第47話 【二度目の夏を迎えて -2-】

 速水と別れたあと、自宅に向かう途中で蔀から一通のメールが届いた。

 今度はなんの要件なんだろうと携帯電話を見てみると、またしても相談事があるらしい。


「家族か……」


 氷峰は文面を見ながらぽつりと呟いた。

 蔀からの文面はこういう内容だった。


 《親父からの手紙で相談したいことがある。俺にとっても重要だが、お前の実の父親についても書かれていた。できれば今度は賑やかな場所で話したい。居酒屋でもいいか?》


 氷峰は返信するのが面倒で、通話ボタンを押した。


「あっ……。今仕事中かぁ……。バカだな俺」


 すぐに通話を切って、氷峰は返信メールを送った。


 《居酒屋予約しといて[OK]》


 仕事仲間とのやり取りで赤い絵文字のOKを使うのに慣れすぎてしまい、蔀にもつい癖で送ってしまった。


「今日はなに作ろうかな〜。弁当と炒飯ばかりじゃ飽きちゃうよな」


 氷峰と速水との間で交わされた会話はおそらく蔀の中でも考えていることだろう。

 氷峰はそう信じて疑わなかった。

 唯一の親友である蔀なのだから。



 ―――夜・氷峰宅。


「ただいま」

「あ、ミネ。おかえり」


 リビングで亜結樹は氷峰を迎えた。

 亜結樹は進路相談があったことを氷峰に話そうと口を開こうと息を吸い込んだ。だが――、

「あ、やっぱりなんでもない。今は言わないでおく……」

 言うのをためらってしまった。


「どうした?」

「いや、もう学校で文化祭の話としててさ。あはは」


 亜結樹は言葉の裏に違う言葉を秘めていた。氷峰はすぐそれを見抜く。


「担任になんか言われたのか? それともまたいじめか?」

「違う違う。それより課題まだ残ってんだ。白紙のプリントに一言書いて出さなきゃ」


 亜結樹はそう言って自分の部屋へ向かっていってしまった。

 リビングを出ていく様はどこか寂しげであった。氷峰は亜結樹の後ろ姿から表情を想像する。


「…………」


 ――あ、それより蔀の父親の手紙の話って八束にしてたのかな……?

 ――俺から話してもしょうがねぇかな……。

 ――でも兄の言うことは絶対に聞かなそうだしなぁ……。


 氷峰は悩んでいた。

 蔀宛にきた柊枝燕ひいらぎしえんからの手紙の内容を知らないまま、八束に手紙が届いたことを伝えていいのか。いや八束には伝えておくべきことなんだと氷峰は考えた。なぜならこれは家族のことだから。氷峰、柊家は血が繋がっていなくても色々とお世話になった間柄だ。


 ――蔀は八束のことなんかどうでもいいだろ、きっと。よし、話そう。


 氷峰は蔀と同じ手法で、八束にメールを書いた。


 《兄の蔀宛に枝燕からメールが届いたんだってさ。内容はまだ詳しくは知らない。氷峰駈瑠の話も書いてあってお前には全然関係なさそうだけどな。今更困るよなぁ。で、蔀の代わりに俺から伝えておく。じゃーな》


 文面の一番下に氷峰は昔のアドレス帳から枝燕のメールアドレスを貼り付けた。


 《俺がお前の父親に会ったのは駈瑠の葬式の時だった。お前は産まれてるけど記憶はねぇだろうけど、そのとき連絡先交換してあったんだ。そんだけ。使うか使わないかは自由だから》


 そうメッセージを付け加えて送信した。


「……あー、また蔀に怒られっかなぁ……」


 世話を焼くのか焼かれてるのか。

 なぜ面倒だとおもいながらも蔀の弟の八束にかまってしまうのか。

 昔のことをいまだに引き摺っているのは自分の方じゃないか。

 八束がメールを見たら、八束が蔀に怒りをぶつけるのか、それとも氷峰の方に矛先が向かうのか、それは八束にしかわからない。

 氷峰はふたたびメールを確認し、蔀と日時の約束をしてから眠りについた。




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