第六章「もうひとつの未来~とあるワナビの一生~」

未来に残された来未の日記


『くるみのにっき!』


 ついに、ご先祖様の日記を全部読み終わった。

 高校時代から、三十三歳までの日記。


 アホなことが書いてあったり、変に落ち込んでる日があったり、テンションの上下が激しくて面白くて、あたしはつい夢中になって読んでしまった。


 ご先祖様は「ワナビ」だった。いい年して夢を追いかけて、賞に送っては落ち続けて、それでも諦められなくて――その奮闘の記録と、周りの人への感謝や申し訳なさでいっぱいの日記だった。


 最期の四カ月、ご先祖様はある賞に応募していた。


 『これがだめなら、もう作家になることを諦める。』――そう日記には書かれていた。その作品は順調に選考を進み――ついに最終選考まで残った。


 最終選考に残った日の日記はテンションが高すぎて読んでるこちらが恥ずかしいぐらいだった。


 でも、それが最後の日記――。

 そして、次のページには違う人の綺麗な筆跡で、こう書かれていた。


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 おめでとう、新次くん。

 夢、叶ったよ。

 受賞、したよ。

 本当に、おめでとう。


 それとね……わたしのお腹に、新しい命が宿ってることがわかったの。

 新次くんが、この世に残した生きた証、ずっとずっと大切にしていくから――。

 

 でも、新次くんには新次くんの本が本屋さんに並ぶところを見てほしかった。

 明日菜ちゃんも、アニメ化が決まって大切な時期なのに自分の締切無視して、新次くんのそばでずっと泣いてた。


 本当に新次くんは、女の子泣かせなんだから。


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 最後のほうは筆跡が乱れ、涙で文字が滲んでいた。


 幼女を守ってトラックに轢かれて死んだ先祖がいるって聞いたときは、あたしは不謹慎だけど笑ってしまった。そんな話、漫画やアニメ――しかも、とっくに使い古された異世界転生ものの設定だったから。


 でも、そのご先祖様が書いた本を読んでから考えが変わった。

 絶対に、このご先祖様に会いたいと思った。


 バカバカしくて、変にウジウジしてて、でも女の子を笑わせるためにがんばる小説家志望者のワナビ。


 もう余生があまりない、死ぬことが確定しているあたしは――タイムマシンを身体に内在するアンドロイド化したあたしは――やっぱり、過去の世界に行ってみたいと思う。


 新次が幼女を救うのを止めることも考えたけど――それをしたら代わりに幼女が死んじゃう。そうなると、ご先祖様は――新次は悲しむと思う。


 なら、やっぱり、新次が――だらしないご先祖様が、最もぐーたらしていた高校時代がいいよね? どうせ、無為に人生を過ごしているだけなんだからっ!


 あたしがご先祖様に会ったからといって、なにも変わらないかもしれない。


 でも、会いに行ってみよう。


 バカバカしくてちょっぴり泣ける青春ワタビドタバタラブコメの世界へ――あたしも、その世界の住人になりたいから!

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