10:「ふぁぁぁぁぁ~~~っ❤ せんぱいのキス、すげぇよぉ……❤ 」

 接吻奉仕キスサービスは、異星人であるエッチから教わったものだ。

 そのコツは、「相手への愛情をこめてキスすること」。だから俺は、イクミの名前を呼び、さらには――

 「んぶ、んっ……ふぁ、イクミ、愛してる……! ぁむ、ぷちゅっ!」

 「愛してる」と言った瞬間、イクミのほほが真っ赤に染まった。

 熱があまりにすごくて、こっちまで伝わってくるくらいだ。

 「んぁっ、アっ……♡ にゅるっ……ン、ふぁっ、ニュルりゅっ……♡ ふぁ、ぁ

……せんぱい、あ、あ、あたしも……すき♡ んにゅ、ちゅっチュッ……はぁっ、んクチュ~~~~~~っ……❤」

 イクミは、ぽ~っとのぼせたような目で、俺をじっと見つめてきた。そこに、あのクソ生意気な後輩の面影はない。心の融けきった、ひとりのかわいい女の子がいるだけだ。

 「イクミ、イクミっ……! んぷっ、ぁむっ……!」

 イクミの肩のあたりをぎゅ~っと抱きしめる。と、彼女は同じ要領で、俺の胸のあたりに腕を回してくる。

 「ンぁっ、せんぱいっ、せんぱいぃっ……♡ スキっ、すきぃっ♡ ん、ニュル~ッ、ふぁ、はぁっ……ニュむっ、ぺちゅぺちゅっ、ぺちゃぺちゃペチュ……っン♡ ふぁぁぁぁぁ~~~っ❤ せんぱいのキス、すげぇよぉ……♡ あ、ああァっ、あ❤」

 イクミの体がぴくぴく震えた。接吻奉仕キスサービスによるエネルギー流入に、どうやら耐えがたくなっているらしい。

 「ふぁっ、あっ、んン~~~~~っ……❤ んっ、ふぁぁァ♡ にちゅにちゅヌチュちゅ♡ やだぁ、せんぱいすげぇ、すげえよっ……♡ ちゅぴちゅぱっ、チュパぱっ、はぁ~~っ、ンんんっ……あ、やぁ~~~~~~ッ❤」

 くにくにっ、と、口のみならず、体も擦り付けてくるイクミ。まるで、全身でキスしているようだ。

 「れるれるっ、ぴちゅぴちゅ……んっ、チュっ、ちゅぅぅ~~っ、れろれろれろっ……♡ あ~~~~~っ……❤ しぇんぱいっ、しぇんぱぁい♡ ンぷちゅぅぅぅぅぅっ……ンあぁっ、しゅきっ、しゅきぃっ♡ ンはぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っ、ア♡ しぇんぱっ、しぇんぱぁ~~~~~~~~いっ❤」

 びくびく、びくぅ!

 と、イクミの体が、俺の腕の中で激しく跳ねた。

 「お、おい、大丈夫か?」

 「はぁっ、ふぁっ……アっ……あ~~~~~~っ……♡ なんかさぁ、せんぱいにチューされてぇ……んんっ、はぁっ……すんげー、声出ちゃった……♡ なんだろぉ♡ なぁなぁっ……せんぱいのせいでさぁ、あたしキス中毒みたいになっちゃってるかも♡」

 「そ、そうか……まぁ、できる限りはしてやるよ。これからも」

 「ホントだな? 約束なっ!? もししなかったらぁ、ぶっコロすからな♡」

 イクミは、俺にしがみついて足をバタバタさせる。子どもか!

 「お、おう……しょうがねえな。めんどくさいけどいいぞ」

 「ぜったいだぞ? バーカ♡」

 イクミは軽くジャンプした。そして、俺のほっぺたに、むちゅっとくちびるをくっつける。まったく、素直じゃないやつ……!

 

 そのあとも、イクミはさかんに俺の腕にしがみついた。まるで恋人のように駅まで一緒に歩いていく。

 遅い時間で人目がないのが、唯一の救い。ほかに人がいたら、大変だ。ただでさえ、エッチのことで俺が色ボケ扱いされはじめているっていうのに……。

 「じゃーなー、先輩。また明日!」

 「あぁ、気をつけろよ。電車だし……痴漢とかな」

 「痴漢は先輩だろー? あたしの体、べたべた触りまくって、思いっきりキスしてたくせにー!」

 ひそひそ……と、話す駅利用客の目線が、俺たちに突き刺さる。やめてくれ!

