第25話ファガロスの町

 不気味な雰囲気も無くなり風は爽やかにリクトの頬を撫でる、あまりにも雰囲気が変わり過ぎていたことを少し疑問に思ってしまう。

 あの、不気味な雰囲気は何処から来たのであろう? もしかしたら気のせいだったのかも知れない初めて来た場所で見たことも無い魔獣と戦うというのが関係していたのかも………またはオレの中の何かが魔獣の群れを察知していたのかだろう。


「じゃーオレたちは町に戻るぞ。何かあれば絶対に借りは返させてもらうぞ!」


「何かあれば私に言いなさい! 聞くだけ聞いてあげるから!」


 助けられたくせに偉そうだな! アイシャは元々そういう性格なのだろうガムロやサリアがアイシャを見る反応で容易に推測できた。

 瞬雷の剣のリーダー、ガムロは両手剣を背中に装備しオレたちに背を向ける。

 あとに続くようにサリア、アイシャも歩いて行ってしまった。


「キャラの濃い奴だったな」


「そうだな。だが人間の貴族はだいたいあんな感じ、だと聞くぞ」


 何故知ってるかはさておき、貴族がやるとなると納得出来るな、生まれてからずっとそんな感じでしか他人と接したことがないのだろう。

 見下すような態度をしていてはいつか問題を起こしそうだ。


「オレたちはこれからどうするんだ? アイアンゴーレムは3体どころか10体以上倒してるしクエストはこれでクリアだろう」


「そうだな………もう少しかかると思っておったのだが、リクトの訓練が速く終わってしまって予定が狂ってしまったな」


 正直あの訓練はもうやりたくない、けどやりたくないなんて言ったらどんなことになるんだろうか。

 リーズが悲しんでしまうところを見るのは見たくない、もしかしたら、、訓練がさらに壮絶な物に………。

 あまりの恐怖に身震いしてしまう。


「どうした、リクト?

 そんな拷問される前のような顔をして」


 拷問か………あながち間違いじゃないところが恐ろしい。

 正直どんなことされたかすら思い出したくない。


「いや、なんでもないぞ」


「そ、そうな…の……か?」


「そうですよ、ミラ様! リクト様に無理矢理、訓練させてるみたいじゃないですか!」


 いやいや、実際そうだろ? もし断ったらどうなるか分かってますねって顔に書いてあったろ!!!


「そ、そうだな! すまない」


「そんなことより、戻りませんか? 町に」


 そうだ、オレは速くベッドで寝たい、硬い地面に寝るなんて嫌だ! いくらミラが魔道具で快適になったとしても所詮地面だ、固くて体を痛めてしまう。


「そうだな、帰ろうぜ! ミラ」


「帰ってもいいが怪しまれるぞ」


 怪しまれる? なんのことだ? アイアンゴーレムは3体以上倒してるし何の問題もないはずだぞ。


「なんで?」


「はぁ~リクト様は転位魔法に頼り過ぎです

 あの町からフロックス荒野まで来るのに3日掛かるんですよ? それなのに私達はフロックス荒野に1日しか滞在しておりません………それに転位魔法なんて上位魔族しか使えません。

 ここまで言えば分かりますか?」


「………。」


 リーズの話しを少し整理しよう………。


 あの町からフロックス荒野まで片道3日、フロックス荒野に滞在1日………人間には転位魔法が使えない、となると………。

 片道3日……往復6日、滞在期間1日………人間には転位魔法が使えないから今の時間から言うとオレたちはまだフロックス荒野にすらついていない計算になるということだ。

 だとするとオレたちは最低でも5日はここで野宿じゃないか!


