無意識に意識する
「あーあ、帰っちゃった〜」
ぶーっとした顔で日誌を書く白河。
「こんな所に連れ込んで何やってんだよ」
この前借りた小説に目を向けながら尋ねる。
「もう〜、玲ってば怖〜い♡笑顔笑顔!」
こういう態度にいちいちイライラしていたらきりがないのはわかっているが…。
「それは〜、オレと詩春ちゃん…。
二人だけのひ・み・つ…☆」
一発くらい殴らせてもらってもいいか?
「暴力は駄目だよ〜?それに数多の格闘技を会得してる藤永に殴られたら流石のオレもお手上げ」
そう言って両手を挙げておちゃらける白河。
なんというか…。
「お前に構ってると疲れるよ」
「お薬出しておきましょうか?はい♡」
そうして差し出されたのは一冊の本。
「……何だよ、これ」
表紙には『誰でも簡単!バレーボール入門』と大きく書かれていた。
「ほら、来月球技大会があるじゃない?
だからそれの為の練習の本〜」
そう言ってニコニコしてる白河。コイツはこう見えて頭脳も運動神経も優れている為、中学時代は男子バレーボール部の秘密兵器を担っていた。何故秘密なのかは練習に来るペースが気まぐれでなかなか練習している姿を見せなかったから…らしい。
そんな白河が何でわざわざ初心者用の本なんか借りてるんだ?
「白河なら本なんて借りなくても…」
「それ、詩春ちゃんの忘れ物」
「……っ?!」
思い切り立ち上がった衝撃でガタンッと椅子がひっくり返る。
「藤永はさ〜、不器用だよね」
「は?」
「それで意外と鈍感」
「何言ってんだよ?」
そこまで言うと、
「書き終わった〜」
と先程までにらめっこしていた日誌を片手に持ってカウンターのドアノブに手をかけていた。
「詩春ちゃんのこと気になる癖に…」
ドアに向かったまま何かを言ったような気がしたが肝心の内容が聞こえない。
「何て言ったんだよ?」
「え〜、だから…」
そう言うとくるりと振り返ってウインクをした。
「盗み見と盗み聞きはしちゃ駄目ですよ?って言ったの〜」
「なっ、何で知って…!!」
「気配はちゃんと消しましょう♡」
いたたまれなくなった俺はそのまま机に突っ伏した。
「ということですぐ戻ってくるから少し待っててね〜」
その声とともに白河は図書館を出ていった。
「本当に…侮れねぇ…」
俺の声は誰もいない図書館に消えていった。
———————————————……
場所は変わってグラウンド。
「今日は久しぶりに体を動かしたから疲れたなぁ…」
鞄を片手に持ち空いている手で肩を揉む。
なんだか今日一日で疲労がどーんと蓄積された気分だ。でも同時に二人のコーチのおかげで一歩前進した気持ちでもある。
「……あ!藤永さんに謝るの忘れてた!」
そう言って思い出すのはあの真剣な顔。
「……っ」
あの時、藤永さんに掴まれた肩が熱い。
ほんの一瞬だったのに、まだあの感触が忘れられない。
「練習のし過ぎかなぁ…?」
この想いがどんな意味を持つのかということに気がつくのはまだまだ先になりそうです。
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