円森荘4号室『戦隊チームリーダーと、悪の姫』

Aパート


 ――ふと、空を眺めていると、鳥が飛んでいくのが見えた。三羽の鳩が青空の下、悠々と、自由気ままに飛んでいる。


「平和だなぁ」


 鳩は平和の象徴だという。度々人の住む家屋やら道路やらにフンを落とし、人の落とした食物を寄ってたかってついばみ、群れて何やらうるさく泣き続けても、それでも鳩は人に近しい存在として愛されている。


 ――そして、そんな鳩が通った空を、鳩よりも凄いスピードで、何かが通り抜ける。

 更にしばらくして、その何かを追うように、二機の航空機が若干遅れて飛んでいく。ただの航空機じゃない。防衛チーム『H.O.P.E.』が擁する最新鋭の戦闘機、ネオビートルとネオファイターだ。

 かつての怪獣や侵略者との戦いの経験から、地球防衛組織『E.G.O.』は、更なる技術発展を行ってきた。それに伴い、E.G.O.の下部組織であるH.O.P.E.が有する戦闘機、ビートルとファイターを強化改造したのが、あのネオと名のついた二機の戦闘機だ。なんでも、今後開発される予定の最新鋭機、それに搭載されるものを実験的に取り入れてるんだと。

「……教えてもらってなんだけど、漏らして大丈夫だったのかな……」

 心の中で、僕にその情報を漏らしてしまった、H.O.P.E.隊員であり、僕の親戚のお兄さんにあたる人を心配しながらも、僕は青空を見続ける。


 H.O.P.E.の戦闘機が飛んで行ってから程なくして、遠くから警報が聞こえ、更に数分も経つと、けたたましい警報の音よりもさらに喧しい爆発音が何度も聞こえてきた。

 きっと、飛んで行った何かと、H.O.P.E.の戦闘が始まったに違いない。


「ワーッハッハッハ! ゆけ! 械魔サイクロンプス! 全てお前の風の力で吹き飛ばしてしまえ!」


 ……と、そんな風に想像を膨らませていると、二つ隣の家辺りから女性の声が聞こえてくる。

 若々しい声から察するに、年齢的には元郷さんちの一子ちゃんと同じぐらいだろう。つまり、ナウでヤングなJKだ。多分。

 だから、何かある度にはしゃぐ事もあるのだろう。高校時代の僕の周りにも、イベントがある度にぎゃあぎゃあとはしゃぐ同級生の女の子、たくさんいたしね。

 ……あ、いや。男も大概だったな。


 と、そんなどうでもいい思い出話はいいんだ。とりあえず、今、僕にはやるべき事がある。


 そう思い直すと、僕は狭いベランダから部屋に戻り、そして再び外に――ただし今度は玄関から――出ていく。それから、階段のある方とは逆方向にまっすぐ歩き、元郷さんの部屋の前を通り過ぎ、その隣の部屋の前に立った。


 すぅ、と息を吸い、はぁ、と息を吐く。緊張はないけど、事あるごとに何となくやってしまう癖だ。自分自身を「改める」為の癖、いや、儀式と言ってもいい。

 その儀式をやり終えると、僕はその部屋――4号室のインターホンを押す。

「は、はいッ!?」

「すいません、2号室の明星です。あのー、前々から言おうと思ってたんですけど……」

 再び、息を吸い、吐く。それから僕は意を決し、しばらく前から言わなければならないと思っていた事を、ようやく口にする。

 刮目せよ、僕の覚悟――!


「近所迷惑になるんで、もうちょっと声抑えてもらっていいですかね?」

「えッ、あッ、す、すいま、せん……」


 やたら動揺した声で、4号室の住人の女の子は謝ってくれた。


 4号室の表札には、『赤市』と書かれており、その下に『械魔界王女アクマリア』と大きく書いてある紙が、回路のような模様付きで張り付けてある。凄そうな名前だけど、存外に素直な子らしい。





******





『こちらネオビートルのマキベ! 対象は都市部に降下! そのまま暴れています!』

「こちらハヤマ! こっちも目視で確認したぜ! キャップ、攻撃指示を!」

 白と青を基調としたH.O.P.E.制式隊員服に身を包んだ青年、早間ハヤマ真吾シンゴは、焦る気持ちを隠すことなく、装着したヘルメットに内蔵された通信機で、H.O.P.E.のチームリーダー、即ちキャップに連絡を入れる。

