6-F

 やがて争う音も止み、静寂に包まれた屋上にあの男が現れた。


 ――彼女は逝ったかい?


 僕の問いに、あの男は答えようとしない。

 でも僕は、自分の憎しみをぶつける事を止められない。


 ――彼女は、一度も僕を見てはくれなかった。


こんな悲惨な結末が、全て僕のせいだとしても。


 ――僕とお前に何の違いがある? ただ先に彼女と出会ったかどうかだけだろっ!?


 この男が、僕から彼女を奪ったのは事実なのだから。


 ――お前は、お前は最初から全てを持っていたのにっ!


 この憎しみだけは、僕の真実だった。





 戦いに敗れ、僕は転がっていた。

 当たり前だ、どうせ僕は出来損ない、吸血鬼になってもクズのまま。

 見上げた視界に映るのは、赤い月と、紅い鬼。


 ――あの時、何でお前を殺さなかったか分かるか?


 四肢を失ったまま、僕は最後の悪意をぶつける。

 あの男は全てを知っているような目をしていて、それがとても気に入らなかったけど、僕は全ての呪いを吐き出した。


 ――お前は生きて苦しめよ!


鉄塊が振り下ろされ、僕は死んだ。

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