第45話勘違い

 目覚めるとレムが一瞬誰かわからなくて戸惑った。


「だっ………あっレムか」


「ちょ! 主様よ 今、私の存在忘れてませんでした?」


 レムはオレが目覚めたのを確認すると、なにやら声をあげる。

 いや、以外とこういうことってあるよね? 寝る前のことって以外に忘れてたりする。


「すまん、寝ぼけてた」


「………まぁ~いいでしょう」


「なぁ~リクト、レムの力を見ようぜ」


 オレは適当にレムに言い訳をするが、レムはしぶしぶではあるが認めてくれる。

 フローラは速くレムの力が見たいみたいだ………オレも見たいし、そろそろ戦うか。

 レベルも速く上げたいし、魔将級になってようやく復讐の兆しが見えてきた、あともう1段階上がると準魔王級になる、あとどれだけの歳月がかかるか分からないが、必ず成し遂げミラを取り返す。


「だな、そういえばオレが寝ている時は襲われなかったのか?」


「いや、二回くらい来たけど幻惑魔法で追い返した」


 フローラがさも当たり前のように言う、がそれってかなり凄いことじゃないのか?

 フローラに聞いてみるが、追い返すこと自体はそこまで難しいことじゃないらしい、向かってくる相手にオレたちが居たことを忘れさせ、オレたちの姿が見えないように幻惑魔法を組めばいいらしい。


「そっか、あっそう言えばレムってフローラの姿がどう見えるんだっけ?」


「えっ………女児の姿にしか見えぬのですが、何か間違っておられますか?」


 レムはフローラをじっくりと見て悩むが分からないといった表情になり、逆に質問を返してきた。

 やっぱりか………オレは常に幻惑魔法をかけられたままだからフローラの姿は超綺麗な大人の女性の姿に見えるようになっている、いや、確か3年後か5年後の姿を見せるようにしていたはず。

 常に幻惑魔法がかかったまま状態にしてあるのはフローラの種族が影響している、幻魔という種族は他者を惑わすだけでレベルが上がるという特殊な種族だったのだ。


「やっぱりか………よし、フローラが今からお前に幻惑魔法をかける。

 まぁ~戦闘に悪影響がないから心配するな」


「あっはぁ~主様がそこまで言うのでしたら」


 レムは納得のいかないような感じを残したままフローラがかける幻惑魔法を待つ。


「いきなりだな、まぁ~いいや。

 レムこっちに来てくれ」


「では、お願いしますぞ。フローラ殿」


 レムはフローラの前に正座し目を閉じる、あれ? 目を閉じる必要あったっけ? まぁ~どっちでもいいことだよな。

 確か俺の時は目を開けたままだった気がする。


 フローラは両手の間に魔力を溜め、複雑な幻惑魔法の構成を作っていく。

 前にやった時はもう少し時間がかかっていたはずだが………一度やったから早かったのか? いや、フローラが成長して早くなっただけかもしれない。

 フローラは出来上がった魔力の塊をそっと持ち上げ、レムの頭に落とす。

 魔力の塊はレムの頭に当たると溶けるように消えていく。


「終わったぞ」


「う………む、誰だ貴様! フローラ殿をどこへやった!?」


 まさに早業と例えるのが1番しっくりくるような速さで背中の剣を手に持ちフローラの首に押し当てる。


「うお、待てってオレがフローラだって! いやマジで」


「嘘を言うな! 貴様のような女など知らんぞ」


 レムは今にも切り殺そうな程怒ったようにフローラを睨み付けている。

 なんか、ヤバいことになったな………ちゃんと説明すれば良かった。


「待て、レム! フローラの言っていることは本当なんだ!」


「どういうことなんです、主様よ」


 レムは剣の切っ先をフローラに向けることを止めることはなく、警戒心を捨てない………出会って数時間程度しかたっていないがレムの性格が何処かリーズに似ている気がする。

 誰かに忠義を向けるってことは何処と無く似てくるか………まぁ~今回はその忠義がオレに向いているわけだが。

 なんか少し申し訳ない気がする……そこまで凄い奴じゃないのに………何も守ることのできない、醜く足掻いて自分だけ生き延びてる。

 こんなオレをミラは許してくれるだろうか。


「……おぃ…おい! リクト、聞いてるか? 速く説明してくれ!?」


「あっごめん、考え事をしてた。レム、そいつは敵じゃない、フローラだ」


 フローラは剣を突きつけられたまま目だけをこちらへ向け必死に助けを求めていた。

 っていうか、レムも少し考えれば分かるだろ、幻惑魔法をかけられた直後なのだから。


「主様よ、どういうことか説明して頂きたいです」


「いや、さっき幻惑魔法をかけられたじゃん、その幻惑魔法の効果がフローラの姿を今とは違う姿へと変えるものだったんだ」


「なるほど………そういうことでしたか。それならば先に言ってくださればいいのに

 知らぬこととは言え、すいませんでした。フローラ殿」


 レムは突き付けた剣を引き下げ背中に戻す、フローラに謝罪する。

 フローラは突き付けられていた剣が引き下げられると一安心したようで、ほっと息を吐いた。


「いや、レムは悪くねぇーよ。それより、リクトちゃんと説明しろよ!

