29:「ウチのおクチ、ぜんぶししょぉのモノになってもうたぁ……♡」

 『エッチです。全ては貴方のご判断です。この先、モエカさんのみに深くご奉仕なさるのか。それとも、その他の方にも広くご奉仕なさるのか。私は、貴方の意思を尊重します』

 くっ、そう来たか……。

 俺は、はぁっとため息をついた。

 「……俺は、モエカが好きだ」

 「し、ししょぉっ……う、ウチめっちゃうれしぃっ!」

 モエカは、勇んで俺に抱きつこうとする。が、彼女の肩をつかんで止めた。

 「し、ししょお?」

 「好きだけど……でも、それはたぶん、モエカが望んでるような好きじゃない。俺は……モエカだけを『特別に』好きにはなれないんだよ。ゴメンな」

 「……っ!」

 モエカは、ショックを受けたような顔をした。

 「な、なんで……ウチ、やっぱり魅力ないん? どこがダメやったの? うち、ウチ、絶対治すし……師匠の好きなように、なんでもするしっ、やから!」

 「おいおい、そんな軽々しく何でもとか言うなよ」

 それじゃ、どこかの異星人を思い出してしまうじゃないか。

 「……ゴメンな。モエカが、なんか足りないとかじゃない。俺は……いろんな人を助けなきゃいけないんだよ。一人だけじゃなくて、みんなを、困ってる人みんなを……な。だから、お前だけを好きにはなれないし、お前だけにキスするってのも……今は、そういうのはムリなんだ。理屈じゃないけど、なんとなく……そうしたほうがいい気がするんだよ。悪いな」

 俺は、神妙に頭を下げた。モエカは、悲しみを通り過ぎて、むしろ困惑げだった。

 「ど、どうして……どうして師匠は、そこまで他人に親切なん? ウチにもあんなに助けてくれたけど……他の人も、みんな助けるなんてっ!」

 「まぁ……お前には話してもいいかな?」

 俺は、ちょっと顔をそむけて、鼻を掻いた。

 「実は……俺が子どもん時さ。近所に、めちゃくちゃ親切なお姉さんがいたんだよね。近所じゃ、有名人だったんだ。誰にでも声かけて、助けてあげてたからな。でも……その人、亡くなっちゃったんだよ。俺のせいで……な」

 「ええ、亡くなったって……なんでや!?」

 「まぁ、早い話が交通事故だ。ほんとは、俺が轢かれそうになってたんだけど。そんな俺を助けて身代わりに……ってやつさ。すごいと思わないか? そこまで身を挺して、人を助けられるなんてさ。普通、そんなことできるやつはいない。なんだか、マザー・テレサだとか、キリストとかのレベルじゃんか? それって」

 モエカは言葉もなく、無言でこくこくうなずいた。

 「だから、お姉さんの代わりに、俺は他人を助けなくちゃいけないんだよ。――いや、違う。助けたいんだ。なんとなく、直感だけど……これからも、俺が助けるべき人はいっぱいいる。そんな気がするんだ。お前だけじゃなくって、さ。だから……ゴメンな」

 「し、師匠……!」

 モエカは、じわっと涙を流した。失恋の涙――というやつか。

 「……ごめん。二日連続で失恋させるなんて、俺ひどいやつだよな。ホントに――」

 「師匠っ! ウチ、感動した、感動したでっ!」

 モエカは、俺の手を握った。……あ、あれ?

 「師匠が親切なんは、そないな理由があったんやな、ウチ、ほんますごいと思うで! これからも、やっぱり師匠についていくわ!」

 「あ、あの~っ、だから『ゴメン』って言ったんだけど」

 「ええねんええねん! それやったら、仕方ないもん! ウチは、師匠がときどきキスしてくれたら、ぜんぜん満足やで!」

 「えええええ!? そ、そんなんでいいのかよ!?」

 なんでそんな……高校生のクセに、愛人みたいなポジションに自分からおさまろうとするんだろう……?