 地上で避難誘導を行っていた彼の前を、緑がかった巨体が、のそり、のそりと通り過ぎていく。時折聞こえる瓦礫の崩れる音は、あの巨人が我が物顔で歩いた事で崩れたビルのものだろう。

『こちらコトヤマ。周辺の警察からの情報によれば、まだ避難が完了していないようだ。迂闊に攻撃して、周囲に被害を広げるのはマズい。それより、そちらの避難誘導は?』

「とっくに完了してますよ! でなきゃ攻撃しようなんて言いません!」

『そうか。では、ハヤマ隊員は対象の巨大生物の動向に注意しつつ、警察の避難誘導を援護せよ。C-4地区はまだ避難完了していない』

「……ッくしょォ! 了解!」

 悔しさを滲ませながらも、真吾は了承の返答を飛ばし、眼前の巨体を憎々しげに睨む。

 H.O.P.E.からE.G.O.の教導官としてスカウトされた前リーダー、守川モリカワ昭二ショウジに変わり着任した新リーダーのコトヤマ――琴山コトヤマ善治郎ゼンジロウは、良くも悪くも沈着冷静な男である。

 守川が熱血気質ある頼れるリーダーだったのに対し、こちらはどんな時でもプロとして、極めて冷静に物事を判断する。そういった意味では、モリカワと同じ熱血漢であり、ブライトマンの活動期以前からH.O.P.E.に所属する真吾からすれば、やりづらい事この上ない。もっとも、守川が依然隊長だったとしても、今はまだ攻撃させないだろうが。

 焦る気持ちが募る真吾は、何時ぞやにも味わった無力感を胸に、H.O.P.E.の地上用高機動ビークル、ネオアーレスに向かって走り出す。


 全身を覆う緑の肌。筋肉が異様に発達した上半身。背中や肩から伸びる奇怪なチューブ。そして一際異彩を放つ、空洞にファンの付いた扇風機めいた頭部は、ギリシャ神話に登場する一つ目巨人、サイクロプスを想起させる。

 それもそのはず。H.O.P.E.の面々が知る由も無いが、体長約50mを誇るこの巨人は、機械と魔の存在により征服された異世界、械魔界に存在した巨人サイクロプスを扇風機と融合させた械魔、サイクロンプスである。械魔とは、簡単に言えば機械と魔物の合成生物キメラであり、その戦闘能力は計り知れない。

 この類の怪物はここ数ヵ月で断続的に出現しており、加えて民間の目撃証言によれば体長2m前後の怪物が、周りに妙な戦闘員めいた怪人を引き連れて暴れているのも目撃されている。


 謎の怪物集団の正体を探るべく、防衛チームH.O.P.E.は調査を続けているが、未だに解明できない事の方が多い。

 現在判明しているのは、三つ。一つは、この集団がある一定の期間で、民間人の多い場所を狙って襲撃を繰り返している事。どうやら襲撃の度になんらかの目的をもってやってきているらしく、ある時は都市部で大暴れし、ある時は工場を占拠した事もあった。

 二つ目は、彼らはそもそも地球上の存在ではないという事。地球における神話や伝記に語られる怪物と似た姿をしてはいるが、その多くが生物と機械を融合させたもので、ほぼ生体機械と言っても過言ではないレベルで結合しているのだ。恐らく、地球上のどの国も、ここまでのサイボーグ化技術は持ち合わせていないだろうし、持っていたとしても――余程マッドでない限りは――倫理面の問題からやろうとはするまい。


 そして、肝心の三つ目。それは――


『……! キャップ! 来ましたよ! 例のマシン群です! 北東方向!』

『ネオファイターのキダよりキャップへ! こちらからも確認せり! やはり、五機編成の模様!』


 ――謎の怪物集団に立ち向かう、謎の五人組の戦士達と、彼らが操っていると思われる五機のマシン。赤い戦闘機に、戦車にも似たマシンが緑と黄色の二台、そして青の船に桃色の潜水艦。最後の二つはなんと地上を走っているのだが、どうも水陸両用らしい。

