第20話 大蛇の財宝


「ハハハハハ! クラウス、お前の力はそんなものか?!」


 俺に限界を超えるところを見せてみろ!だの、

 そんなでは日が暮れてしまうぞ! とかウィルが五月蝿い……


「やかましいぞ! お前は見てるだけだろ!」


 全く……他人事だと思って……

 後で覚えてろよ。

 ……膝カックンしてやる。

 しかし……ムチャクチャでかいなこいつ……



  —



 昨日は水路にある袋小路という名の「セーフティーエリア」のおかげで、

 俺とウィルは十分に疲れを取ることができた。

 今日は探索を開始して三日目。

 俺はできるだけ下層に向かいたかったのだが、

 昨日ウィルがこのフロアにいる『徘徊する大蛇』を倒したいと言ってきた。


 俺たちは、その大蛇を討伐するため十二層の探索を開始する。

 その目的の場所へと進んでいると「ゴオォー」という音が聞こえ始める。


「早速大蛇のお出ましか?」


「こいつは徘徊すると言っても特定のルートしか通ることができない。だが、近づく者は皆……鱗に切り刻まれるらしい」


 どんだけ化け物なんだよ。

 近づけない……そのための遠距離攻撃ってことか。

 バリスタの火力なら、倒せる可能性は十分にある。

 さらにウィルが話を続ける。


「つまり、一度も・・・倒された事のない大蛇の巡回エリアの中には……宝が眠っているはずだ」


 ……

 キタ——!

 とうとう俺の人生に祝福の光りが差し込む瞬間が……

 なんか目まいがしてきた……もう期待しすぎて卒倒しそうだ。


『武器キタ——!』


 お前そればっかりだな。

 ……いいだろう!

 根こそぎ食べて差し上げなさい!


 ウィルの後に続き、通路を進むにつれ段々とその音は大きくなっていく。

 ——ゴオオォォォォ!


 前を歩く男が俺の顔を見て、通路の先を指し示す。

 その角を曲がった先には、轟音の主「徘徊の大蛇」が俺の前に姿を表す。

 え……?

 通路の先に見えてきたのは……ただのスライドする壁だった。

 蛇の胴体の部分しか見えていないということか……

 今までとスケールが違いすぎる。

 この水路の通路越しでしか全体像を把握できない……だが、城一つ分位あるのではないか。

 大きな馬車が隊列を組んで駆け抜けているようだった。


「あまり近づくと不規則に生えた鱗に刻まれるぞ! くっ……とても悔しいが俺は近づけない……と言うことで、後は任せたぞクラウス!」


 全然……悔しがってないよね?

 まあ要するにバリスタで、あの蛇の城壁をぶち破れということだ。

 俺には全く倒せる気がしないんだが、

 だがあの大蛇はその巨体のせいか、俺を襲うことはできない……その分だけ気は楽か。


「一丁俺たちの力を見せてやるかチェルノ」


『オー!』



  —



 あれから何度もチェルノに魔法を掛け直してもらい、

 気が狂ったように矢を放った。


 最初の一時間は、本当にこの蛇に痛手を与えてるのかと不安になった。

 二時間も経過すると大蛇から悲鳴が聞こえて来るようになった。

 そこからさらに一時間放ち続けていると……

 水路が赤く染まり始めた。


 さらに一時間経つと……

 腕が上がらなくなってきた……息が上がる……


「あと少しだクラウス! このバルトじゃ未開拓地に行く奴が一番かっこいいんだ! お前は英雄になれるぞ!」


 だっ、……誰がそんな声援で心が動くかよ!

 ばば、馬鹿にすんじゃねえよ!


 ウィルは全然関係ないが気合いを入れ直した俺は、

 速度が落ち始めていた蛇とは逆に、攻撃速度を上げる。

 ——グオオォオ……!


 断末魔とも言えるようなうめき声が水路にこだまする。

 すでに目に見ええて速度を落としていた大蛇はとうとう……動かなくなった。


「でかしたクラウス! やったぞ! うおおおおお!!」


 全身で喜びを露わにし、腕を掲げるウィルとは対象に、


「ちょ、ちょっと待て……肩が……上がらん……」


 っぺたん!と、座り込むクラウス。

 さっきまで疲れは感じなかった……ところが、

 その緊張の糸が切れた瞬間、

 全身に走る疲労と激痛に見舞われ立てなくなっていた。


 早く大蛇を乗り越えたいウィルは俺を肩にかけて、

 「やれやれ……仕方がない奴だな」みたいな感じになっていた。

 ……納得できねえ。


 俺も攻撃してるときに気づいたが、大蛇には顔と尻尾があった。

 いや当たり前なんだけど、要するにそこが巡回エリア内への入り口となっていた。


「だがウィルよ、大蛇の死体の内側って言っても相当広いぞ。お宝探してるだけでも一日つぶれそうだな」


 ただの広場ならさほど時間もかからないだろうが、

 巡回内部も当然だが水路の迷宮になっていた。


「ああそれは問題無い。宝は中央にあるのさ……そう昔から決まっているんだ」


 どこからそんな自信が湧いてくるのか知らないが、

 知った道のように突き進んで行くウィル。

 中央の位置も大蛇の死体の位置から予測できるらしい……本当か?


