チャラ男と裏切り

 俺が通う竹陽高校は普通科・音楽科・体育科にわかれており、県内では有名な進学高だったりする。

 初代学園長が「文武両道」教訓として掲げており、長年普通科のみであったが、部活動で数々の成果があり、専門性も活かすという考えから三科生として今の形になったのだ。

 これまで俺は、親の勧めで幼少期からピアノスクールに通っており、日々音楽に関わる生活を送る中でいざ進学となったときに、音楽科に進学する道を選らんんだ分けだ。

 正直、将来は音楽関係の仕事に就きたいとか思ってるわけでもないし、ただただ惰性でここまできちゃいました。的な感じになっている。

 一つこれまでの音楽生活の中で良かったと思う事は、作り手として曲を手掛ける際にこれまでの生活が活かせるという所だ。

 ありがとう、平凡な日々。そして、よろしく、俺が作った曲を聞いてくれるであろう視聴者の皆様、どうかどうか……。

 そう願いながらいつものように暇さえあれば携帯を取り出し自分が投稿した作品ページを開き、再生回数を確認する。

 溜息しか出ない。これまでに投稿した作品は五曲、ポップス系とバラード系の二つの種類にわかれる。三作品目で再生回数四桁に到達する事ができ、この流れに乗れとばかりに四曲目、五曲目と投稿をしてきたが奇跡の三曲目という称号手に入れる空しい結果となってしまった。

 たしかな実績がほしい。作り手として活動していると胸を張って言える様な栄光が。


「だがしかし、そこで立花に衝撃が走る!」

 

 いきなり耳元で話しかけられ衝撃が走る。

「なにが衝撃だよ。お前がそのネタばっかり使うのが衝撃だよ。言うて今お前がハマってる漫画に察しがつくわ。」

 俺はそのマンネリ化した発言をする張本人に言い放った。


「ご名答だな、立花。お前だけだよ、こんなにしっかり反応してくれるやつ。とりあえず、飯行こうぜ。学食混んじまうぞ。」


 あっという間に時間が過ぎて、昼の十二時を過ぎていた。

 昼飯に誘ってきたコイツはクラスメイトでチャラ男の今枷大輔。

 一年の頃からクラスが一緒で、コミュ力が抜群に高く、それに加えてイケメンというずるいステータスの持ち主である。

 ただでさえ、男子が少ない音楽科に入学したもんだから女子からの注目の的である。

 許せん! そのチートなステータスを俺にも分けてもらえないだろうか……。


「学食行くには少し出遅れてるし、混んでるだろうから俺は購買でパンでも買って食べるからお前だけで行ってくれ。」

 うちの学食は三科共有であり、昼の学食は席の取り合いで殺伐とした雰囲気がある。


「いんや、それは大丈夫だ。里香ちゃんと詩織ちゃんが先に行ってるから席とっておいてくれてるはずだ。」


 そうくると思ってたよ俺は。お前はご招待されてるんだよ……俺はお前のオマケにはなりたくないだけだ。


「それならなおさらお前は俺を待つ必要は無い! 早く行ってやれよ、購買までは一緒に行ってやる。」

 

そう言いながら俺と今枷は教室を後にし、食堂と購買に向けて廊下を歩く。


「本当つれないな、たまには同じ音楽を学ぶ仲間同士のふれあいも大事だぞ。得に異性との関わりは今後の人生に大きく関わって――」


「たしかにそうだな、お前の言うとおりだ。だがしかし、俺は空気が読める、そんな人間になりたい。」


 空気を読む大事。羨ましい気持ちは一切無いぞ、絶対にな。


「立花って面白いよな。なんかこう人とは違う感性があるっていうかさ、実際に曲作って動画サイトに投稿してるんだろ? なんかカッコいいじゃん」


「簡単に言ってくれるなよ。結構大変なんだぞ、だいたい昨日投稿した曲だって――」


 ちょっとまて! こいつなんで俺が動画を投稿してる事を知ってるんだ?

 俺が作り手として活動していることは幸子くらいしかしらないはずだ。なのにどうしてそれを……。


「おっ! 新しい曲投稿したのか! んじゃ今日家帰ったら聞いてみるわ『ゆたはなP』」


 まてまて、よく考えろ。


 リアル情報は一切ネットに公開してはいない=こいつが知る由も無い=?


「このまま行けば『ゆたはなP』も人気作り手の一員か!? 幸子ちゃんも超喜んでくれるな」


 さちこぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~!

 おまぁええええええええええええええええええええええ~~~~~~~~~!


 今からダッシュで普通科の校舎に向かい物申したい。


「でもこうやって傍に応援してくれる人がいるっていいよな。幸子ちゃん、嬉しそうに話してたからさ、なんか俺まで応援したくなってきたよ! お前も隅におけないヤツだよ」


 まぁ、そう言われると悪い気はしない。わざわざ普通科に乗り込むのも疲れるし、とりあえず、後で覚えておけよ幸子。


「応援してくれるのは素直に嬉しい! でも、今枷よく聞いてくれ……俺が作り手として活動してることは……」

 

俺は今枷の両肩をがっしりと掴む


「この事は誰にも言うんじゃないぞ!ぜったいにだっ!」


 今枷は一体どうした!? といわんばかりに戸惑いの表情を見せた。


「お、おう!男の約束だ。親友として、立花の活躍を応援している事も忘れんなよ」


 満面の笑みで今枷はそう告げ、ぐっと親指を突き上げた。男の約束とまで言われるとは、なんか熱い男同士の友情も悪くない。


「今枷、お前って意外にいいやつかもな……なんかチャラチャラのチャラ男だと思ってたよ」


「そんなに俺って評価低かったのか!? チャラ多すぎるし、正直悲しいぜ。」

 嘘っぽい悲しげなオーラを出すチャラ男、もとい俺の中でランクアップし優男となった今枷がだいぶ頼れる友人の一人だと再認識した。こういう所もイケメンの要素なんだろうな。


「とりあえず、俺は急ぎで学食行ってくるわ。さっきからスマホがなりっぱなしだしな。里香ちゃん達怒ってなければいいんだけど……」


「おっとごめん、なんか引きとめちゃったな。行ってくれ。」


 里香ちゃん、詩織ちゃん、今枷は悪いやつじゃないのでどうか許してやってほしい。

 たった今親友として認め合った同士だ、友を想うのが親友って……やつだろ?


 そんなこんなで今枷とは別れ学食へと続く廊下を走って向かう今枷、俺は親友を送りながら購買へ続く廊下を歩く。

 すると、今枷は廊下の曲がり角で後を歩く俺に振り向き――


「あ、遅れた理由は立花につかまってなかなか行かせてくれなかったって事にするわ、わりぃな。」

 その一言を残しながら、颯爽と俺の視界から消えて行った。


 親友という言葉の本当の意味を俺は知りたくなった。

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