クレイジー・ポリス

@Yamazaki

学校の青春の終わり

 アメリカの市街地の高校で春を迎えようとしている。

 だが、それは高校3年生のアルバード・ブランドも卒業が間近に迫っていたのだった。

「どうしよう……」

 生徒達の行き交う廊下の中で不安そうに呟く金髪の少年がアルバード・ブランドである。

 卒業間近な生徒達にとって不安要素なのは、就職困難、背負わされる大学の奨学金、否それは違った。

 最もそんなものは、単なる序章にしか過ぎない卒業間近の行事が始まろうとしている。

『卒業パーティー! いよいよプロムが始まるぞ。』

 アルバードが見ていたのは、廊下の壁に貼られた憎たらしく書かれているポスターであった。

 プロムナード、通称プロムは、これから始まる卒業パーティーの事である。

 卒業パーティーの催しとして豪華なディナーにシャンパン、と豪華なイベントであった。

 夢のようなパーティーに参加出来るなら、アルバードだってこんなに不安で呟いてはいない。

 そのパーティーの参加条件は、オタクのアルバードにとってはエグいものであった。

『男女カップル以外お断り~』

 憎たらしく書かれているポスターの下に、非リア充ざまあみろと言わんばかりの文章がつづられている。

 彼女が出来ない童貞のアルバードは、この条件を出した野郎をぶん殴りたい気分であった。

 しかし、アルバードは一か八か賭けに出る作戦を実行する事にする。

 失敗すれば学校中、噂が絶えず間違いなく引きこもりコースに入ってしまうが卒業間近だからこそ実行できるのだ。

 それは、まさしくライトノベルでしかあり得ない奇跡に近い賭けである。

「はぁい……。アンジェラ……」

 それは、幼なじみであり人気カーストに属している美女アンジェラをプロムへと誘う事であった。

「何かしら?」

 弱気なアルバードの声に応じてくれたアンジェラは、笑顔で振り返っている。

「あの……えっと……」

 アルバードは、緊張のあまりエラ呼吸が出来ない魚のように口をパクパク動かしていただけであった。

 こんな賭けに出ているアルバードでも勝算が0.00001パーセントがあると思うのは、アンジェラとは小学生から遊んでいた友達だからである。

 告白したいぐらい惚れそうなのは、確かだが彼女は自分の事を友達としか見ていないのだ。

「こんな僕と……プロムに行けたら……何つって」

 せめて友達としての情で自分とパーティーのダンスするだけでも構わない。

 誘いの失敗を思考したのか、防衛本能で冗談混じりの台詞も言ってしまった。

「まさか……プロムに誘うつもりじゃないよね……?」

 自分の誘いに対してアンジェラは汚い豚を見るような驚いた顔を浮かべている。

 言ったのはアルバードだが失敗した時の空気が自分の体中に重くのし掛かった。

 そんな空気を読まない連中がニヤニヤしながら失敗した誘いを見ている。

「アンジェラ~! そいつは辞めておいた方がいいかもね! そいつオタクだよ~!」

 連中のグループの一人の女性が腹を抱えながら笑い声で叫んだ。

 笑いながら茶色に染めたポニーテールの髪を揺らし、小悪魔の笑みで浮かべている女性はサラ・コナー。

 名前を聴いただけで映画のターミネーター1、2を思い出すのは自分だけなのか、アンジェラと同じ人気カーストに属している通称プロムクイーンと知られるサラは自分をいつもながら、楽しそうにからかっている。

