32:エピローグ:「私たちの童貞と処女、一緒に卒業してしまいましょうかっ?♡」

 「「「……あっ」」」

 それは、カラオケの規定時間終了を告げる、店員からのお知らせの電話らしかった。

 つまり俺たちは、キスするのに夢中で、一曲も歌うことなく、ドリンクを一口さえ飲むことなく、五十分近く過ごしてしまったようだ。

 なんて無駄な……かつ、贅沢な時間の使い方なんだ!

 「あの……え、延長しとこか?」

 モエカは、恥ずかしそうに笑った。

 「……そうだな」

 「エッチです。ええ、そうしましょう」

 俺とエッチは、苦笑いでそれに答える。

 

 こうして、カラオケデートは無事(?)に終わり、モエカに対する奉仕活動は完了したのだった。

 

 その日、モエカと別れた後、俺たちは普通に家に帰った。

 部屋で制服から着替えていると、

 トントン、というノックの音がする。

 「あ、エッチ。今、ちょっと着替えてるんで――」

 「エッチです。分かりました」

 ドアが、ガチャリ――と、おもむろにあけられた。

 そこには、下着姿のエッチが立っていた。真っ赤なハートを象った形の下着で、実用性より装飾性重視の代物だ。

 男子高校生がこんなもの見るのは、めちゃくちゃ目に毒だと思う……特に、着ているのがエッチみたいなグラマラスな女性だと。

 「ウフフっ♡ 貴方ったら、そんなに詳細に描写してくださるなんて、そんなに私の下着姿が気に入ったのですか? 私、貴方がお望みなら、常時この格好でもいいくらいですのに♡」

 「……すいません、色々ツッコミたいんだけど、頭が追いつかないや」

 俺は目を泳がせて、壁に手をついた。

 「色々? いったいどこにツッコんで下さるんですか、アナタぁっ……♡」

 エッチは、後ろから俺に抱きついた。相変わらず豊か過ぎる胸が、ぐにゅぅっ……とつぶれる。なまめかしい感触に、俺は頬を熱くしてしまう。

 なお悪いことに、いま俺も下着姿……シャツとパンツだけなのだ。エッチの体の存在感が、ほとんどじかに伝わってくる。

 「っ……! な、なんで着替え中って言ったのに入ってくるんですかね?!」

 「エッチです。私も着替え中でしたので、互いに同じなら恥ずかしくないかと考えまして」

 「下着姿で家の中をブラブラしないでください!」

 「エッチです。あら? 私は、貴方の願望に従っただけですのに……♡ フフフ♡」

 エッチが手を一振りすると、瞬く間に下着が消える。

 といっても全裸になったのではなく、服で隠れたのだ。丈が短く、全身ピンク色というふざけたデザインをした、いつものシスター服だった。

 俺も私服に着替え、椅子に座る。エッチには、ベッドを薦めておいた。

 ベッドで隣同士に腰掛けるとまずいかな――と思ったのだ。でも……ここからだと、位置的にエッチが足を組み替えた時に、パンツが見えてしまいそうになる。俺は、エッチの顔にだけ目線を集中することにした。

 「エッチです。今回、貴方が行った他者奉仕活動の結果ですが」

 「あぁ、その話をしにきたんですか」

 事務的な会話をするだけなのに、どうしてこんなに余計なエロ会話を繰り広げなきゃいけないのか……。

 「エッチです。貴方は今月、私、イクミさん、モエカさん、モモさん……と、複数名に接吻奉仕キスサービスを行い、またその他の奉仕活動を行われました。貴方の体内に蓄積された陽性ポジティブエネルギーを透視したところ――」

 ごくり、と俺は息を呑む。テストの採点をされてる気分だ。

 「およそ、11.1パーセントという数値を示しています」 

 「11.1……?」

 以前、見てもらったときは11パーセントだったと思う。

 「一ヶ月、くちびるが擦り切れるくらいキスして、ようやく0.1パーセントか……先は長いですね」

 「エッチです。そうでもありません。貴方がたの惑星表面上では、他者奉仕をほとんど行わず、陽性ポジティブエネルギーを溜めない方もいます。それどころか、減少させて一生を終える方もおられます。それに比べたら、貴方の発展は驚異的なものですよ。自信を持ってくださいね」

 「そっか……まぁ、こだわっているワケじゃないから、いいんですけどね。ゆっくりでも」

 俺はあくまで、困ってる人を助けられればいいんだからな。

 「エッチです。ゆっくりではありませんよ。貴方はおそらく、今回の人生で50パーセント超えを達成されるでしょうから。ほんの数十年、あっという間です」

 「そりゃ、寿命が16000歳の人にとっては、『あっという間』だろうけどさ」

 俺は、苦笑いした。

 「エッチです。それは誤りです。16000は、私の現在の年齢です。私たちの全寿命は、およそ90000年となります」

 「もっとワケわかんなくなってきましたよ!」

 「エッチです。寿命はたっぷりありますから、貴方が望む限り、私はずっと貴方のお傍にいますよ♡ 貴方に奉仕し、貴方の道のお手伝いをさせていただきます。そう、貴方が亡くなるまで、いえ、もしかしたら亡くなってもずっとね……♡ ふふふっ、ウフフフフっ♡」

 「うぅっ……?!」

 ありがたいけど、ちょっと重荷な気も……。

 エッチは、ダメ押しでもするかのように俺に抱きつき、俺の上に腰掛けた。頭巾と、白く長い髪の毛が揺れ、バニラのような甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

 「エッチですっ♡ ねぇアナタ、明日からも、私とぉ、他の方ともぉ、いっぱいチューしましょうね♡ そう、こんな風に……ンふふっ、はむぅっ……ちゅっ、ちゅっ♡ ニュぽっ……! うふっ、それともォ……♡」

 エッチは、とびきり優しく、そしてとびきり色っぽく微笑んだ。

 「え、エッチ……その、いったいどうしたんです? 何か今日、すごい可愛いような……?」

 「エッチですぅ♡ くすくすっ……あのねアナタぁ♡ 今晩いっしょにぃ……フフっ、私たちの童貞と処女、一緒に卒業してしまいましょうかっ?♡ ねェっ、アナタぁ♡ アナタのお望み次第ですよっ、フフフフっ……♡ ね~ぇ~っ、私を、一体どうしたいんですかっ?」

 俺は大口を開けて絶句してしまった。そ、そんなのは、まだ早すぎるだろうっ! ――でも歯がカチカチ言って、一時的に言葉が出ない。

 「……アラっ? お答えくださらないなら……直接、おクチに尋ねてみましょうか♡ ぁンっ……ンみゅっ、ぷちゅチュっ……ンぢゅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~っ♡」

 「うぉぉぉっ!?」

 セリフも瞳も服装も、すべてがハートマークだらけだった。

 やっぱり、異星人ってすごいや――なんとか清い関係を保ったまま無事に一日を終えた時、俺は、ベッドの中でそう痛感した。

 

 「私は、エッチです♡ 全体無限創造主ユニバーサルアンリミテッドクリエイターの深い愛のもとに、貴方のそばを離れます。貴方に召喚されたことを、感謝しています。さようなら。私たちの友人よ、またお会いましょうね♡」

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私はエッチです♡ ~巨乳美処女宇宙人と、らぶらぶベロちゅーしまくっちゃおう!~ 相田サンサカ @Sansaka_Aida

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