 「かまへんかまへんっ、師匠の聖人っぷりを見たら、そのくらい当然や! それに……他人を助けたいってことは、ウチにも、今はキスしてくれるってことやろ? な、そうなんよな!?」

 「っ……!?」

 モエカは俺の手を引っ張って、自分の胸に当てた。見るからに豊かなモエカの胸が、俺の手のひらでゆがむ。セーラー服の上からでも、たっぷりとした脂肪の感触が分かるくらいだ。圧倒的なやわらかさに、目の前がくらくらしてくる。

 「そ、そんな誘惑じみたこと……俺は教えた覚えはないぞっ!?」

 「ちゃ、ちゃう! 前に、雑誌で読んだんや! 男子は、みんな女子の胸が好きなんやって、だから、さりげなくくっつけたるとええんやって!」

 「これのどこが『さりげない』んだよ! これがさりげないなら、エッチでさえさりげないわ!」

 「エッチです。呼びましたか?」

 「「うわあぁぁっ!?」」

 とつぜん、音もなくエッチが現れる。俺もモエカも飛び上がってしまった。

 「モエカさん。私も、彼も、実は互いに接吻奉仕キスサービスをし合っている仲なのですよ。私たちは愛し合っているのです……♡ しかし、その愛は狭いものではありません。望む方には分け与えられます。彼は、きっと無償の愛を貴方にも注いでくださるでしょう。そう、私にそうしてくれているように、です♡ ……ふふふ♡」

 「エッチさん、ほんまかいな!?」

 エッチ、余計なことを……。

 ウソは言っていないけど、それじゃ俺がだれかれ構わずキスする不埒な野郎みたいじゃないか。

 「エッチです。ええ、本当です。さぁ、私のことは気にせず、彼と貴方で、互いに愛をはぐくんでくださいね」

 「え、エッチさんもこう言うとるし! な、ウチにもキスしてくれるんやろ? なぁっ、ししょぉ~~っ……♡」

 「くっ……分かったよ。お前がそうしたいなら……!」

 ぐっ! とモエカの腰を抱き寄せる。

 「やぁ~っ♡」

 嫌がっているとは思えない嬌声を発しつつ、モエカは目を閉じた。キス準備は万端のようだ。グロスか何かを塗ってぷるぷるしたくちびるに、俺は遠慮なく接吻奉仕キスサービスを行う。

 「ンっ、ふぁっ……ニュちゅっ、くちゅちゅ、んっ、はぁっ……あぁン、ししょぉ~、ウチ、うれしい……♡ プチュっ、んんんム、ぴちゅぴちゅチュ♡」

 「ほわ~~~っ……」と、モエカの目が垂れる。キスされることが、それほどうれしいようだ……。

 「んむっ、ぅぷぶっ……! ゴメンな、お前だけ特別とはいかないけど……はぷっ、んんっ……!」

 「ンにゅっ、くちゅくちゅくちゅ♡ はぁっ……ええんや、ウチ、ししょぉにキスされてるだけでぇ……めっちゃしあわせ♡ はぁ~っ、ァ♡ ンむっ、ちゅくちゅくちゅくっ、ニュちゅぐ♡」

 「うおっ……!」

 モエカは、意外にも積極的に舌を絡めてくる。やわらかくて、ヌメヌメしていて、温かい……。好意が、愛情が、舌を介して伝わってくるようだ。胸が熱くなり、同時にほっとした気分にさせられる。どっちが奉仕されているのやら、分からない。

 「エッチです♡ ふふふっ、二人とも、大変ステキなキスですよ♡ 貴方がたは、今まさに至高の愛を学ばれているのです♡」

 ぱちぱちぱちぱちっ! とエッチは拍手する。そして、俺たちがくちびるを絡ませあう様を、スマートフォンで撮影していた。

 「んんんんっ!? え、エッチ、何をっ!」

 「エッチです。今後の接吻奉仕キスサービスをより改善させるため、参考として記録にのこしております」

 「ご、ご親切にどうも……!」

 よし、後で消させよう。

 「ンむっ、くちゅっ……にゅちゅにちゅにちゅにちゅ♡ ンっふぁ♡ ああぁぁっ、ししょっ、ししょぉ♡ もっとぉ、もっとチューしてぇな♡ ぁむっ、ンぅ~~~~~っ……やぁっ♡ ンちゅっ、ちゅっ♡」

 一度タガが外れると、止められないタイプらしい。モエカは、くちびると舌をぬめぬめと動かしてくる。

 「モエカ、もえかっ……!」

 ぎゅ~~っ、と、モエカをきつく抱きしめる。モエカの大ボリュームな胸が圧迫されて、俺の胸とキスするのが分かった。

 「やぁっ、ン……♡ ンふっ、にゅるるるるっ……んっ、にゅるっ、ぺちゅぺちゅっ、れろれろれろれろ♡ ししょぉ、もっとギューして欲しい……♡ ウチもぉ、いっぱいチューってするからぁ♡ んちゅっ、チュっチュ、ピチュぅっ……♡ ウチのおクチ、ぜんぶししょぉのモノになってもうたぁ……♡ 」

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