 こちらもこちらで、兵器関連に関して言えば最先端を誇るH.O.P.E.のメカニックを上回るオーバーテクノロジーで出来た、トンデモな大型メカを五機も運用しているのだから、見方によってはH.O.P.E.の立つ瀬がないと言ってもいい。しかも――

『見ろ、合体するぞ! ……しかし、いつ見ても不思議な構造だなぁ。どれだけの予算と時間があればあんなマシンが……』

『そんな事言ってる場合か。ほれ、さっさと記録映像を撮るんだよ』

『ハイハイよっと』

 ――これらのマシンが、頭部となり、腕となり、そして足となり、合体する事で一体の巨大ロボになるというのだからますますとんでもない。合体したロボは、全体的に白を基調としており、頭部に赤、右腕に青、左腕に桃、右足に緑、左足に黄色と、合体したマシンの色がよくわかるようになっている。

 全体的に角ばっているこのロボは、同時に全体的に太く、重厚感溢れる見た目だが、これまで確認された戦闘ではいずれも素早く動けており、見た目以上に軽い素材で出来ているのか、もしくは推進力が凄いのか、いずれにしても恐ろしいロボである。

 一応、複数のパーツが合体してロボットになるというケースは、以前の怪獣頻出期にて既にあった事ではあるが、その時出現したものよりもより人に近い形状をしている。というか、まず顔からにして人っぽいのだ。鼻に唇がある辺りだとか。


 白昼の都市部に出現した、白亜の巨人、否、巨神は、緑の一つ目巨人と向き合う。

 ある意味神話めいた対峙。先手を打ったのは、サイクロンプスだ。サイクロンプスは頭部のファンを回転させ、強烈な竜巻を発生させる。竜巻の範囲に近いビル群の窓ガラスが割れるだけでなく、ビルのコンクリートそのものが急激に劣化、破片となってまき散らされる。

『おぉッ!? な、なんつぅ風だ! 直撃してねぇのに機体のコントロールが!』

『落ち着け! 被害は!?』

『モーマンタイ!』

 その竜巻の余波で、少し離れて観測に徹していたネオビートルが大きく揺さぶられる。己の身体を浮かせ、ビートル、ファイター両機を大きく引き離し飛行する程の風の力で、余波ですらこの威力なのだ。直撃を受ければどうなるか。

 案の定、ロボの足下がおぼつかなくなり、今にも倒れそうになってしまっているではないか。

 しかも、風の中に何か混じっているのか、ロボのボディから火花が散り、真っ白な装甲表面に傷ができる。

『野郎! こいつぁただの風じゃないぞ!』

『そう思われると思って、解析しときましたよ! どうやら、あのファン、表面に鱗粉みたいなのがはっついてるみたいでして、しかもかなりの硬度、切れ味を誇るものと思われます!』

『流石マキベ先生ってば仕事が早い! まぁ威力に関しちゃ、「見りゃ分かるだろ」としか言いようがないが、それでどうする先生? あのロボが人類の味方をしてるらしいってのは、これまでの記録からにしてほぼ確定みたいなもんだが』

 ネオファイターに搭乗する木田キダ隊員が、ネオビートルに乗る牧辺マキベ隊員に問いかける。牧辺はH.O.P.E.きっての秀才であり、二年前の怪獣頻出期でも解析班として様々な活躍を見せた。少々うっかりしがちなところもあるが、基本的には頼れる男だ。

『まずあのファンをどうにかしないと……って、そんな事言わなくてもわかりますよね?』

『何となく結果は見えてるようなもんだが、どれ、ちょっくらロボに恩を売るか!』

 そして、その解析結果からもたらされた対処方法を真っ先に、かつ、的確にこなすのが、H.O.P.E.のエースパイロットにして牧辺の相棒的存在である木田の腕だ。

 木田は操縦桿を握りしめ、ネオファイターをサイクロンプスの斜め前へと飛ばす。

 サイクロンプスは相変わらずロボに集中して攻撃しており、ネオビートルやネオファイターを、飛び回る羽虫か何かのようにしか思っていないのか、明らかに視界に入っているのにも関わらず無視している。

