24:関西ムスメの公開調教

 モモさんも、それからエッチも、天に昇りそうな表情をし、自分のクチを押さえている。ようやく、キス地獄から逃れられたようだ。

 「ふぁ、あ、ぁぁ……しょうねぇんっ、すっごい良かったゾ♡」

 「んっ、ンぁ♡ あなた、アナタぁっ……また、おクチご奉仕、上達されましたね♡」

 「あ、ありがとう……?」

 接吻奉仕キスサービスでエネルギーを注ぎ込まれたショックからか、二人はぽ~っとした表情だ。もちろん、意識はある。二人とも、俺にピトっと胸を押し付けた。ラブラブオーラ(?)みたいなものを発しながら、俺の顔を見つめていた。むしろ、俺のほうが意識を失いそう。

 「さーて、少年とイチャイチャして男の子分を補給したことだし、腹ごしらえでもしますかねぇ~っと! ……あら? このスープ冷たいね。少年、ちゃんと沸騰させたの?」

 「させましたよ。キスばっかしてて放置するから、冷めちゃったんでしょうね」

 モモさんは目をぱちくりさせ、

 「あっ……あははは~~~っ! そっかぁ、ごめんっ、ごめんね少年?」

 「別にいいですけど……よかったら温めなおしましょうか?」

 「いや~~~~んっ、少年ヤサシイっ! ちゅ~~~~っ♡」

 「言ったそばからキスしてどうすんですか!?」

 

 俺とエッチは、少し後片付けをしてから、俺ん家に帰ろうとした。

 「ところで、エッチ……今回、俺の他者奉仕度はどんくらい溜まったんですか? けっこうがんばった気がしてるんですけど」

 「エッチです。本日と昨夜、モモさんにして差し上げた接吻奉仕キスサービスにより、貴方のハート・チャクラに陽性ポジティブエネルギーが、蓄積されております。が、それは貴方の他者奉仕度を0.1パーセント上昇させるのにも満たないものです」

 「んん~、そっか……まぁ、キス一回したくらいじゃその程度か」

 たしか、今の俺は11パーセント。そして、エッチのような四次密度フォースデンスィティー存在へと進歩するには、50パーを超えてるのが最低条件だという。俺は首をひねった。

 「人生の半分以上を、他人のために費やすって……なかなかできないですよね。俺にできるかなぁ?」

 「エッチです。単純に、時間にして半分を費やせばよいわけではありません。奉仕活動の中身も考慮されます。いずれにせよ今後も、貴方の前には、愛情を欲する者が現れることでしょう。その時、貴方にしかできない奉仕を……接吻奉仕キスサービスを、誠実に遂行されることを薦めます」

 「そうですね。でも『今後』っていうか、もう愛情に飢えてるやつ居ますよね、例のモエカとか……」

 彼女はもちろん、俺でなく他の誰かに惚れてるわけだけど。あの時、美術室にいた男子の誰かなのだろう。

 「あのモエカも、どうにかしなきゃですよね~」

 「エッチです。この間の貴方の援助によって、彼女はいくぶん自信をつけておられたようですが」

 「んー……大体良いと思うんだけど、俺以外のやつの前じゃ、恥ずかしくてああいう格好になれないって言うんじゃ、まだまだですよ。それに、化粧のことも……俺よくわかんないし。う~~~んっ……どこかにいないかなぁ、化粧に詳しい人?」

 うーんっ、と伸びをしながら居間を眺める。と、鏡を前にして何かごそごそやっているモモさんが目に入った。

 「エッチです。どうかしましたか、アナタ?」

 「……い、いた!?」

 モモさんは、筆のようなもので自分の目の下を塗っている。紛れもなく、それは化粧だった。

 「もっ、モモさんモモさん!」

 「きゃっ!? 何、どうしたの? あぁっ……いきなり声をかけられたから、線がはみ出ちゃったじゃない」

 「ごめんなさいっ! でも、ひとつお願いが……。化粧を、化粧を教えてくださいっ!」

 勢いよく言ってのけると、モモさんは目をぱちくりさせた。

 「……少年、ひょっとして女装にでも目覚めたの? じゃ、これからは女装少年って呼ぼうか」

 「違いますっ!」

 