 「俺は別にっ、べたべた触ってなんか……!」

 「明日も、またチューしろよ♡ 絶対だかんなっ!」

 俺の頬にチュッとキスして、イクミはやってきた電車の中に入った。窓越しに見えなくなるまで、ぶんぶんとバカみたに手を振り続けている。

 「まったく、素直なんだか意地っ張りなんだか……」

 「私はエッチです。無限創造主アンリミテッドクリエイターの愛のもとに、貴方にご挨拶申し上げます」

 「うおわっ!? ……なんだ、エッチか。ビックリしたぁ」

 「エッチです。本日もイクミさんへの接吻奉仕キスサービスに成功したようですね。この多大な奉仕活動により、貴方のハート・チャクラは活性化しているようですよ」

 エッチは、俺の胸のあたりを触った。

 「そうですか? 自分じゃよく見えないから、実感はわかないけど……」

 「エッチです。貴方の全チャクラを、バランスよく発展させてください。そこへ『他者奉仕』という陽性ポジティブなエネルギーを注ぎ込むことで、貴方たち人類は偉大な精神的進歩を遂げることでしょう。三次密度サードデンスィティー存在から、四次密度フォースデンスィティー存在への飛躍の時です。貴方はいま、まさにその道を進んでいらっしゃるのですよ」

 エッチは、修道女風に両手を重ね合わせ、祈った。

 「まぁ、自分じゃぁよくわからないけど……。他人を助けて、エッチなみに優しくなれるっていうなら、願ったりかなったりですね。でも、あとどのくらい接吻奉仕キスサービスしたら、俺はそんな風になれるんですか?」

 「エッチです。それは貴方の行動次第です。が……貴方の他者奉仕度は、現在11パーセントですね。四次密度フォースデンスィティーに進むには、50パーセントを超える他者奉仕が必要になります」

 「げっ。じゃあ、まだまだなんですね……」

 「エッチです。今後も接吻奉仕キスサービスを行うことを薦めます。他者の苦痛を癒し、愛を伝えて差し上げるのです。そうすれば……おそらく、貴方が一生を終えるころには、その域に到達できるのではないでしょうか」

 「うええっ、けっこうかかるんだな……。じゃ、もっと毎日、誰かを助けたり、それに……き、キスしまくらないと、ですね……!」

 「エッチです。貴方を応援しています。ですから……フフ♡」

 エッチは、露骨な秋波を俺に送った。

 「私のおクチにぃ、好きなだけキスして……あぁっ……! もうメチャメチャにぃっ、キスの練習台として使い倒してくださいっ……♡ 貴方にキスされるのは、私の最高の喜びなのですから♡ うふっ、ウフフフフ……♡」

 エッチは、俺の腰に腕を回した。その豊かなバストも、惜しみなく俺に押し付けられる。

 「うああああっ!? ちょっ、それはっ……!」

 「エッチです。ねぇアナタぁ、私たちのくちびるぅ……はぁぁっ……一つに、しちゃいましょう♡ きっと、良い練習になりますよ♡ ンっ……ん~~~~~~~っ♡」

 「そっそれだけは! 電車の中でキスだけは、もういやだあああああああっ!!」

 

 その日の夜――俺は、モエカさんに連絡を送った。

 『今日の件だけど、あれから大丈夫だったか? 家帰ったら落ち着いたか? まさか家に帰ってないってことはないよな(←冗談)。もし、話せそうなら俺に話してみてください。話くらいは聞けるし。誰かに漏らしたりはしないから安心してくれ』

 と、メッセージを送信。

 「よしっ! これでオッケー! やっぱり、人助けの基本は声掛けからだよな~っ」

 「エッチです」

 急に、エッチが俺の真後ろに現れた。

 「うわっ!? びっくりした……」

 「失礼しました、着替えをしておりましたので」

 エッチはセーラー服ではなく、デフォルト衣装らしいピンク色のシスター服に着替えていた。相変わらず、目のやり場に困る衣装で、俺は微妙に目線を外す。

 「い、今、あのモエカって子に連絡送ってたんです」

 「エッチです。貴方は非常に積極的でいらっしゃいますね」

 「まあ、このくらいは大した手間でもないですし。じゃ、そろそろ風呂入ってきますね」

 「いってらっしゃい、アナタ」

 俺は脱衣所に行った。

 服を脱ぎ、風呂場で体を洗い始める。いいことをした後は気分が良い。つい、鼻歌など歌ってしまう。

 「ふふふ~んっ♪ っと」

 その時、扉の向こうに人影が横切った。

 「エッチです。とてもご機嫌ですね」

 「あれ? 聞かれてたのか、恥ずかしいなぁ」

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