第44話 【相談事 -4-】
―――同時刻・学校。
「亜結樹って誕生日いつ?」
「三月。もうとっくに過ぎちゃったね。海鳴は?」
「俺は五月二十五日」
「近いじゃん。もうすぐだね」
「そうなんだけどさぁ……俺たち十八歳になっても特別なんもないよな。成人って認められてんのかもわからねぇし」
「そうなんだっけ……。それって悲しいことなの?」
「悲しいっつうか、クローンも人間と一緒に教育受けてんのに、俺は何か物足りないって時々思うんだよ。それに俺なんか、ここにいて大丈夫かどうか不安になるし……」
――まさか陵さんがテレビで違法な存在って晒しちゃうし。
「でも、今普通に学校通えてるじゃん」
「組織の圧力があったんだよ絶対。そうに決まってる」
「あはは……。でも、今学校から施設に戻るのは逆に退屈でしょ?」
「まあ、そうだろうなぁー」
「あっ!」
「どうした?」
「海鳴……進路相談ってあたしたちもあるんだっけ? プリント忘れちゃった」
「俺持ってるけど白紙のままだぞ。口頭だけで大丈夫だろ、多分」
「そうかな……。そうだといいな……」
亜結樹は不安そうに返事をした。
――海鳴もそりゃ不安になるよね。
心に思っていたことがすぐ顔に出てしまう。亜結樹はそういうところがある。
授業が始まるチャイムが鳴った。
***
放課後、出席番号順に一人ずつ呼び出されていく。
海鳴は五月生まれなので早めだった。
この時期の面談はそんなに重要でもないと認識している人も多いらしい。
「待っててくれる?」
「もちろん」
「五分くらいで終わらせっから」
海鳴はそう言うと隣の空き教室へと向かった。
待っている間、周囲の同級生はおしゃべりを楽しんでいて、意外と騒がしかった。
亜結樹は三月生まれなので、最後の方だ。少し落ち着かない様子で椅子に座っていると、一人声をかけてきた。小北だった。
「氷峰さん。今年の文化祭何かやってみたいこととかある?」
「文化祭……? まだ五月だよ?」
「体育祭と、期末テスト終わったらもう夏終わって九月じゃん? だから今のうちに色々話すだけ話しておこうかと思って」
「気が早いね」
「そう言わず、何か思いついたもの上げてほしいなぁー。お願い!」
小北は両手を合わせて亜結樹にお願いする。
「うーん……」
――急に言われても、文化祭って初めての経験だしなぁ。
――やってみたいこと、か……。
「あっ……喫茶店とかどう?」
亜結樹はなにか思いついたように声を上げた。
「いいねそれ! 服装とか着てみたい服とかある?」
「昔風の……レトロな感じとか体験してみたいな」
「うんうん。古風なメイド喫茶とか良さそう〜」
「喫茶店といえばメイドだよね」
小北の隣にいた友人が相槌を打った。
亜結樹はなんで急に思いついたのか、小北に理由を聞かれた。
「それは……――あっ!」
理由を言おうとしたとき、海鳴が教室に入ってきた。海鳴は亜結樹と目が合ってしまうが、女子に囲まれてる様子を見て目を逸らした。小北が振り返って彼の姿に気づくと、笑っていた友人が小北に向かって
「別に理由なんかどうでもよくない?」
「えー、知りたいんだけどな」
そう呟いた小北はすぐに答えを言い返せないのも亜結樹らしいと思った。
「ごめんね、小北さん」
「別に謝んなくていいし〜」
亜結樹は
海鳴は二人が亜結樹の側を離れて行ったのを見計らって、ささっと素早く近づき――
「あいつらと何話してたの?」
と何故か小声で話しかけてきた。
「ん……今年の文化祭の話」
「えっ!? 早くね?」
海鳴の軽快なツッコミが入る。亜結樹も海鳴と同じように思った。ついでにどんなのがいいかという話もしたと彼に伝えた。
「へぇー古風なメイド喫茶ねぇ。服装とか凝ってそう」
「だいぶ先だけど、それに決まったら嬉しいね」
「そーだな」
二人が会話をしている間に、亜結樹の番が回ってきた。
「行ってくる」
「うん。あ、門の前で待ってるわ」
話が終わったらすぐ帰れるようにと付け加えなくても、ふたりのあいだでは意思疎通が図れていた。
海鳴が軽く手を振って廊下の脇から消え去った。
――海鳴はなにを話したんだろう……。
――進路か……。
亜結樹は担任の先生が待っている教室の戸をそっと開けた。
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