 翌週の土曜日、学校が終わった後、俺とエッチは再びモモさん家を訪れた。

 「お、来たな~っ。いらっしゃい少年! エッチちゃん!」

 「どうも、こんにちは」 

 「エッチです。お邪魔いたします」

 「まぁまぁ、そう固くならないでっ! 固くするのは、例のあそこだけでいいからネっ☆」

 「……」

 俺は、下を向いて黙りこくった。

 「ごめんごめんっ、高校生にこんなネタはきつかったよね、アハハハハっ。あれ、え~と、それから――」

 モモさんは、背伸びして俺たちの後ろを不思議そうに眺めた。そこには、第三の訪問者がいる。

 「はっ、はじめまして! ウチ、モエカいいますっ! あ、あの、今日は、化粧を教えていただけると、師っ――俺くんから聞いてっ! よろしくお願いします!」

 「はぁ~、君がその、かわいくなりたいって言う子? ふぅ~ん……少年もやるわねぇ~

 モモさんは名探偵のようにあごに指を当てて、口元をにやにやゆがめた。

 「? な、なにがですか」

 「エッチちゃんなんていう、超かわいくて君にゾッコンな美少女を家に連れ込んだかと思えば……今度は、学校のかわいい子を手篭めにしちゃったっていうの? くぅ~~~っ、やるわねぇっ! さすが、気配りのできる少年ならでは! いかにも親切に弱そうな、儚げな子じゃないの!」

 何か、一人でごちゃごちゃとストーリーを作り出しているモモさん。冗談じゃない……っ!

 「ちょっと待ってくださいっ! 俺は別に、手篭めになんかしてませんよっ! むしろ親切心で――」

 チラッ、とモエカのほうを見ると、顔を真っ赤にして縮こまっていた。いかにもウブそうな彼女とはいえ、「手篭め」という言葉くらいは聞いたことがあったのだろう。

 「なるほど、親切心で近づいて、隙を見ていただいちゃおうと。こういうわけね! クゥ~~~っ! ワイルドだわ少年、そういう狡猾さ嫌いじゃないわよ!」

 「俺はモモさんの妄想力にビックリですよ!」

 「まぁ、冗談は下ネタだけにして――」

 「一番言っちゃいけない冗談ですよ、それっ!」

 俺がツッコミを入れると、モモさんはあはははっ! と笑った。

 「まぁとりあえず、三人とも上がって上がって。狭い部屋だけど、三本くらいは――じゃなくって、三人くらいは軽く入るからね」

 俺たちは、モモさん家にお邪魔する。

 居間で、四人ともがテーブルに並んで座った。俺は、モエカの事情をかいつまんで説明する。

 「――へぇ~っ、告白しようとしてるんだぁ。キャ~っ、超乙女ぇっ! なんだか、甘酸っぱいじゃない? この、このっ!」

 「え、ええと、ウチ……」

 「モエカ、この人の言動はあまり気にしないでいいから」

 「ちょっと、それどういう意味かな? 少年!?」

 フランクに会話を繰り広げる俺とモモさんをよそに、モエカはまだ縮こまっていた。

 ちなみに、以前俺が助言したように、彼女は髪を上げメガネもはずしている。学校帰りなので制服だが、例のカーディガンも着用していて、なかなか良い感じの見た目だ。それなのに……

 「――ずいぶん、自信がなさそうね? そんなに頭を下げちゃって、よそのお姉さん家だから緊張してるの? それとも……」

 「あの、モモさん。モエカは――」

 「あ、大丈夫や、師匠。……ウチ、自分でちゃんと言うから」

 俺は、「おっ?」と思った。

 モエカは、一度深呼吸して、

 「……そ、そうなんです。ウチ、告白したくって……でも、ぜんぜん自信ないんですっ!」

 「うん、それでお化粧とか教えて欲しいってワケね。いいよっ、別に。面白そうだからね」

 「お、おおきにぃっ……!」

 モエカは深々と頭を下げた。

 「ふ~ん、それにしても、誰に告白するの? もしかして……ベタな展開で、実は相談してる当の少年に告るつもり――ってんじゃぁないでしょうねっ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る