人と鬼の生きざまが交わる。哀しき者、あるべき場所に還れ。

山越えの旧街道を抜けた先、軍服姿の男が至った。
その男、志麻は里長に呼ばれた「オニカエシ」だ。
里は妖に魅入られたか、待ち続けても春が来ない。
いや、命の気配が一切ないのだ、冬とも呼べない。

鬼と対峙して戦うが、第一義は討つことではなく、
鬼を返し、帰し、あるいは還すが「オニカエシ」。
兄ちゃんと呼ばれる年齢に似ず手練れの志麻だが、
軍刀を抜くその胸に葛藤や哀惜がない訳ではない。

端正で冷静な筆致が綴る、物悲しげな鬼の生き様。
おぞましい、おそろしい、と言えるかもしれない。
けれども、恐怖や残酷さ以上に強く感ずることは、
「この物語は美しい」ということにほかならない。

都会で西洋化が進む一方、里山に古風の残る時代、
陸軍属オニカエシの一員、志麻の任務は継続する。
心地よく身を委ね、入り込める物語は貴重である。
すごく好きだと直感できる作品に出会えて嬉しい。