「マジか…。野宿……」


「それじゃー瞬雷の剣が向かった町に向かうか?」


「それだ!」


 オレは少し喰いぎみで言うとミラは少し顔が引きっていたがもう嫌だ! 硬い地面に寝るのなんて一生経験したくない! でも冒険者としている以上は何度も経験しなくてはならないことなのかもしれないがどうしても嫌だ。


「で……では近くの町に行くとするか、皆もそれで構わんな?」


「分かりました」


 二人も野宿が嫌だったのだろう、二人とも嫌とは言わなかった、これで近くの町に行くことが決まった。


「じゃーオレたちも向かおうぜ!」


 オレたちはアイリスの嗅覚を頼りに人間がいる方向へと進んでいく、ミラたちと雑談しながら歩くが一向に見えてこない。

 進むこと一時間………三時間………六時間辺りは暗くなり夜行性の獣達の遠吠えが静寂に包まれていた荒野に響き渡る。


「なぁ~いつになったら着く?」


「そうですね……あとぉ~30分もあれば着くと思いますよ」


 正直体には疲れは感じなかったが精神的にはかなり消耗していた

 朝からリーズから訓練拷問を受けたり、かなり手強いアイアンゴーレムと戦ったり、種族進化して激痛に襲われたり。

 正直いろいろな事がありすぎて心が悲鳴をあげそうだ。


「町の光が見えて来ましたよ、リクト様」


 リーズに言われ顔を上げる、だが異質な町の様子に少し違和感が生まれる。

 町は鉄で作られ壁に囲まれ仰々しい雰囲気に醸し出していた。


「なんかおかしいですね? 何かあったのでしょうか」


「かもな、どうしよう何か入りずれぇー」


 遠くから見ても分かるほどの雰囲気が近くに行くとどうなるのだろう、高い壁の見張り台にいる男は時折近くにいるやつらに罵声を浴びせ指示していた。


「ここは様子を見た方が良さそうですね」


「ここでずっと立っていても始まらん! 行くぞ」


 ミラはスタスタと先に行ってしまった。

 俺たちが様子を見ようとしてるのに自分勝手に先に行きやがって

 まぁーミラが行かなかったら行くタイミングを逃していたかもしれないし結果としてはいい方向に向いているのか?………まぁーいいや。


「ちょっと待てって! オレたちも行くから」


「えっ!? ミラ様、リクトさんまで……あ~もうアイリスさん行きますよ」


 オレは先に行ってしまったミラの後を追いかけ残りの二人は後ろから追いかけてくる。

 アイリスは不安そうな表情になってしまっている。


「あ、あの! 大丈夫なのでしょうか」


「さぁー分からないけど、なんとかなるだろう」


 もし万が一、戦闘になったとしてもこっちにはミラやリーズがいるしな、どうとでもなるだろう。

 二人が本気を出したら町1つくらいなら壊滅させることも容易だろう、まさに規格外だ。


「きさまらぁーこんな時間にフルトンの町に何の用だ?」


「私達は冒険者だ、宿を取りたい」


「は? おめぇーみたいなガキがなに言ってんだ? おめぇーみたいな怪しい奴をこの町に入れることはできねぇーな。失せな」


 見張り台にいる男の言葉にオレもアイリスは恐怖する、もちろん男にではないミラの怒ることについてだ。

 リーズがあの魔法を使ってしまうかもと恐れた、もしあの魔法を使うと見張り台の男は一瞬にして殺すことができるが殺してしまうといろいろと問題が生じてしまう。

 絶対にミラが怒ってしまうだろう。


「ミ…ミラ落ち着けよ」


「あぁ~大丈夫だ、気にしとらん」


 オレの心配は杞憂に終わり安心した、だがオレの予想は思わぬところで当たってしまうことになってしまった。


「おのれ、下等生物の分際でミラ様を愚弄するか! その罪、万死に値する

 己の罪を悔やみながら死ね」


「う…うわぁ~~~」


 リーズは今にも剣を引き抜き見張り台の男の頭を即座に切り飛ばしそうだ。

 物理的に不可能な距離にいるはずなのにリーズの身体能力ならば見張り台の男に気付かれることなく首を切り飛ばすことができるであろう。

 リーズの周りにはどす黒いオーラが出現する、グレーのポニーテールはオーラと共にゆらゆらと揺れた、それは殺気が具現化したものなのだろう。

 オレに向けられたものじゃないと分かっていても恐ろしい。


「大丈夫! 気にするな。ミラは気にしてないから」


「ですが、あの下等生物は……」


「あぁ、私はそんなことでは怒らんぞ」


「そ、そうですか」


 リーズは落ち着いたのか出ていたオーラは徐々に小さくなっていった、だけど何も解決していない。オレたちは町に入ることが出来ずにいた。


「なぁーどうやったら入れてくれる?」


「は、はい!規則で素性のしれないものは入れることはできんのです」


 見張り台の男は先程とはまったく違う対応をしてきた、リーズの殺気に恐れてしまったのだろうか?………まぁー無理もないだろうあれほどの殺気だ、向けられたら気絶してもおかしくはなかった。

