第12話 知らんかった

 ほれ見い「子猫の飼い方」でよかったがな!

 皿……これでええ!

 口を切ったパックを右手、紙の深皿を左手、「ちょっと何それ」て入って来た娘をよけ、窓から飛び出した。

 まだ――











 にゃー。











 おった……



 急いで皿に注いで、前に押し出した。


「ミルクや。ほれ」




 腹、減ってるやろ。

 喉、渇いてるやろ。

 声、かすれるまで鳴いたんやろ。




 子猫は、足を出しては引っ込め。




 その場をウロウロ。




 何してんねん、早よ飲め。




 そうか、わしが見えたらアカンねや。

 思て、ゆっくり家の角に身を隠した。


 目ぇだけ出して。




 にゃー。


 ええぞ、来い。甘いど。


「嫌いやったやん、猫」


 後ろで声がしたような。




 にゃー。


 好きやろ。お母ちゃんの味や。美味いど。


「好きなんは犬やろ」


 低い声がしたような。




 にゃー。


 猫やなくて牛やけど、お乳やど。

 ほれ。

 ほれ。


「昔、私が猫もらって来たら怒っ」

「お!」






 飲みよった!






 警戒しながら、でも飲んどる。

 よかった、これでとりあえず生きれる。

 そうや、いっぱい飲め。




 あ。

 しもた。紙皿は軽すぎや、動いとる。

 継ぎ足したらな、飲みにくいか。






 ちいと気ぃ許してへんかな。






 いけるか……?











 わし、知らんかった。

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