#3 Light Snowfall

 激しくボイルされ俯いた表情で俯く亜希子から返事が来るまで暫しの間があった。


 …何この空気感。すごく気まずい。半端なく居心地が悪い。早く何か言ってくれ。

 昔の日本においては沈黙は金だったかもしれないが、今この瞬間の沈黙はむしろ鋼―――具体的には刃となっている。

 ってアレ? よく考えたらカネだって刃と同様に力を持っているものだし、沈黙=金=刃が成立してんのか? ということは現状の僕が身を置くこの沈黙状態は金であり刃なのか? あれ?


―――なわけねぇよ。軽く錯乱。すぐに復帰。


 何にせよ、このままの停滞じょうたいが続けば、僕のか弱いガラス細工製のハートは結構簡単に砕け散ることになるぞ?


「…信じられないよ。だってユキは嘘つきじゃん。いつも嘘と冗談ばっかりで煙に巻いてさ、本音が全然見えない。そんなのって…」

「でも、これは嘘じゃない」


 僕は即座に返答する。


 まぁ厳密に真実100%で構成された言葉かどうかは自信がなかったが、嘘100%のものでもないことは自信を持って確信を持って断言出来る。それは本当。


 だから、それは嘘じゃない。


 再び少しの静寂が僕達を繋ぐ。それを切り裂いたのはまたしても僕の幼なじみ。彼女は上目遣いで僕に笑う。

 上目遣いとは言うものの、それは小動物の様な可愛らしいものではなかったと追記しておきたい。


「ばーか。似合ってないよ。そんな気障な言い回し。君のキャラじゃないね」

「なっ」


 ヤバい。すげー恥ずかしい。なんてことを口走ったんだ、僕は。

 いや、さっきまでのは僕じゃない。僕の皮を被った宇宙人だ。

 今だから暴露するけれど、実は子供の頃フロリダ州で異世界人にキャトルミューティングされた過去を持っているんだ。それ以来時々僕以外の何者かに身体を支配されているような感覚に陥るんだ――って、当然嘘なのだけど。


 そりゃあ嘘位吐くよ。だってこんなの僕のキャラじゃない。異にする。くどいけど、マジで違うんだよ。


「でも…」


 何だ? まだ僕をいじめたりないのか? 僕の心は折れる寸前だぜ? 砕いた心を更に痛めつけようと言うのか? 死体蹴り引くわー。


 ちなみに僕は虐められて喜ぶ種類の人間ではない。

 そこそこ長い付き合いだけれど、そんなにサディスティックな一面を持ったやつだとは思わなかったぞ。アキちゃんや。


 彼女から紡がれた言葉は当然、茶化した僕の想像とは本質的に違っていて。


「本当に嬉しい、ありがとうね。私もしっかり覚えてるよ、あの約束」


 お、おぉ。デレた。サディスト(仮)が急激にデレた。別の意味で心を持っていかれた。正直ドキッとした。かなりときめいた。

 くそ、悔しいけれど可愛いじゃん。これがギャップってやつか…。


 何にせよ、彼女が覚えているということは、あの約束は淡くとも透明ではなく、しっかりと色を持った現実だったのだ。まぁ不透明なものではあるけれど。


 何となく嬉しくなった僕は思わず、意図せずに呟いていたらしい。


「叶うさ。てか、僕が叶えるよ」


 これに反応したのはサディスト(旧)の幼なじみではなく、半ば端役の様な存在と化していた役立たずのウニ頭と女神様のアホカップルだった。


 そこで気付く。彼達を認識し思い当たる。

 しまった。失言だ。迂闊過ぎるぞ、僕。

 

 こんなクールに分析してはいるが、やっぱり動揺していたみたいだ。


「ねぇアユ君、亜季子に続いてデリカシー要素欠落症のシノちゃんまでデレ始めましたよ?これについてぶっちゃけた話、どう思われますか?」

「そうですねぇ、もうどうでもいいですの。なんかもうとっとと結婚とかしたらいいのですわ。殊更興味ないので、ぶっちゃけ帰りたいです」


 そう言い残して二人は仲良く、お手手を繋いで帰ってしまった。何のために会話に入ってきたんだ? 変に話を引っ掻き回して、事態をかき乱して…。


 本当、訳分かんねぇよ。

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