03:ハミガキで感じちゃう宇宙人

 ごしごし、しゅこしゅこ。

 「んっ、ン……ふぁ……♡」

 ぐじゅぐじゅ、くちゅくちゅっ。

 「……ぁはっ、ァ♡ やんっ、ン……♡」

 歯ブラシが往復するごとに、エッチは目を細めて甘い声を出した。

 「……っ! ちょ、ちょっと!? なんで、そんなに色っぽい声出してるんですか?! やりにくいんですけど……」

 ちゅぽっ、と歯ブラシを引き抜く。するとエッチは体を、とくに舌先をプルプル震わせた。

 「ふぁ、ァっ……♡ は、歯ブラシが舌に、舌に当たってぇっ……! あぁっ、ぁンっ……♡」

 「?! ご、ごめんなさいっ」

 「え、エッチです。こちらこそ、申し訳ありません。やはり、この物理的肉体は、私には少々感覚が鋭すぎるようです……。歯ブラシが、歯茎にすこし当たっただけで……ゾクゾクって……してしまってェっ……♡ お手間を取らせて、本当に申し訳ありません」

 「は、はぁ……そうですか。じゃ、じゃあゆっくりめでいきますから」

 「エッチです。アナタは、本当にお優しい方ですね♡ 惚れ直してしまいますっ」

 ニコニコと、子どものように微笑むエッチ。そんなきれいな笑顔を見ていられず、俺は照れ隠しに頭をかいた。

 歯ブラシをもう一度口内に挿入する。

 ごしゅごしゅ、しゅこしゅこ。

 「あっ、ぁァ~~~~っ……♡ や、ぁっ……♡」

 エッチは、両手を自分のあごに当てた。ハミガキの強い(?)刺激に耐えているらしい。

 「ま、まだ4分の1くらいしかやってないんで、もうちょっとガマンしてください!」

 「は、はいぃっ……♡」

 なるべく歯にだけブラシを当て、エッチが気持ち悪くないようにする。けれど、スキマを掃除するときは、どうしたって歯ぐきにブラシが当たってしまう。

 ――チュクくっ。

 「んあぁ、ァ……ん♡」

 エッチは、身をよじった。

 「うぅ、ご、ごめんなさいっ。でも、ちゃんと磨かないと虫歯になっちゃうし……ごめん! ごめんエッチ!」

 ――にゅぐ、クチュクチュクチュ、こしゅこしゅこしゅしゅこっ。

 「ひゃっ、ぁ……ふぅっ……クゥ~っ……♡ ふぁいぃ、あやま、らないでくらさっ――ンあ、あぁぁァっ♡」

 びくんっ! とエッチの体がはねて、歯ブラシがすぽっと抜けてしまった。

 「えっち……れすぅっ……♡ はぁ、はぁっ、申し訳ありません、アナタぁ……ン、はぁっ、ぅ……ぁ♡」

 「い、いえ……こここここっちこそ!」

 な、なんだこの会話……? ちょっと妖しい雰囲気になってるような。だ、だめだ、空気を換えないと。

 「い、いやぁ、エッチってほんとに敏感なんだですね。はははっ……そうだ、壁に後頭部くっつけてやりましょうか。そしたら、頭ぐらつかないし」

 「エッチです。貴方のっ……はぁっ……ご判断に、したがいますぅ……っ!」

 エッチは壁を背にしてしゃがんだ。背中と頭を、ぴったり壁にくっつけている。

 「はぁ……ハァっ……ぁっ♡」

 「エッチ、いっ息荒いけど、大丈夫?!」

 「エッチです。ええ、すぐ収まりますから……」

 「じゃ、じゃあ……また口の中に入れますね」

 俺は歯ブラシを振った。

 「エッチです。はい、どうぞ入れてください♡ 優しくしてくださいね、アナタ……♡」

 紅潮した顔をかたむけて、エッチは笑った。でも、すこしやせ我慢しているらしく、ちょっとつらそうな笑顔だ。

 「……え、エッチが、気持ち悪くならないようにしますからっ」

 「エッチです。ありがとうございます。貴方の愛を感じます♡ あ~~~っ……♡」

 くぱぁっ、と開いたエッチの口の中に、また歯ブラシをいれる。 

 くしゅっ……こしゅこしゅ、ごしゅごしゅ。

 エッチは、きゅっと目をつぶった。こぶしも、固く握っている。

 「ン、やっ……ふあァっ……♡」

 「うっ!? が、ガマンして下さいねっ」

 「は、はいぃっ……んっ、んンっ……♡」

 必死になって耐えているエッチ。艶っぽい声も、紅潮した顔も、やたらに可愛く見えてしまう……。

 って、何考えてるんだ、俺は!