 まったく………ビビったわ!」


「す、すまん。それよりさ、レムの力を見ないか? ほら、オレ寝ちゃったから見れなかっただろ」


 フローラの勢いに押され謝ってしまった、オレはこれ以上フローラに言われまいと話題を変える。


「そうでした! 主様よ。速く私の力を見てください

 必ず、お役に立てることを証明致します」


「楽しみにしてるよ」


「それじゃー魔物を探さなきゃな」


 オレ達は魔物を探すため行動を開始した、無駄に広い不毛の地、歩いてまわるだけで少しだけ憂鬱になる。

 所々に、はえている木がさらに寂しさが増していた。


「居たぞ、あそこだ!」


 オレは聴覚鋭敏化を使い、微かに歩く音が聞こえた方向に目を向ける。

 かなり小さくではあるが、最初に出会った種類のゾンビがゆったりと歩いていた。


「主様よ、私が行ってきます!」


 レムはそう言うとオレの静止する声も聞かずに走り出してしまった。

 オレも追いかけるがなかなか追い付けない。


「お、おかしい………ステイタスでは勝っているはずなのにっ!」


 確かに数秒ほど遅れて走り出したとはいえ、差が縮まるならまだしも、広がるなんておかしい………いや、あいつの能力スキルに瞬脚があったが、あれほど効果があるならばオレも覚えておけば良かった。

 確か、覚えられた機会があったはずだ、能力コピーの選択を間違えたか?


「ちょっっ! 待ってくれよ」


 オレのかなり後ろにフローラの姿があった、速さはオレに劣る。

 散々、悩んだ末オレはフローラを置いていきレムの方へ走る。

 フローラならば1人でも平気だが、レムの力はまだ不安が残る、いくらステイタスが優れているとはいえ、ここの魔物に通用しない可能性が高い。

 ここはフローラには可哀想だがレムを優先すべきだろう。


「すまん、先に行く。何かあってもお前なら大丈夫だろ?」


「おっ、おぉーい。そんなぁー」


 フローラは走る速度を緩める、座り込んでしまう。

 オレはそんなフローラを見るとレムを追いかける、レムはもうゾンビの間近まで近付くことに成功している。


「レム、戻ってこい! 行くな」


「大丈夫ですよ、主様よ。見ていてくだされ」


 レムはそう言うとオレとの差をさらにあける。

 まだ、速くなるのか! くそ、話を聞けよ。


 ゾンビは近付かれたことに気が付いたようで、赤く光る無気味な目をこちらへと向ける。

 オレの体は硬直し動かなくなる、が、レムは動けなくなるどころか、遅くなることすら無くゾンビの首を切る。

 光る不気味な目は力を無くし、虚ろな目へと変わる。


「ふっ、手応えがない」


「レム! よく見ろ!」


 ゾンビは確かに首を跳ねたが………それだけで死ぬなのならばオレたちは苦労していない。

 オレは自由になった体を使い、レムとの距離を縮める。


「バカ! 勝手に行動するな!」


「す……すいません、主よ。少し調子に乗りました」


 ゾンビはこの間に頭を拾い上げ自分の首と接着させる。

 くそ、これだから超再生持ちは嫌なんだ!………オレもか。


「今はそんなことどうでもいい! やるぞレム! アースバインド」


「首を切り落として生きてるなんて、どれだけタフなんですか!?」


 ゾンビはアースバインドを切ろうと力を込めているが、オレの上がったステイタスから作られたアースバインドはゾンビの力を持ってしても切ることは出来なかった。

 オレも超再生を持っているが………首を切り落として平気という確証はない、もしかしたらゾンビは元から丈夫なだけかも知れない。


「面白い……ここは任せてくれませんか? 主様よ」


 レムの雰囲気は一気に変わり、目の前の敵に向けられている邪悪な笑みを浮かべるレムは悪魔だと思い知らされた。自分に向けられていないとは分かっていても恐ろしい。

 今まで向けられていたのは甘い顔だったことを痛感させられた。


「お、おう」


「ありがとうございます………少々お見苦しい姿をお見せすることになるやも知れません」


 レムはオレに一礼すると、背中に装備していた白銀の剣と漆黒の剣を両方を手に持ち構える。

 レムは素早く移動し、ゾンビを拘束していたアースバインドを切る。

 なに、やってる! せっかく拘束したのに!!


「やはり……戦うのならば正々堂々と」


 なんか、謎理論でレムはゾンビの拘束を解きやがった。

 なんか、オレが入っていけない雰囲気だし、このゾンビの能力でもコピーするか。


 《種族名:アシッド リビングデット

 魔物ランク A~S

 注意点、この魔物から放たれる酸は非常に強力、その酸に触れてしまうと最後骨すら残さず溶かされてしまう。

 また、生命力が強く心臓を潰そうが生きている。

 魔法で倒すのが理想的なのだが、個体によっては耐性などを持っているため非常に厄介である。

 また、速さは無いが。力は非常に強く、か細い腕からは想像出来ないほどの怪力を有する。


 獲得可能能力 強酸魔法 闇魔法 光属性耐性 刺突耐性 打撃耐性 斬撃耐性 食再生 生者憎悪 威光 超再生 闇の祝福》


 やはり、名前から察するにオレの動きを止めているのは威光という能力だろう。

 まぁ~違ったら他のゾンビから能力をコピーすればいいか。

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