第13話 返事した

 動く皿を何とかしょうと気ぃ向けすぎとった。

 わしも、子猫も。

 食う、出す、寝る。そん時が危ない。

 っちゅう本能が、ホンマに動物には刷り込まれとった。

 せやから余計びっくりして……






 にゃー。


 暗い穴が、小さく鳴いた。






「何で空いてんねん」




 床下の通風口の柵が何本か折れて、ちょうど子猫が入れるぐらいの。

 飛び込んだちっこい体にぴったりの。


 穴が。




「サビやし」

「サビでこんなん」

「女の子やわ」

「……あ?」


 何の話や。

 て振り向いた。


「サビ言うんは、毛ぇの柄。サビはほとんどメスやし、メスはオスより警戒心が強いから、餌ぐらいで釣られへんその子は九割九分、メス」




 知らんかった。




「私がもらおうとした子、サビやった。知らんやろな。聞きもせんとアカンて怒鳴って。そやし、そこで飼おうとしてん。お母さんに見つかって、そこまでになったけど」






 わし、何も知らんかった……






 て。




 おい。




 今、しれっと何を白状してん。




「この」

「もし今さら飼いたいとか言われても納得でけへんけど、よかったわ、子猫が隠れられて。えらい役に立った。はい、じゃあ、草刈りの続き。ここおったら、出たなっても出られへん。ほら、のいて」






 にゃー。


 暗い穴が、小さく鳴いた。






 ホンマ、誰に似てん。




 わし、返事した。


 穴に。

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