第49話ハイフレイムリザード

 フローラ達へ、何故オレが異常なまでに強さに執着するのか理解してもらった。

 だが、レムは浮かない顔のまま“復讐ではなく助けるではダメなのか“と聞いてきた………オレはすぐに答えを出すことは出来ずに困ってしまった。

 もちろん、ミラ達を取り戻す為ならば何でもするつもりだ、それが殺すという選択でも迷わないだろう。

 フローラに会う前ならば絶対に殺すと言っていただろう………だがフローラと共に過ごした時間がオレの復讐心を鈍らせた、今は助けるだけで良いのではないか? とすら思える。


「ここが新階層ですか! なんか蒸し暑いですね。

 主様 平気ですか?」


 階段を降りている最中に問われ考え込んでいる内に新階層に来てしまっていたようだ。

 それにしても、草の一本も生えてねぇーな。

 遠くには火山が噴火をし、マグマが溜まったような池があり、地面や岩の温度は高く素手で触ると火傷する。


 前の階層ではゾンビ系統の魔物ばかりだったから食料がマジックバックに蓄えたおいた物を食べていた。

 そのせいかマジックバックの中身はほとんど無くなってしまった………これは、一旦食料を補充しなければ。

 それにこの暑さだ、飲み水も必要だ。


「よし! まずは食料と飲み水を確保しよう

 一応、蓄えがあるけど1日分程だ」


「水魔法なら使えるようになったぞ、この魔導書グリモアでな!

 ふん! 誉めろ」


 これは好都合だ、いや待てよ………水魔法の水って飲めるのか? 泥水とか出てこないよな? 魔力を水に変えた物だから体に入れても魔力として分解されるんじゃないのか?

 それに誉めろと胸を張っているが魔導書グリモアの力だろうが! 全くすぐに調子に乗る。

 こっちは色々と迷っていると言うのに。


「水魔法の水は飲み水として使えるのか? レム」


「えぇ大丈夫です。主様」


「ならそれでいいや、あとは食料か………やっぱここの魔物だよな! よっしレベルも上がって食料もゲットだ!」


 オレを含めフローラもこの階層に来て、まだ数十分だというのに体中からは汗が吹き出ている。

 土人形ゴーレムであるレムは汗1つかくこと無く平然と立っている。


「レムは暑いの平気なのか?」


「ゴーレムですから、まぁ~これくらいなら大丈夫ですけど、流石に火山の火口ぐらいの温度となると危険ですね」


 フローラの服は徐々に汗で濡れ始め、フローラの艶かしい体に張り付いていく。


 いかん! これは幻術だ………本当はぺったんこだ! 忘れるな、ぺったんこ、ぺったんこ。


「なんか失礼なこと考えてねぇーか?

 あっ………み、見んじゃねぇー」


「すっすまん」


 フローラは自分の体を抱き寄せるように体を隠し後ろを向く。

 幻術だとしてもこれはフローラの3年か5年後の姿だ………成長すればこんな美人になるという事だ。

 もはや最初に会った時の姿が思い出せない。


「主様、羽織れるような服や布をお持ちでは無いですか?」


 レムは冷静に判断し体を隠せそうな布を持ってないか聞いてくる。


 だが残念なことに替えの布など持っていなかった。

 オレの替えの服ならあるが、洗濯していないやつしかない。


「すまんが、無いんだ。

 洗ってないやつならオレの替えの服があるんだが」


「それでいい、速く! くれ」


 フローラに言われるがままマジックバックからオレの替えの服を取り出しフローラに渡す。

 フローラは何の躊躇いも無しに後ろ向きになり服を着る。

 男用のサイズだから大きいだろうが、大丈夫だろう、小さいと汗で体に張り付いてしまう。

 大きければ体と服に隙間が出来るから風邪が通るから汗なんてすぐに渇くから体張り付かないだろう。


「お、おい! 本当にいいのか、汗臭いだろう?」


「そんなこと気にするか」


 フローラは怒ったように右を向き、オレと目をあわせようとはしない。


 確かに少し見てしまったけど、服まで貸したのに………傷付くなぁ~。


「そ、そう。じゃー魔物を探しに行こう」

 

「分かりました。では魔物の索敵お願いします」


 オレはフローラに返事をし、聴覚鋭敏化を使い魔物がたてる音を聞こうとする。


 ………くそ! 色んな音が邪魔してわかんねぇー


「ごめん、色んな音が邪魔してわかんねぇー」


「そうですか………では私が直接探して来ます、そして囮となり魔物を引き寄せ合流しましょう。

 私は主様の居場所が分かりますのでご安心を」


 とレムは平然と囮役を言い出すが、いくらレムとはいえまだステイタスや能力が分かっていない魔物が相手では不安だ。

 ダンジョンによって違うかもしれないが、いきなり強い魔物が現れる可能性だってある、ミノタウロスもそうだった。


「あぶねぇーよ! なぁ~オレが行くよ。オレなら幻惑魔法あるし」


「どっちもダメだ

 レムの力なら任せられる………と言いたいが、ここはダンジョンだ! いきなり強い魔物が現れる可能性がある

 それにフローラ、お前だって危ない。

 もちろん幻惑魔法は強力だ………だが、前の階層のゾンビ犬を忘れたか? アイツらに幻惑魔法は効かなかっただろ?

