと保健の先生は、放課後のお茶会を——束の間の日常を楽しむのだった。
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