「ここバルトメルトでは宝箱が湧いて出るなんてことは無い……だがこう言った前人未到の地には必ず宝はある……らしい。実は俺も初めてなんだよ……こんな経験はね」


 それはそうだ……ダンジョンで未開の地に足を踏み入れるなんて、

 先頭を歩いてるやつか、ドジを踏んで落とし穴に落ちる奴ぐらいなもんだ。


 程なくするとセルフの効果もあってか俺は歩けるようになってた。

 ポケットに手を入れ、辺りを見回しながらウィルに付いていく。

 しかし……誰も入る事の出来なかった場所かあ……

 そう考えると改めて達成感を感じていた。


「見ろクラウス……部屋がある」


 そういうウィルが指差す先には……確かにそれはあった。

 水路の壁の先にポツンと扇形に穴が空いており、

 そこからは薄っすらと光が水路へ向かって漏れていた。


 俺は思わずサイレントウォークを詠唱する。


「おい、光が漏れてるぞ? 誰か住んでるじゃあないのか?」


 俺の疑問にウィルはニヤつきながら、


「な訳ないだろ」


 と返してくる。

 人が住んでないのに光が漏れるって……そりゃお前……

 キラキラしたものがさ、ザックザクないとだな……嘘だろ?


 部屋の前まで来ると視界に入る光の元凶。

 その部屋の中央に位置する、カップル用のでかい棺桶からは眩まばゆい光が放たれていた。

 ウィルと二人で見合わせる。


「あれって棺桶じゃないよな?」


「光る死体なんて聞いたことないな」


 だよな。

 じゃあ生きてるってこと?


 二人は近づいて中を確認する……

 そこには様々な色に光る石の他、金色に塗られたメダルが敷き詰めてあり、

 何点もの魔道具マジックアイテムが添えられてあるだけ……

 残念だが肝心の死体は入ってなかった……これで良しとしくか。


「ちょっと待てまずわ落ち着けクラウス。お前今いくら持ってる?」


 何言ってんだお前は!



  —



 あの後、落ち着くのに一時間、財宝を山分けするのに三時間かかってしまった……

 なので今夜はここで寝ることにした。


 とりあえず内訳でも確認しとくか……


 金貨8,800枚

 最高級ダイヤ、サファイア、高純度魔法石、後いろいろ。

 ここまでは後腐れなく均等に分けた。


 次は魔術書。

 『雷雨嵐サンダーストーム』『火炎嵐ファイアストーム

 雷の方をもらった。Lv8だった……俺には無理そうだ。


 後は魔道具マジックアイテムが十点。

 黒いマント、白いマント、手袋、短剣、軽鎧、長剣、指輪x3、後は杖だ。

 ウィルは鑑定のスキルを持っていなかった。

 俺はスキル自体を持っていない……


 鑑定してから分ければいいんだが、何故かウィルが嫌がった。

 まあ物が分からないのも面白い、そう思った俺は承諾することにした。


 だがここでウィルがイエローカード。

 知ってる指輪があるという……『格納の指輪』。

 しかもそれが欲しいと言い出す……斥候には必須アイテムなんだと。

 じゃあ分け前「六四」な?って言ったらオーケー出してきた。

 どんだけ欲しいの?


 次は二枚あるマントは二人で分けあう。二枚あっても仕方ないしな。

 ウィルは黒が欲しいと……こいつグイグイくるな。

 二本ある剣も分ける。俺は長剣、ウィル短剣。


 俺がライトアーマーはいらないと言ったら、手袋と杖を持って行けと言われた。

 ありがたく頂き、残りの指輪を分けて終了だ。


『長剣だけかあ』


 何が不服なのか、チェルノが愚痴る。


「指輪でも食うか? 後は……杖と手袋しかないな」


 食べれるなら食べてもいいけど?

 しばらくそれらを眺めているチェルノを他所に俺は横になる。

 しかし……身体中が痛い……


 横になって考える。

 まだ十二層か……せめて帰るまでに二十層ぐらい行きたいよな。

 朽ちし龍討伐もあるし、そこを目処にするか……


 あ……そういや墓守はどうな……って……


 —


 クラウスはどうやら寝てしまったらしい。

 俺は大蛇の部屋の入口に向かって、警戒の鈴を置きに行く。


「ウィルだ……明日は十三層……あいつは十二層の大蛇『メビウス』を撃破した……」


 警戒の鈴とは別の魔道具に向かってウィルはそう話しかけていた……


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