 むしろよく意識を保っていられたと誉めてやりたいくらいだ。


「えぇーっと一応冒険者カードがあるんだけどダメか?」


「他の町の冒険者カードですと本物かどうかどうか判断しかねるのです

 申し訳ございません」


 まぁーここから3日も歩かないと着かない距離にある町の冒険者カードなど見ても分からないのは当然だろう、う~ん………どうしようかな。

 完全に手詰まりだ。


「やはり殺して突破しましょう」


「だからダメだってば!」


 リーズの怒りはまだ収まってはいなかったようだ、また恐ろしいことを言っている。


「申し訳ございません。規則ですので」


「じゃーここから一番近い町って何処だ?」


「そうですね………ここから歩いて2日のムファーの町ですかね。ですがムファーの町も私達の町と同じように素性の知れない者を入れないと思われます」


 2日………無理だ、それに着いたところで入れないならば意味はない。


「あれ? あんたたちなんでこんなところに?

 あっ私に会いたかったのね。もぉ~さすが私ね」


「ん? えぇーと………誰だっけ?」


 確か俺たちが助けた冒険者の中にいた1人で凄く偉そうな奴だったはずだ。

 なんて名前だっけ………。やべぇキャラが濃すぎて忘れてしまった。


「もぉ~照れなくてもいいのよ。この私、瞬雷の剣、最強の魔法使いアイシャ・フローレスが目の前に居るからって」


「あっそうだ! アイシャだ!でもなんで1人?」


「聞いてよ! ガムロとサリアは先に行っちゃって置いてかれちゃったのよ!! 酷くない?」


 アイシャは両手を上下に動かしながら叫んでいる、オレはアイシャの圧力に圧倒され頷くしかできなかった。


「あ、あぁーそうか」


「それにしてもなんで町の前で立ち止まっているの?」


「それがさ、オレたちの素性が分からないから町には入れられないって言うんだよ」


「えっなにそれ! 意味分かんない

 ちょっと門兵! どういうこと?」


 アイシャの問いに見張り台の男は冷や汗を流しながら答える。


「規則なんです。魔族が出没したとの情報があり警戒していたのです」


 魔族? 初耳だぞ! よそ者だから教えないってことかよ!………まぁー当たり前か。


「ふ~ん、そう。じゃーこの人たちの身柄は私が保証するわ! もし犯罪など犯せば私を死罪にしてくれたって構わないわ」


 いきなり何を言っているんだ、コイツ!

 いくら助けたからってそこまで信頼するもんなのか!!

 ほら! 門兵もびっくりして声も出せてねぇーよ!


「おい! 大丈夫なのかよ!!」


「えぇ、大丈夫よ。信頼してるから」


 おいおいおい! マジかよ。コイツ大丈夫なのかよ。

 いや信頼してくれるのはありがたいけどこんなあっさり信頼されるとこっちが心配になるぞ。

 そのうち悪い奴に騙されたりしないよな?


「わ、分かりました。それでしたらお入りください」


 門兵がそういうと門は重々しい音を出しながら開いていく。

 中には色々な建物がところ狭しと並んでいた、その光景は凄まじいの一言しか言えなかった。


「私はガムロ達と合流するわ。またね」


「あ、あぁ感謝する」


「ありがとな」


 アイシャはスタスタと慣れた足並みで町の奥へと進んでいってしまった。


「さぁ~宿屋を探すか! オレはもう寝たいぞ」


「ふぁ~。私もです」


 アイリスは可愛らしい口を開けあくびした、オレたちは宿屋を探し町のなかを歩き回った。

 だが探した結果、町の入り口の近くにあった、周り回ってようやく見つけられた。

 灯台もと暗しってやつか!

 オレたちは手早く宿の手配をして部屋に入る、少しだけ部屋を分けるか分けないかで揉めたがリーズの一言により解決した。


「じゃーおやすみ」


 オレは3人にそれだけ言うと部屋に入りすぐにベットに入り眠りについた。

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