第3話 本、いるやろ思た

 向かいの家の、垣裏の隅、こんなとこに――


 おらんな。


 平屋の屋根の、日の当たるほう――


 見えんな。


 空き地の草の、茂った向こう――


 もっと茂っとる。


 畑の土の、柔らかいとこ――


 お、玉ねぎ。


 河原の横の、灌木の枝――


 ヒモ……ヘビやあっ!


 びっくりするやないかい。シマヘビや。

 マムシやったら死んどったな、わし。こんなとこで見たことないけどな、マムシ。ちゅうか図鑑でしか見たことなかったわ、そう言うたら。いやテレビやったかいな。

 どっちでもええか。次や、次。


 公園。ベンチ。遊具。砂場。


 木。塀。溝。藪。


 境内。参道。軒下。燈籠。


 道。角。道。角――




 何でおらんねん。




 いつもどっかにおるやないか。うちの庭も、野良か飼い猫か知らんけど通り道になっとって、土産まできばっていきよるやつまでおる。歩いとったらどっかで猫がくつろいどって、なんか横切った思たら黒猫やんけ! てなることもようあったんや。


 せやのに、何でや。

 何で探したらおらんねん。




 へばったわしの行く先に、見えたんは一軒の本屋。




 わし、本、いるやろ思た。

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