 そういうことだ

 ってな訳で皆で行こう」


 そのままオレたちは魔物を探す………が一向に見つかる気配がない、いつもならば聴覚鋭敏化によって魔物がたてる音が聞こえるのだが周りの音のせいで聞き取れない。

 くそ! 聴覚鋭敏化の能力スキル以外にも索敵系統の能力スキルをコピーしとけばよかったか。


「あの……主様? やはり私が囮になりましょうか?」


「いや、ダメだ危険過ぎる」


「魔物が寄ってくるように騒ぐとか、どうよ?」


 フローラがまたアホなことをいい始めた、仮に魔物を呼び寄せることが出来たとしても1体がくるとは限らない。

 オレは今まで複数に対して戦ったことがない、いつも1体の魔物を見つけ、拘束し、殺してきた。

 そんなオレが同時に相手できて最高でも2体だ。


「いいですね! あぁーーーー」


「わぁ~ーーーー」


「やめっ………くっ」


 オレが止めるのも聞こえないのかレムとフローラは大きな声で魔物を呼び寄せる。

 聴覚鋭敏化の能力を使ったままだったオレは近くから放たれる大きな音に強烈な目眩を起こす。

 急いで聴覚鋭敏化の能力を解くがオレの体は強烈の目眩によって崩れる。


「おい! 大丈夫か、リクト」


 フローラは心配そうに駆け寄ってくるが、何故こうなったか理解していないようだ。


「………うっうるさい」


 オレは強烈な目眩の中一言だけ言い、回復魔法を耳中心にかけていく。

 レムは土人形ゴーレムだと言っても皮膚の色は土色って訳ではなく、完全な肌色だ、それが自分の行動がどんな結果を招いたのか気付きどんどんと肌色が青ざめていく。


「おっお前ら………周りを見ろ」


 レム達が騒いだお陰か、周りにあった溶岩の池から真っ赤な体をしたトカゲが這い出てきた。

 大きさは全長五メートルはあるだろう、高さ的に見ると二メートル程の大物が3匹。


「申し訳ありませんでした! 主様よ

 ここは私にお任せを!」


 レムはオレを気遣う用にトカゲに突進していくが、3体も相手する事など出来ず2体がこちらに向かって歩いてくる。


「くそ! フローラ、1分持ちこたえてくれ」


「わ、わかった」


 フローラは1体に幻惑魔法をかけ、無力化しもう1体は雷魔法を使い足止めしている。

 トカゲ型の魔物は様子を見るかのように攻撃を避け、耐える。

 遠距離型のフローラはトカゲ型の魔物に近付かれ尻尾で叩かれ遠くまで飛ばされてしまう。

 標的が居なくなったトカゲ型の魔物は標的をオレに移し近付いてくる。


「もう少し………よし!」


 トカゲ型の魔物に食われそうになる直前になんとか動けるまで回復し牙から逃れることに成功する。


「あっぶねぇ~………お返しだ! アースランス」


 アースランスを作る、固さは最大まで固くし発射速度も最大にして発射する。

 アースランスはトカゲ型の魔物が反応する事も出来ずに貫くかと思いきや、トカゲ型の魔物の鱗は凄まじく固く、オレの作ったアースランスなど鱗が微かに傷付く程だった。


「……はは。マジかよ、どんだけかてぇーだよ」


「リクト………大丈夫か」


 どうやら、吹き飛ばされたフローラが戻ってきた用だ。

 二人がかりでもコイツは倒せるかどうか分からない。


「アースバインド!

 フローラはもう1体の方を頼む」


 赤いトカゲ型の魔物はアースバインドによって拘束される。

 どうやら力などは無いようだ。

 っていうことは防御力が異常なまでに高いのか………そんなことはどうでもいい!

 ステイタス閲覧と能力閲覧を使えば何か使えるものがあるかもしれない。



 《個体名:フレイムハイリザード

 魔物ランク S

 注意点、非常に高い防御力を持っており傷付けることすら困難。

 打撃でダメージを与えることは困難だが魔法による攻撃は有効。

 だが、力は防御力ほど強いわけではない。


 また、肉は非常に栄養価が高く美味である。


 獲得可能能力 硬化 防御強化 鋼鉄化 打撃耐性 斬激耐性 刺突耐性 炎無効 熱無効》


 ステイタス平均値 5000~6200


 硬化や鋼鉄化などの能力も魅力的だったが今の状況で一番必要なのは熱無効だろう、オレは迷わず熱無効の能力をコピーする。

 コピーした瞬間、周りを包む不快な暑さは嘘のように消え去った。


 意外と能力が少ないな………そうかコイツは防御力だけ異様に高いやつみたいだな。

 それなら………ってオレって使える攻撃系統の魔法って大地魔法と火炎魔法だけじゃね? アイツらに火炎魔法は効かないし………大地魔法は効かなかったし。

 詰んだ。


「あれだ! 最近はゾンビとかで使いづらかったけどあれがあるじゃないか!」


 オレは拘束され身動き一切取れなくなっているフレイムハイリザードに触れ能力スキルを発動する。


「ドレインタッチ!」


 レベルが低かった時はMPを回復する手段でしかなかったが、レベルが上がった今だと吸い取る量も増えてフレイムハイリザードはどんどんと衰弱していった。

 最後には硬化するMPすら残らず瀕死の状態までになった。


「よし! あと2体も………っと終わっていたか」


 フローラは雷魔法により、レムは防御力を越える剣術で倒したようだ。

 どうやら、どちらも苦戦したようだ、あちこちに傷が見える。

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