世界が無にかえるとき。

伊右衛門 千夜

第1話

 何のために、生まれてきたのか。


 あまねく有は、無にかえる。


 砂浜にどんなに完璧な絵を描いたところで、潮が満ちるとそれは消えるんだ。

 砂浜にどんなに完璧な砂の城を築いたところで、潮が満ちるとそれは消えるんだ。


 わたしが小学生のとき、わたしはガラスを割ったんだ。サッカーボールで、割ったんだ。

 こわい男の先生は、なぜだかわたしに怒らない。だけど、最後にこう言った。

「形あるもの、いつかは壊れる」


 あなたがどんなに素晴らしい作品を創造し、人々から賞賛されたところで、いつかあなたは死ぬ。

 わたしがどんなに素晴らしい作品を創造し、人々から賞賛されたところで、いつかわたしは死ぬ。


 始まっちゃったら、必ず終わりは来るんだよ。


 五十億年後、地球は太陽に飲み込まれるんだって。


 まあ、その時にはもうとっくに、人類は滅びているだろうけど。


 その瞬間ときに、

 アインシュタインだって、エジソンだって、あなただって、全ての人類は、みんなおんなじ、無にかえる。


 身体が死んでも、人は死なないけれど、このとき人は本当の意味で死ぬんだよ。


 みんなおんなじ、無にかえる。


 何にも残せず、無にかえる。

 何にも残らず、無にかえる。


 みんなおんなじ、無にかえる。

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世界が無にかえるとき。 伊右衛門 千夜 @iemoncha

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