「アルバード、御免ね……。もう既にパートナー見つけちゃたの。3限目の授業の終わりの時で」

「あぁ……いいんだよ~。冗談で言ったんだよ。気を悪くしないで……」

 アルバードは死んだ魚の目つきでアンジェラに向かって誤魔化しながら「はっはっ……」と口だけ笑っていた。

「あの……パートナーの宛はいるの? 良かったら……」

「いいんだよ。凄く有り難いけど……其処そこまで迷惑かけられないしね」

 心配そうなアンジェラの事は、昔からお人好しなのは知ってはいる。

 其処そこまでされるとサラ達から何をされるかたまったもんじゃない。

 ここは潔く諦めようと決心するアルバードであった。

「あれあれ? どうしたオタクもう諦めるの? 根性ないわね~」

 自分とは関係なく批判をするサラ達を「糞リア充共!」と心の中で思ったが、後悔は全くしていないと思ってはいない。

「ばいばい……」

「もし、何か遭ったら電話してね」

 自分は、同情気味のアンジェラに別れの言葉を送った。

 アンジェラの電話番号を記した紙がどこにいったのかも忘れ最終的に電話番号まで忘れてしまう始末である。

 この学校で、ただ一人プロムに行けないのは僕だけなんだよね。

 呆然としながらアルバードはフラフラと学校の教室へと戻っていった。

 自分の青春時代は、ここで終わってしまったと実感する。

 

                            ・・・ 


 アルバードが去った後、サラ・コナーはジーンズのポケットに手を突っ込みながら彼を見送っていた。

 サラは憎たらしく欠伸をしながら自分の隣にいた女友達に向かって口を開く。

 「彼……もう少しで粘ると思ったんだけど、どお?」

 「つまらくなったなぁ……ねえ! パートナー紹介してよ」

 興味が薄れたのか女友達は、別の話題で持ちきりであった。

 「はいはい……分かったわよ」

 サラは、一瞬呆れた顔をするが笑みを作る。

 被害者面をするつもりはないが自分はある程度、仲間と合わせていた。

 私の本音や姿を見せても笑いあえるような『友達』が欲しいと思っているが現状では無理そうだわ。

 サラは、憂鬱そうに思いながら自分のジーンズの尻ポケットからスマートフォンを取り出した。

「これが私の……『サラ・コナーさん。至急、校長室にきてください』」

 スマートフォンに内蔵された自分のパートナーの画像で紹介しようとしたらスピーカーの呼びかけ声に遮られる。

 私は何つータイミングなんだと言わざる終えなかった。

「指導するのは職員室なのに校長室って……? 何やったの?」

 グループの一人の男友達は、心配する訳でもなく興味本位で聞く。

「いや……? 私、隠れて酒や煙草やっているけどプロムの一週間前に辞めたわよ」

「それはそれで校則違反だよ。意外だな。ドラッグはやらないのか?」

 男友達は、サラの返答に少し驚いていた。

 ドラッグかぁ……。学校で目にするけど興味がないし。覚える気もないのでどうでもいい。

「あぁ、あれね。ラリったら何するか分からないし。もう、そろそろ行かないと」

「頑張れよ」

 そんな事を思考しながら、そろそろ行動に移るサラに男友達が気休めの言葉を投げる。

 サラは「えぇ……」と答えると重い自分の足で行きたくもない校長室へと向かっていった。

 この後、私が何をされるか思っても見なかった。

 私が待って数十分後、自分だけ授業に受けずに校長室の客席用のソファに座っている。

 教室の椅子より居座り心地が良かったのは、私の本音だけど。

「サラさん、いたんですか? もう座っているのね。私も結構、忙しいのですから」

 校長室の扉から年季の入った女性が現れた。

 その女性は耳に派手なイヤリングを付けているが校長先生である。

 あんたが呼んだんでしょうがっと怒りたいが何とか抑える私。

「要件は何ですか?」

 私は、呼びつけた要件を椅子にふてぶてと座る校長先生から聞き出そうとしていた。

 この手の校長先生の口からは、ろくでもない事を吐くのだろと予想する。

「単刀直入に言います。あなたはプロムに行けません」

 それ私の予想上回っているじゃん。

 いや! いや! いや! いや! マジの単刀直入じゃん。

 一瞬、私の口から叫びそうになったが何とか堪えた。

「理由を聞いても……?」

「以前にも言いましたが貴方のテストは、目に余るほどの点数の酷さです。そして忠告しました。次、ふざけた点数を取ればナシだと」

 理由を尋ねる私に校長先生は机の引き出しからテストの用紙を見せる。

 それは私のテスト用紙だと。しかし、よく見ると酷い点数だと改めて思った。

「……私、プロムクイーンですよ!」

「遊び放題で勉学に励んでいないのね。学校で何を学んできたの? 卒業出来るだけ有り難いと思って」

 私なりの説得力で挑んでみたが、あっさり撃沈される。

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