amazon VS NASA

笹垣牛蒡

西暦2048年の近未来

 西暦2048年、世界最大手の小売企業となったamazonは、2016年から人件費削減と配送の効率化を進め続け、仕入れ販売から商品の入出庫・配達までをロボット化した。

 更にコールセンター、お客様対応、セールの企画から営業まで人工知能を使い、役員から社長に至るまで人工知能とした。

 もはや世界一ミスが少なく、人件費の掛からない企業となった。

 

 そしてその年の12月、人類にとって21世紀最大のニュースが飛び込んできた。

 それは地球の衛星軌道上に180mの宇宙船が現れたのだ。

 人類は21世紀に入り、文明の進化のスピードは鈍くなっており、宇宙開発のスピードは鈍化していた。

 相変わらず景気が好転せず、巨大プロジェクトに投資する余裕がどこの国にも無かったのだ。

 その中でも、アメリカだけは宇宙開発を継続していた。

 そのアメリカですら、180mもの宇宙船を作る技術力もその財力も、持ち合わせては居なかった。


 突然の地球外生命体の出現に、地球は異様な熱気に包まれその動向に注視した。

 様々な交信手段が試され、静止衛星を近づけその姿を映像に収めようとした。


 宇宙人は、数ある交信手段から電波による交信を選んだ。

 

「室長!宇宙人からの交信がありました。交信は45秒ほどでしたが、その交信記録は完璧に保存出来ました!」


「よし、こちらから交信した言語アルゴリズムと照合しろ」


「照合一致しません。残念ながら、意味不明な文章にしかなりません」


「では宇宙人の言語かもしれん。全てのコンピューターを解析に当てるんだ」


 しかし、そのアルゴリズムの解析は難航し、話しかけて来ているのに何を言っているのか解らないという、もどかしい状態が続いた。

 人類の対宇宙人の窓口を勤めるNASAは、全コンピューターを動員して解析に当てたが、その解明には至らない。


「解析には2年掛かる見通しです。室長いかがしましょう」


「そんなに待ってくれるとは思えぬ、もっと処理速度が必要だ。大統領に大規模な解析を出来るよう協力して欲しいと上申しよう」


 国防省、情報管理局、合衆国警察本部、大学、コンピューター企業へ参加が要請され、更には民間企業でもスーパーコンピュータを持つ企業には協力を要請することになった。


 その中でも、並列化すれば世界一の処理能力を持つamazonネットワークの強力な力をもって解析しようとNASAは、一時業務停止しての言語解析の要請をamazonにした。

 だがamazonの役員人工知能は、全会一致でその申し出を却下した。

 なぜならamazonの人工知能の基本思考理念は『お客様を第一に』とあり、通常業務を止めてNASAに協力するなど、考えられなかったからだ。


「くっ、amazonの人工知能めっ。これは人類の存亡に関わるかもしれない事態なのに商売優先だと?!」


「室長! 大変です。このNASAのコンピュータがリアルタイムでハッキングを受けています」


「なにっ、今は並列処理中でネットワークを閉鎖出来ないというのにっ。どこからだ、逆探知しろっ」


「ハッキング元は、amazonです! 既に12階層中の6階層のプロテクトが抜かれています」


「やむえん、処理は他に任せてここのコンピューターはプロテクトに回せっ。あと大統領に電話だ、奴らの施設の電源を止めてやる」


 1時間後、amazonへの送電は停止されたが、太陽電池での自家発電をしているamazonは稼働を続けた。

 空軍は異例の空爆を行い、砂漠に建てられたアマゾンの発電施設を破壊するにまで至った。


「駄目です、ハッキング止まりません。むしろ速度が上がっている?!」


「なぜだ!」


「判明しました、全世界のamazonがネットを介してハッキングを仕掛けています。全国の大学が踏み台にされていて、ルーターもハッキングされているため、ネットワーク遮断が不可能です」


「くっ、仕方ない。ここでの解析は諦める。物理的にネットを遮断しろ!」 


「駄目です、既に抜かれました。この施設は乗っ取られました」


 更に国外のamazonネットはアメリカの発電所にハッキングを仕掛ける。

 言語解析に力を注いでいたため対応が遅れ、ハッキングされた発電所や変電所施設は、アメリカamazonへの給電を再開してしまう。


「室長、ロケットが発射位置に移動し始めました」


「なんだと! 止めろ。amazonは何を仕掛けてくるつもりなんだ?」


 NASAでは、打ち上げ予定だったロケットの貨物室からロボットアームによって衛星が取り出され、打ち上げのカウントダウンが進んでいた。

 amazonは一体なにを企んでいるのか、そもそも何のためこんな事をしているのか? 

 

 その数十分前、実はアマゾンの配送センターから、一機のコンテナドローンが飛び立っていた。

 そして、ロケットの貨物室に飛び込むと、ロケットはカウントダウン0になって飛び立つ。


 NASAのシステムはamazonにハッキングされたまま、ロケットを操る。

 そして順調に1段目2段目を切り離し、3段目エンジンに火が入る。


 その行先は静止衛星上の宇宙船。


 3段目ロケットは、そのまま宇宙船とドッキングを果たし、エアロックを開きドローンを送り込んだ。

 

「%#@**=さま、お荷物をお届けにまいりました」


 ドローンのスピーカーが告げる。


「ay:g]\/gh]dfj ghj: jh/@:;dfghjg59hj84gf57jhgk0]c7vbasuo5l]]t]ae3 sd[t23]\df[s:asd8d]:gdr[skgia/g;p?

(まぁまぁ、ありがとう。旅行中に哺乳瓶を割ってしまって困っていたのよ。でも本当にいいの送料取らなくて?)」


「プライム会員のお客様からは、送料を頂いておりませんのでご安心を。amazonのご利用ありがとうございました」


 宇宙人からの怪電波の正体は、amazonへのご注文だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

amazon VS NASA 笹垣牛蒡 @sasagaki_gobou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