 エッチをいじめて悦に浸るようなマネをするなんて……。

 「エッチです。アナタ、手が止まっていますが、どうかしたのですか?」

 「ななななななんでもないですっ。あ、もう下の歯終わったから、上の歯いきますね。ちょっと、頭上げてください」

 「エッチです。こ、こうですか?」

 ぐぐっと、エッチが頭を上げた。白い首筋がむき出しになり、鎖骨もちょこっとだけ覗いている。

 ごくんっ、と俺ののどが鳴った。

 「フフっ……アナタ、いったいどこを見ていらっしゃるんですか?」

 「みっ見てない! 口の中じゃなくて首もとに目がいっちゃったなんて、そんなことは絶対ないですっ!」

 「エッチです。見たいのでしたら、好きなだけ見てくださっても構いませんのに……♡ 大好きなアナタになら、私、どんなところを見られても平気ですよ? あぁ、想像しただけで……ハァぁっ……たまりません♡」

 「だ、だから、そんなことないんですってば!」

 ぐじゅっ! と、歯ブラシがエッチの上の歯に突っ込まれた。

 「あっ――」

 「んあっ、ああァァァ~~~~ッ……❤ ふぁ、ぁはっ、ァ

……♡ アナタ、すごぉいっ、しっ刺激がぁっ……つ、強すぎてェ♡ らめ、らめですよぅ、そんなに強くしたらぁ……ぁ、あっ❤」

 「う、ほっぺたの内側に当たっちゃったのか……ご、ごめんっ!」

 「ハァっ、はぁ……ふぁ、ぁ~っ……♡」

 エッチは、激しく上下する胸を必死に押さえていた。

 「すぐ、すぐ終わらせるから……!」

 しゅこしゅこ、にゅるにゅる。しゅこしゅこ。ぐちゅぐちゅ、ぐちゅっ。

 「やぁぁぁ~~~~っ……♡ んぁ、ぁうンっ……♡」

 スキマ部分に、歯ブラシを伸ばす。やっぱり、歯ぐきの肉のところに、ブラシがどうしても当たってしまう。

 「んっ、ァ……♡」

 エッチは、かすかに首をイヤイヤした。

 「ゆ、ゆっくりやるから、ゆっくり!」

 「はいぃ……っ♡」

 かしゅっ。かしゅっ。ずちゅ、ずちゅ、ずちゅ、ずちゅっ。

 「んぁぁァ~~っ! らめぇ、アナタ、アナタぁっ……❤」

 エッチは、吠えるように大口をあけた。びくびくっと体がえびぞりになり、胸のハートのアップリケがはちきれそうになっている。

 「もうちょっと、もうちょっとだから……!」

 ――にちゅにちゅ、にちゅっ。ぐしゅ、ぐしゅ、ぐしゅぅっ。

 「やぁンっ……はぁぁぁァっ……♡ ふぁ、ぁぁ、あぁぁぁァ~~~っ……❤ すごいですぅっ、しげきがぁ、強すぎ……てェッ♡ んぁ、ンくぅっ……♡」

 エッチの口には、唾液がすっかり溜まっていた。飲み込むことができないらしく、下くちびるをうるおしながら、タラタラ垂れていく。手のひらもすっかり力を失って、こぶしが解けていた。

 「え、エッチ……あ、あと一列だけだから! これで、ガマンして……!」

 「!? ふぁ、あ、アナタ……っ!?」 

 俺は、エッチの片手を握りしめた。ピンク色の瞳をじっと見つめて、

 「大丈夫、大丈夫ですから……!」

 「えっち、れすぅ……あぁ、嬉しいっ……♡ 貴方って、ほんとうに優しい方なのですね♡」

 「う……」

 エッチの大人っぽい微笑みに、俺は目を泳がせる。

 「エッチです。貴方にだったら、どこを触れられても耐えられますよ♡ こんなに、優しくしていただけるんですからっ……んふふっ♡」

 「え、エッチ……!」

 うるうるっ、とエッチの目の端にかすかな涙がたまっていた。

 「ですから、私のおクチ、貴方にキレイにして欲しいです……きゃ♡ ねぇ、お願い……♡」

 くぱぁっ……と、エッチは口を開く。くちびるや歯に、唾液がねっとり糸を引いていた。

 「い、いきます……!」

 「はいっ。早くぅ、思いっきりゴシゴシってしてくださぁいっ……♡ ア・ナ・タ♡」

 ……何か、楽しんでるような節があるのが気になるけど。まぁいいか。

 ――ごしごし、くしゅくしゅ、ごしごし、くしゅくしゅ。

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