#16 Prism

 今年の冬は例年以上に寒いと、夕食を食べながら見た天気予報で美人のお天気お姉さんは言っていた。ちなみに明日は雲ひとつない晴天らしい。

 加えて、日の入り時刻は七時前、満潮や日没は……って別に関係ないか。別に僕は漁師や釣り人じゃないしね。


 明日のことは脇に置いておくとして、ともかく寒い。


 だけれど、それでも僕は冬が嫌いじゃない。

 吐く息が白いのに何処と無く風情を感じるし、ピンっと身を裂くように張り詰めた夜の空気感も心地良い。


 雪が降り積もれば無条件にテンションは上がるし、自身の誕生日も来る。

 それにクリスマスやお正月といった公式行事だって目白押しだ。

 一体どこに気嫌う要素があるというのか? まさに鉄壁の布陣じゃないか。付け入る隙など微塵もない。


 僕は何者かに問い掛ける。

 この完璧な自説を覆せるものなら、やってみるがいいさ。不可能に挑む姿はいじらしくて嫌いじゃない。


 そうだね。


―――あえて言うなら寒いことかな。


 あっさり論破された。しかも自分に。どんな自己矛盾だよ。脳内でもう少し検討して推敲しとけよと自己批判。


 でも、それは仕方ないねと掌返し、打って変わって自己弁護。

 大体の事柄は多面的であって、好きな部分もあれば嫌いなところもあるだろう。その一部が嫌いだからって、それを含んだ全てを嫌いになるのは間違っているし、逆もまた然れる。


 この場で大事なのは、自分が理解出来ない部分があることを理解するってことだ。

 認められないことを寛容することが大事なんだよ。そうすれば些細な違いを発端とした宗教戦争とか起こらないんじゃね? 分からない上に無責任な私見だけどね。


 きっと現実はそんなに単純に割り切れるものではないし、大局的な政治とか思惑とか損得が絡んでくるし、それに加えて個人的な矜持とか思想とか意地だとか……色々な感情ものが複雑に入り交じっているから一緒くたに纏めることは出来ない。

 そんな世界の常識アタリマエ、高校生の僕だって知っている。


 どうにも難しいね、生きるって。


 それでも夜は、人を詩人にする。


 だから、こんな恥ずかしい似非哲学も考えられたりする。


 別段深い意味はないのだけれど、考えるだけなら自由で無料だ。

 誰に押し付けるわけでもないのだから、誰も迷惑しない。


 ならば、それでいいじゃないか。こんな日があったっていい。こんな夜を過ごしたっていい。


 だって人生は長いのだから。

 まだまだ僕の人生みちは終りが見えず、これから未来さきへと続くのだから。

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