明治からの挑戦状

楠樹 暖

謎解き明治村

 家に帰ると郵便受けに一通の封筒が届いていた。僕宛の封筒には明治村と印刷されている。裏面を見ると「博物館明治村から投函された10年前のお手紙です。宛先不明の場合は下記住所までご返送下さい」と書いてある。

 明治村とは愛知県犬山市にあるテーマパークで、明治時代の建物や乗り物などがある。朝ドラや大河ドラマで明治時代のシーンだとこの明治村でロケをされたりする。

 明治時代の風景を切り取ったような懐かしさを感じさせる場所だ。

 封を切ると中に便箋が入っていた。「はあとふるレター 色あせることなく、10年後にお届けします」という紙が巻かれている。

 手紙は10年前に亡くなった両親からのものだった。

 10年前、両親は明治村で行われていた「謎解き」のイベントに毎週のように行っていた。最初のうちは僕も一緒に行っていたが、そのうち友達と遊ぶ方が楽しくて一緒に行かなくなってしまった。

 三つ折りになった便箋を広げると母の字で「この手紙って、10年後に届くんだってー。なんかワクワクするね。お父さんが謎を出すから解いてね。(母より)」と書かれていた。

 その下にはきっちり正方形で縦10文字、横10文字の意味不明な文章が書かれていた。父の字だ。

 当時は謎解きにハマッていたので何かの謎なんだろうか?

 二枚目の便箋には明治村の建物である宇治山田郵便局のスタンプが押されているだけだった。

 翌週に二通目の手紙が届いた。

 やはり父の字で10行10列の意味不明の文字が書かれている。

 母親のメッセージは「謎は宝のありかを示すものだって。次回の手紙で最後だからね。(母より)」

 その次の週も届いた。この日は忘れられない日だ。明治村に遊びに行った両親が帰り道の高速でトラックに追突されて亡くなった日だ。

 母のメッセージは「年を重ねるっていいものね(母より)」と書いてある。

 宝のありかを示した3通の手紙。謎解きは簡単だ。10年前の自分なら悩んだかもしれない。でも今の自分なら一瞬で解ける。ヒントは母のメッセージに書いてある。

 僕は3通の手紙を重ねた。

 10行10列の文字がピッタリ重なるようにして透かしてみた。

 すると3通とも同じ文字を使っているところがある。

 その文字を繋げると……「タカラハオモイデノナカニ」と読める。

「宝は想い出の中に」これも一瞬で分かった。想い出とはアルバムのことだ。両親はよく写真を撮ってはアルバムに貼り付けていた。

 思い出すのが辛くて10年間開くことのなかったアルバムを押し入れから探し出して引っ張り出した。

 明治村で撮った写真がいっぱい貼ってある。

 蒸気機関車の写真だ。東京駅の次が名古屋駅だったんだよな。

 夏目漱石の家の写真だ。『吾輩は猫である』の猫も写っている。

 帝国ホテルの写真だ。よくドラマで見かけたっけ。

 アルバムをめくると、その時の想い出がよみがえる。

 そして、まだ使っていないアルバムが出てきた。きっとここにも写真を貼り付けるつもりだったのだろう。

 そのアルバムの中に僕名義の貯金通帳を見つけた。

 毎年、一月に入金されている。

「お年玉、貯金しておくね」

 母は僕のお年玉を預かっていた。本当に貯金していたんだ。

 10年前の自分なら喜んだだろう。今にしてみれば微々たる金額だ。全然、宝物っぽくないな。

 それよりも、想い出の詰まったこのアルバムこそが僕の宝物だ。

 切り取られた懐かしい昔の風景がそこにあった。

 今度は僕がアルバムを埋めていこう。


(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

明治からの挑戦状 楠樹 暖 @kusunokidan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