 だが、今はその方が好都合だ。心おきなく、攻撃できる。

『挨拶する時はまず、正面からコンニチワ、だ!』

 木田は、ネオファイターの両翼に備えられたミサイルの時限信管をセットし、発射する。狙いは、サイクロンプスのファン。どこでもいい。まずは直撃させる事が大事だ。

 だが――

「そりゃ、正面から撃ったら風で吹き飛ばされるに決まってんじゃねぇかよぉ~!」

 地上を走るネオアーレスから叫ぶ真吾の言う通り、ミサイルの推進力がファンの起こす風圧に負け、ロボの方へと押し流されそうになる――

『バーロゥ! それが分からねぇ俺じゃねぇって知ってんだろハヤマぁ! これも作戦の内だ!』

 ――が、その前にミサイルが爆発、粉々になる。時限信管の起爆タイミングを上手く調節していたのだ。


 が、しかしである。


『……ミサイルの破片がロボに飛んでってるような……』

『ちょっとやそっとじゃダメージないんだ。これぐらい平気だろ』

 楽天家な木田の発言に、H.O.P.E.隊員一同が呆れる。とは言え、過去に一度、敵性存在と見なし攻撃を仕掛けた際、H.O.P.E.側の攻撃が全く通用してなかったのを見る限り、ミサイルの破片程度なんともないのだろう。正直誤解を招きかねないが。

 心配そうに、というか呆れ半分で事の成り行きを見守っている真吾に、木田からの通信が入る。

『時にハヤマよぅ。前のバリアザウルスの時の事覚えてるか? ブライトマンの攻撃をことごとく正面から防ぎやがったあのヤローを』


 バリアザウルス。二年前の怪獣頻出期にて出現した地球の怪獣であり、ブライトマンが苦戦を強いられた数少ない強敵である。

 太古の昔から生きていた肉食恐竜が宇宙線を浴びて突然変異を起こしたこの怪獣は、一種の念動力のようなもので自在にバリアを操る事が出来る。当時、光エネルギーによる攻撃を主としていたブライトマンの攻撃のことごとくを防ぎ、一度はブライトマンを退ける事に成功した、恐るべき怪獣だ。

 、物理攻撃だろうとエネルギー攻撃だろうとなんでも防いでしまう怪獣を、かつてのブライトマンは、そしてH.O.P.E.はどう攻略したか――


「……なるほどな! わかったぜ!」

 木田の言う事を理解した真吾は、やや開けた通りに飛び出すと、サイクロンプスに向き合う。

 巨大なサイクロンプスからは、小さなアーレスに乗る真吾の事など見えてはいない。しかし、先も述べたように、これでいいのだ。

 真吾がネオアーレス内部のボタンを押すと、天井部分からスコープが降り、アーレスの屋根に載せられたカノン砲――ネオヴァスターカノンが持ち上がる。

「喰らえ!」

 ハンドル裏に備えられたトリガーを真吾が引く。瞬間、やや軽い爆音と共に、ネオヴァスターカノンからビームが発射される。

 ビームは真っ直ぐ、サイクロンプスのファン目掛けて飛んでいくが、ファンから発せられる風に混じった鱗粉が、ビームを掻き消してしまう。

 だが、真吾はそれに構う事なく、ハンドルを操作し、カノンの照準を定める。

 今度は、鱗粉の影響のないファンの外周にビームが飛び、直撃。

 小さく火花が飛ぶと同時に、ファンの動きが鈍った。

 巨大な怪獣などを相手にするには少々物足りない威力のビームだが、それでも、少しばかり意識を逸らせるぐらいには効いたようだ。

「今だ!」

 そう叫びながら、真吾はネオアーレスをバックで急発進させる。

「こっちだデカブツ! ノロマ!」

 そんないい加減で、届くかどうかも怪しい罵声を飛ばしつつ、真吾はサイクロンプスに狙いを定めたままに、ビームを撃ちまくる。


 自身に妙なちょっかいをかけながら、ちょろちょろと動き出すネオアーレスに、サイクロンプスは一瞬、気を逸らしてしまう。

 だが、その一瞬こそが、優勢だったサイクロンプスの運命を変える事となる。


『っしゃおらァ!! ファイヤァァァ!!!』


その隙に、背後に回り込んだネオファイターが、残りのミサイルをファン部分目掛けて全弾発射。そこまで気が回らないサイクロンプスのがら空きの後頭部が大爆発を起こす。

『よし! どうだ!』

『さっすが、キダさんってば日本一! 対象のファンが一部破損!』

 牧辺の言う通り、先のミサイル攻撃でサイクロンプスのファンのうち一枚が、黒焦げになり、歪んでいるではないか。如何に人智を超えた存在だろうと、勇気と知恵があれば戦えない事はないのだ。


 おぞましい呻き声を上げるサイクロンプス。だが、これで頭部のファンを使う事はできない。

 サイクロンプスは無理矢理にでもファンを回そうとするが、ファンは軋む音を立て、微細な振動をするだけ。そこを見逃さない手はない。

 攻撃が止んだと同時に、ロボはサイクロンプスに向かって突撃。手始めに右腕上部に来ていた青い船の船首部分を拳に移動、ブラスナックルのようにしたかと思うと、先端から衝角が飛び出す。その衝角で、何度も殴る、殴る、殴る!

『うわ……ありゃ痛いぞぉ……』

 更に左の拳と一体化している桃色の潜水艦でも、殴る、殴る、殴る!

 怒涛のラッシュに、サイクロンプスもまるで反撃できない。

 と、ある程度殴ったところで、ロボが数歩後ずさる。サイクロンプスは、既に足下がおぼつかなくなっており、目に見えて形成が逆転してしまっている。

『ん? ロボが下がった……』

『まずい! 総員退避! 急げ!』

 琴山キャップがそう叫んだ瞬間、ロボの右腕の船首が元に戻り、ふたたび拳が現れる。

 ロボは露出した右手で、右側腰部のホルスターに差さっている棒のようなもの――否、剣の柄を抜き放つ。

 一見すると柄と鍔しかないように見えたが、抜き放つと同時に刀身のあるべき場所に閃光が走り、瞬く間に両刃のブレードが形成された!

 ブレードに光の粒子が纏わりつき、ロボが構える。

 そして、ブレードを天高く掲げると、粒子とブレードが一体化。長大な光の柱となった! 言わずもがな、ここで決着を着けようというのだ。

『下がれ! もっとだ!』

 過去の戦闘で、この攻撃がブライトマンでいうところの必殺光線に相当するものである事は把握済みのH.O.P.E.のメンバー達は、ロボが後ずさった時点で急速後退済みだが、どうもあのロボ、戦う度に成長を続けているらしい。次にあの攻撃がどれほどの威力になっているのか計り知れない為、余計に下がる必要があるのだ。


 そして、光の剣が振り下ろされた。


 辺り一面に響き渡る、肉と鉄を切り裂く音。そして、激しい閃光。爆発。


「うッ、あぁ!」

 ネオアーレスで離脱中だった真吾にも、爆風の余波が及ぶ。シートベルトを着用しているにも関わらず、座席から身体が浮かび上がり、ヘルメットが天井にめり込むような錯覚に陥る。

 ネオヴァスターカノン等の装備を搭載している分、並の乗用車以上の重量を誇るネオアーレスが吹き飛ばされそうになるが、ほんの数十cmだけ浮かび上がったところで爆風が止み、ネオアーレスは再びその四輪を地につけた。


「いってぇ……野郎、とんでもねぇ威力だぁ……」

 ヘルメットの緩衝材があったとはいえ、かなり強く打ち付けた為に、真吾は軽く脳震盪を起こしていた。

 その状態のままネオアーレスから降りてみれば、ざくり、という粗い砂利を踏んだような音がする。

 辺りを見回してみれば、普段は一見小奇麗な街の通りが、爆破テロにでもあったのかと勘違いしかねない程に――実際似たようなものだが――ガラスやコンクリート片の粉塵まみれになっていた。

 遠くでは、先の光の剣の影響によるものか、それともサイクロンプスの攻撃によるものか、何本ものの煙が立ち上っている。


「あんにゃろう……守る為たって、やり過ぎだろぅがァ!」


 ブライトマンがいた頃は、被害もまだマシだった気がする。そんな思いが、真吾の中にあったとか無かったとか。

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